7.そして日が暮れる
「うおおおおああ!」
「やあああああ!」
森にロイとリアムの絶叫が響き渡る。本気でフィジカルと魔法を使ってお互いを倒すために戦闘を繰り広げていた。
決着をつける。
これをやらなければ忌々しい勇者と魔王の呪縛から解き放たれることはない。
さらに手を抜いた状態もバレてしまうため文字通り本気で戦わなければならないのだ。
「やるなリアム……!」
「私も魔王の力を受け継いでいるからね! <アビス・レイ>!」
「うおっと!? <シャイン・レイ>!」
「ロイも流石ね!」
お互いの力は拮抗しており、光と闇のラストバトルと同じような状況が続いていた。
周囲の木はズタズタになり、魔物や動物は死にたくないという本能により二人の周囲から逃げ出していたりする。
「魔法は互角……なら近接で!」
「いいわよロイ。だけど、この戦いは私がもらうわ!」
「そうはいかない! 俺はお前を倒してちゃんと結婚するんだ……!!」
「……!」
ロイが木剣を横薙ぎに振りながら恥ずかしいことを大真面目に言う。
リアムは一瞬、顔を赤くして動きが止まるが、すぐに手から黒い魔法の剣を生み出してロイの剣を受ける。
すると木剣はあっという間に消滅し、ロイは冷や汗を流しながら距離を取る。
「それはずるいんじゃないか!?」
「ふふ、この戦いをもらうと言った理由の一つがこれ。ロイには勇者の使っていた剣が無いの」
「……確かに。もう一つは、なんだい?」
「それは――」
リアムは不敵な笑みを浮かべて一気に踏み込む。傷つけても回復魔法があると思いなおした彼女は本気で腹を狙っていた。
「それは、今のロイには仲間がいないことよ」
「……チィ!」
「……!? これを避けたの!?」
素早い踏み込みで黒い剣を突き刺そうとしたが、ロイは上半身を逸らして紙一重で避けた。今のは取れたと思っていたリアムは驚愕の表情を浮かべる。
「ごめん!」
「うう……!? な、なんの!」
「ぐあ!?」
ロイの拳がリアムの脇へ入り、リアムの反撃で左肩が斬り裂かれた。そのままゼロ距離で攻撃をし続けていった。
「これで……! ロイ、ごめんなさい! <エクスプロージョン>!」
「なんの! <ギルティジャッジメント>!」
強くなったとはいえ身体は九歳のままである二人は体力が限界を迎えていた。無理もない、昼から戦い続けているのだから。
リアムが謝りながら大魔法を使い、ロイもそれに合わせて大魔法を使う。
その瞬間、森が大爆発を起こした。
「はあ……はあ……もう、動かねえ……」
「ふう……わ、私も……引き分け……だね……」
リアムは残念そうにそう言うと、ロイはリアムに近づいてぎゅっと抱きしめた。
「ああ……今日はここまでだ。色々と考えないといけないなあ……」
「うん……」
そのまま二人は地面に座り込み、ため息を吐く。
「あ! やっぱりお前達か!」
「げ!? 父さん!?」
「リアム、暴れたのね!」
「お母さん!?」
そこへロイの父親とリアムの母親が現れて二人がぎょっと驚く。駆け寄ってきた次の瞬間、二人の頭に拳骨が落ちた。
「~っ!!」
「ぐああああ!?」
すると二人ともその場で悶絶し、体力が尽きたこともあり大の字になって倒れた。
「なんだ、これは痛いのか?」
「魔王の力があるのに」
「戦闘中は防御魔法とかをかけているから効きにくいんだよ……!」
「うんうん……気合を入れていればなんとかなるけど、疲れているから無理ー……」
「あー、なるほどなあ」
ロイの父親ディアクが腕組みをしながら納得して頷いていた。高度な魔法使いは魔法を使いながら囮になる者がいることを耳にしたことがあったからだ。
「ま、話は後で聞くとして帰るぞ。もう暗くなるからな。しかし……我が子ながら恐ろしいな」
「そうですねえ。ほら、リアム掴まって」
「はぁい」
周囲の木々は倒れ、戦っていた場所はきれいに平地になっていた。嵐の痕のようになっている現場を後にした。
「お前達、決着をつけると言っているみたいだが森では止めておけ」
「え? なんで?」
しばらく歩いたところでディアクが背中にいるロイへそう語りかけた。どうしてだと尋ねる彼に、隣で抱っこされているリアムを見てから言う。
「まず、森がめちゃくちゃになって動物や魔物が居なくなる。魔物が居なくなるのはいいことだが、狩りができなければ村の食料が減る。後は木を切り倒しまくっていたら無くなってしまうだろ。それと――」
「それと……?」
少し歯切れの悪い「それと」だったので、ロイは恐る恐る聞き返した。
「……それと、お前達の力を知ってなにが起こるか分からない。勇者と魔王の力を持っているんだ、利用しようとするヤツらが来るかもしれん」
「倒せばいいんじゃないかしら……」
「私達が人質になったらどうするの?」
「あ……」
元々、みんなを助けたいという願いから覚醒した二人なので、心は優しい。
そうなれば言う通りにしなければならないという事態に発展するとリアムの母、フレスコが続けた。
「んー……早く決着をつけないと――」
「結婚できないよー……」
「ははは、まだ九歳だ。考えるのは後だろう?」
ディアクが笑うも、二人は不服と言った顔で黙り込む。
未来を得るためには早く……二人はそう思いながら日が暮れる空を見上げていた。
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