第12話 論破されるクソ女+デジャブ須藤


「もうやめたら?」


 思わず声をかけてしまう。

 まさか体操着を忘れて戻ったらこんな状況になってるなんて……。

 でも、さすがに見て見ぬふりはできなかった。


 それに俺はこうなるかもしれないと思っていた。

 ここ最近感じていた、不気味な雰囲気の正体。

 それは花野井に対する、千葉たちの嫌悪の感情だったから。


「は? 誰あんた」


「ほら佳奈子。一ノ瀬さんの……」


「あぁ、あの陰キャかww」


 陰キャで覚えられているのか。

 いや、間違いじゃないけど。


「何、やめたらって。ヒーロー気取り?w マジキモイんですけどwww」


「あ、もしかして九条、花野井さんのこと好きなん?w絶対そうでしょwww」


「やっぱり陰キャに好かれてんだwww狙い通りでよかったね!wwww」


「っ……」


 花野井の表情が歪む。


「し、失礼だよ、九条くんに」



「「「……は?」」」



 花野井の言葉に、女子たちが明確に苛立った。


「何あんた、この期に及んでそういうこと言うわけ?」


「やっぱりこいつマジでキモイわ。善人気取りやがって……!」


「でもよくないよ! 陰キャとかそういう風にクラスメイトを悪く言うなんて!」


「っ!!!」


 さっきまで委縮していた花野井が言い返す。

 あんなに自分のことを言われても黙っていた花野井が、だ。


「アッタマきた。あのさ、ちょっと周りから好かれてるからって、調子乗ってると――」



「だからやめろよ」



 強引に話を遮る。

 すると千葉が俺のことを睨んだ。


「黙ってくんない? 陰キャに発言権ないからwwww」


「それは俺が学校でのカーストが低いからか?」


「そうに決まってるでしょ? 身の程わきまえてくんない?ww」


「なら、身の程わきまえてないのは千葉たちもじゃないか?」


「……は?」


 千葉が俺を睨む目をより険しくさせる。

 しかし、これで怯むような俺ではない。


「だってさ、千葉たちより花野井の方がカースト“高い”だろ。千葉の論理で言えば、千葉たちに花野井をとやかく言う権利はない」


「ッ!!!!」


 うろたえる千葉たち。

 俺は続ける。


「花野井はクラスの委員長で、しかも美少女四天王って言われるほど男子からの人気も高い。普通に考えて、学校の地位で言ったら花野井はトップクラスだ。それで千葉たちはその四天王の中に入ってるのか?」


「そ、それは……」


「もちろん容姿がすべてとは思わない。けど、花野井はクラスで色んな人に慕われてる。それは同じクラスならよくわかるだろ」


 これで黙り込んでくれたらよかったのだが、


「あ、浅いからそんなの。だってこいつは善人ぶってるただのぶりっ子! そんなんで人気集めても意味ないから!」


「でもさ、“人気だから”千葉たちが嫉妬してるんだろ? さっきの話聞いてる限り、千葉たちが花野井のことをひがんでるようにしか聞こえない」


「なっ! あ、あんたねぇッ! さっきからペラペラとうるさいのよ!!!」


「散々花野井に言ってた千葉たちの方がうるさいだろ。自分を棚に上げるのはやめてくれ」


「ッ!!! 九条ッ……!!!」


 千葉が俺の方に一歩踏み込んでくる。


「陰キャは黙っててッ! なんの取柄もないくせに!!!」


「それはそうかもな」


「クッ……こいつ!!!」


 俺が全く相手にしないとわかると、また花野井の方を見た。


「よかったね。クソ陰キャにフォローされてwww」


 そしてもう一度、嘲る笑みを浮かべて俺を見る。 


「でも知ってた? こいつは須藤くんに好かれたいために善人ぶってた偽善者だから! 九条なんてただの踏み台だよwwwww」


「そんなことない!」


「偽善者は黙ってろッ!!!!!!」


「っ!!!」


 もうこれ以上見てられないな。

 早く終わらせよう。


「……須藤に好かれたいのは千葉たちだろ?」


「ッ⁉」


 三人が驚いたように俺の方を見る。


「知ってるよ。千葉たちがいつも須藤のこと見てるの。それに花野井たちがいないとき、積極的に話しかけてるよな? “クソ陰キャ”だから、クラスはよく見てるんだよ」


「な……!」


「邪魔だったんだろ? 気に入られてる花野井が」


「うるさいうるさいッ!!! うちはただこいつが気に食わないだけだし!!!!!」


「それ、同じ意味だよ」


「こ、この……ッ!!!!」


 千葉が殴り掛かる勢いで俺に迫ってくる。

 ――しかし。




「「「ッ!!!!!!!!!!!!!!」」」





 千葉を睨み返し、圧を出すと足を止めた。

 顔が恐怖で滲む。


「な、なんなのあんた……」


 千葉の顔が強張る。

 俺はトドメと言わんばかりに、三人に言い放った。




「花野井はすごい奴だ。こんなに周りから好かれてる奴を俺は知らない。実際俺もお世話になってる。それは千葉たちもだ。だから――これ以上はやめろ」




「ッ!!!!」


「か、佳奈子行こ」


「こんな奴相手にしなくていいよ」


「う、うん」


 二人に連れられ、千葉が逃げるように教室から出ていく。

 顔は生気を失ったようにげっそりとしていた。


 ……少し大人げなかったか。


「大丈夫か、花野井」


 声をかけると、ハッとする花野井。


「う、うん! あ、ありがとね! その、色々と」


「いいよ、別に。俺もカッとなって言ったところあるから」


「そっか。……カッとなってくれたんだ」


 そう呟く花野井の頬が赤いように見える。


「大丈夫か? 顔赤いけど、熱でもあるんじゃ……」


「っ!!! だ、大丈夫! 大丈夫だから!!!」


「でも……」


「大丈夫だから!!!!!」


「そ、そうか」


 ならこれ以上俺が言うことはない。

 ちょうど夕暮れ時だし、夕陽のせいなんだろう。





     ♦ ♦ ♦





 ※須藤北斗視点



 夕日に染まった廊下を歩く。

 

 実は練習が早く終わり、教室で作業してるだろう彩花の下に向かっていた。

 きっとあの量は時間がかかるはず。

 ここで俺が手伝いに行き、二人きりで作業すれば……クックックッ。


「また好感度が上がっちゃうな……!!!」

 

 全く、女というのはチョロい。

 俺の手にかかればチョロすぎる。

 直近で例外はあったものの……まぁ、あれもいずれ俺の勝利で幕を閉じるに違いない。

 

 おっと、間もなく教室だ。

 さて、軽く好感度を稼いで……。



「っ⁉⁉⁉⁉⁉」



 教室を見て驚く。


「な、なんで九条がいるんだァッ⁉⁉⁉」


 既視感しかねェんだけどォ⁉


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る