第14話 お前は今日から彩花な?


 ※須藤北斗視点



 彩花と別れ、一人歩き始める。

 

 もちろん顔はいつも通り最強イケメンそのものだったが、その内心はめちゃくちゃ荒れていた。

 それもこれも全部、九条のせいだ。


「アイツ、俺の彩花に手ェ出しやがって……」


 クソ陰キャのくせに教室で、しかも二人っきりで話をしてやがった。

 どうせ陰キャのことだから彩花の爆乳を見て興奮してたに違いない。

 

「俺のだぞ……!!!」


 俺の彩花だ。

 俺の女で勝手に興奮するなんて許せねぇ!

 彩花は来るべき時に、俺がぐちゃぐちゃに犯してやる予定だ。

 なのにあんなクソ陰キャに見られ、興奮されるなんて……傷がついたも同然だ。


 ……それに、一つ気がかりなことがある。

 九条を見る彩花の目。あれは危ない。

 

 俺はあの目を知っている。

 幾度となく、何度もあの目を女から向けられてきた。

 何ならこの世の中で一番俺が知っている。


「まさか、彩花の奴……」


 あのクソ陰キャのどこに好きになるところがあるのか一切謎だが、現に雫が奪われている。

 だからこそ危険だ。別に認めてるわけじゃねぇけど。


 そして、俺の不安を増大させているのは先ほどの彩花との会話。

 以前の彩花なら、俺と話すときはもっと目を輝かせていた。

 ったく、あれで俺に対する好意を隠せてると思ってるのがまた可愛くてそそるんだが……それがさっきはあまり見られなかったように思う。


 ということはつまり、雫の時のように――あいつに横取りされる可能性がある。


「クソッ!」


 おっといけない。

 俺は須藤北斗だ。周りに誰もいないからって、ボロを出すわけにはいかない。

 落ち着け俺。大丈夫だ。

 俺に失敗なんてありえない。

 いずれ雫も俺の物になる。


「ま、明日体育祭で大活躍して、彩花をもっと惚れさせればいいだけだな」


 俺は組対抗リレーのアンカー。

 それも、三年を押しのけてのアンカーだ。

 俺が颯爽と一位をもぎ取り、浴びるのはもちろん黄色い歓声。


 その中には彩花もいて、俺にメス顔を……クックックッ。


「と、その前に」


 スマホを開き、電話をかける。


「今から行く。用意しとけ」










 路地裏に入り、地下に潜り込む。

 

 鉄の重い扉を開くと、黒服を着た男が二人やってきた。


「おはようございます、ボス」


「ご苦労」


 こいつらはガードマンのケビンとブラッディ。

 二人とも身長は2メートル近くあり、そこら辺のチンピラなら素手で十秒もあればぶち殺せる。


 そんな二人に挨拶されながら奥に進む。

 そしてもう一度扉を開くと、そこにはソファにずらりと座った下着姿の女たちがいた。


「おい、今日はこれだけか」


「はい。女子大生から地下アイドルまで、十人揃ってます。お好きな子を」


「そうだなぁ……」


 鞄を降ろし、ネクタイを緩める。

 そして女を一人一人物色する。


 ったく、どいつもこいつも似たような女ばっかりだ。

 もう抱き飽きたっつーの……ん?


「……お前、いいな」


 一人の女に目が留まる。

 しっかり者そうでどこか初心な表情。

 たぶんこういうの初めてなんだろう。

 顔が緊張して強張っている。


 それに胸も大きいし、太もももムチっとしていていい。

 顔も悪くない。

 そしてとにかく、この女は……“似ている”。


「お前、俺の前では今日から“彩花”な?」


「――え? ひゃっ」


 女の腕を取り、強引に奥の部屋に連れていく。

 ラブホを意識した、ムードのある室内。

 女を抱くためだけに用意した部屋。

 ここでは俺の欲望のすべてを叶えることができる。

 そう、すべてだ。


「きゃっ」


 女をベッドに押し倒し、馬乗りになる。


「なぁ彩花。俺のこと、好きだよな?」


「え、えっと……」


「好きだよなァッ!!!!」


「っ!!!!!」


 女の顔が恐怖で染まる。

 この表情がたまらなく――最高だ。



「……好き、です」



「あはははっ、いい子だ。彩花」


 彩花を想像しながら、女にむさぼりつく。

 この揉み心地のいい胸も、むっちりとした太ももも。

 きっと彩花の方が何倍もいい。そう、何倍もだ!


「一生俺のもんだ――彩花」


 俺のイライラをすべてぶつける。

 こいつにすべて受け止めさせる。

 

 俺は須藤北斗。

 欲しいものは全部、俺の物だ。










「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ベッドでぐったりとした女を置いて部屋を出る。


「金渡しとけ。それと、あの女はリピートだ」


「わかりました。それにしても今日はいつになくヤってましたね。相当気に入ったんですか?」


「あァ。まぁな」


「よかったです。車は表に留めてあるので」


 手下に見送られ、部屋を出る。

 すでに日は落ちていて、真っ暗な路地裏が俺を出迎えた。


「やっぱり俺が、この世界の主人公だぜ」


 きっと明日も俺の体育祭になるだろう。

 想像するだけでニヤニヤが止まらないのだった。





     ♦ ♦ ♦





 翌日。


 雲一つない青空の下、体育祭が始まった。 

 現在の種目は組対抗騎馬戦。


「キャー須藤くぅ~ん! 頑張れ~!」


 黄色い歓声が響き渡る。

 その中心で輝く須藤が、次々と敵からハチマキを奪っていった。

 

「「「「「キャー!!!!!」」」」」


 相変わらずの人気っぷりだ。


「あんな奴を応援するなんてアホね」


「あはは……」


 隣に座る一ノ瀬が今日も切れ味のいい毒舌を披露する。


「それはともかく、なんで俺に抱き着いてるんだ?」


「ダメなの?」


「いや、ダメというか」


「ならいいじゃない」


 全く気にしていない様子の一ノ瀬。

 座ってからずっと、俺の腕に抱き着いている。

 おかげで須藤の次くらいに注目されていた。


「その……当たってるから」


 完全に当たっている。

 というか押しつぶされている。一ノ瀬のたわわな胸が。


「当ててるのよ。それともなに? 嫌なの?」


「嫌じゃないけど」


「ならいいじゃない」


 もうこれ以上は何も言えない。

 この口論において、最初から俺に勝ち目なんてなかった。


「今日も随分と仲良しなんだね?」


 花野井が背後から声をかけてくる。


「そう見えるか?」


「すっごく!」


「そ、そうか……うおっ!」


 すると一ノ瀬がさらに俺の腕に抱き着いてきた。


「そうなの、すごく仲良しなの。それはそれはあなたが想像できないほどに、ね?」


「へ、へぇ。そうなんだ!」


 一ノ瀬の花野井を見る目が怖い。

 それと俺の腕が痛い。うっ血しそうだ。


「そういえば」


 苦笑いを浮かべた花野井が話題を変えてくる。

 しかし、それがよくなかった。




「昨日はありがとね?」




 その瞬間、一ノ瀬の雰囲気が変わった。



「…………は?」


 




 

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