第11話 クソ女の醜い嫉妬
五月も半ばに突入していたある日。
今日の五限は特別にホームルームの時間になっていた。
それもそのはず。なぜなら……。
「もうすぐ体育祭です!」
黒板の前に立った花野井が楽しげに言う。
そう。学校行事の中でも最大級のイベント、体育祭が間近に迫っていた。
「さっき配ったプリントにそれぞれ何組なのか書かれてるから、自分が紅白のどっちなのか確認してね! ちなみに私は赤組でした! 勝とうね赤組っ!!!」
「「「「「おぉーっ!!!」」」」」
みんなの元気なレスポンスにはにかむ花野井。
ちなみに俺も赤組で、一ノ瀬も赤。
花野井を除いて須藤ハーレムは全員白組という分かれ方だった。
「ってことは俺とは敵だね。白組だって負けないよ?」
「須藤くん! 強敵……だけど、絶対負けないっ!」
「あははっ! 言ったな?」
「ふふふ~まぁね!」
「ちょっと二人とも。今ホームルームの時間だから。イチャイチャするのは後にしてくれない?」
瀬那がからかうように言う。
すると花野井は顔を真っ赤にし、
「っ! そ、そんなんじゃないから!!! まぁ、私語しちゃったのは反省だけど……」
「ごめんごめん。続けて、彩花」
「ったくもう」
瀬那が呆れたように息を吐く。
三人の会話を聞いて、笑いが起こる教室。
やはりこのクラスの中心は須藤ハーレムだ。
「――チッ」
「ん?」
笑いの中に、わずかな嫌悪感を感じる。
しかし、それはすぐに喧騒にかき消されてしまった。
「クラス内で敵も味方もいるけどみんな頑張ろうね!」
「さっき赤組頑張ろうって言ってなかった~?」
「それは忘れて~っ!」
再び教室が笑いに包まれる。
花野井を中心に回るクラス。
こないだも感じた不気味な雰囲気と合わせて、俺の中で一つの予想が立っていた。
……まぁ、これが俺の杞憂だといいんだけど。
♦ ♦ ♦
それから数日が経ち。
体育祭が明日に迫っていた放課後。
「彩花ちゃん大丈夫~? 手伝おうか~?」
「ありがとう弥生ちゃん! でも大丈夫! プログラムの綴じ込みするだけだから」
「何かあったら言ってよ? 私たちも協力するからさ」
「みんな……えへへ、ありがとう!」
仲良さそうに話す美少女四天王。
ちなみに一ノ瀬はさっき、
「調子が悪いわ。九条くんが私の家まで来て添い寝してくれたら治ると思うんだけど……もちろん、飲み薬は口移しで」
と、おかしなことを言っていたのですぐに帰らせた。
日に日に一ノ瀬の発言がおかしくなっている気がする。
「彩花! 俺も何かあればいつでも手伝うからね」
「須藤くん……! でも須藤くんはバスケ部の大会近いんでしょ? エースなんだし、頑張らないと!」
「あははっ、そうだね。彩花に言われたらやる気が出てきたよ」
「頑張ってね!」
「彩花も」
花野井に手を振って、須藤が教室から出ていった。
それに続いて葉月、瀬那も帰っていく。
「よし、頑張りますか」
一人呟き、席につく。
やはり花野井は委員長として素晴らしい人だ。
俺には絶対真似できない。
「じゃあね委員長!」
「ばいば~い!」
花野井に声をかけて、次々と生徒たちが教室から出ていく。
クラスメイトたちから信頼されているなと感心しながら、鞄を肩にかける。
「……ッ」
またしても教室から感じる不気味なオーラ。
今度はその元が誰か、人が少ないからわかった。
教室後方の、あれは……。
「…………」
♦ ♦ ♦
※花野井彩花視点
プログラムを機械的に綴じこんでいく。
しかし、意外に量があってなかなか終わらなかった。
やっぱり手伝ってもらえばよかったかな……いやでも、委員長なんだしこれくらい頑張らないと!
再び気合を入れ直して作業に取り掛かる。
「花野井さん、大変そうだねぇ」
「あ、千葉さん!」
話しかけてきたのは、クラスメイトの千葉さん、佐藤さん、橋本さんだった。
「まだ教室にいたんだね! 三人仲いいな~!」
すでに教室には私たち以外誰もいない。
すると千葉さんが私を見てフッと笑った。
「やめてよそれ。別に今うちらに媚びうる必要ないでしょ」
三人から冷たい目で見下ろされる。
空気が一変した。
「マジそういうのやめなよw私たちに媚び売っても何の得にもなんないからwww」
「花野井さんってほんとなりふり構わないよねーwマジ見ててキツイわ。共感性羞恥ってやつ?w」
「え、えっと……あはは。別にそういうのじゃないんだけど……」
「だから、そういうのいいって言ってんじゃん」
私を突き放す一言。
苦笑いすらも許されない空気が漂っていた。
「やめてくんない? そういうキモイムーブさ」
「そ、そういうのって?」
「わかんないかなぁ。あんたさ、みんなに好かれようと必死すぎて見てられないんだよwwwどんだけ自分をよく見せたいわけ?」
「そんな気なんてないよ?」
「しらばっくれんのもいい加減にしなよ! ねぇ?w」
「超同感なんですけどwww」
私を小馬鹿にした笑いが響き渡る。
「一つ言っておくけど、あんたなんかじゃ須藤くんは無理だから。釣り合わないっつーのw」
「わかるwww何頑張っちゃってんのって感じ。必死さがキツイわw」
「ちょっと顔いいからって調子乗ってるみたいだけど、現実は厳しいよ?wだってライバルは一ノ瀬さんに瀬那さん、葉月さんでしょ? どこに勝てる要素があんのさwww」
「っ!!!」
自分の思っていたことを他人から言われるとこうも傷つくものなのか。
胸がきゅっと締め付けられる。
そんなことわかってる。わかってるから……。
「だからって周りから固めて媚び売ろうって、やってることマジキモイwww」
「あぁいうごっこ遊びやめなよwww誰にも話しかけてもらえない陰キャにしか通じないっつーのwwwwww」
「アハハハハハハハッ!!! それなwwww」
「えっと……」
言い返す言葉が思いつかない。
どうすれば丸く収まるんだろう。
どうすれば千葉さんたちは満足するんだろう。
そんなことばかり考えても、答えは思いつかない。
「ってか黙っちゃったんですけどwww」
「いつもみたいに元気よくしたら? あんたの取柄それくらいしかないんだからさwww」
「ほら! なんか言いなよww早くーwww」
どんどん肩身が狭くなっていく。
私、どうしたら……。
「もうやめたら?」
「っ⁉」
扉付近から声が聞こえる。
声の方に顔を向けると、そこには……。
「……九条、くん?」
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