8.悲劇の二人の行く末は
「だありゃぁぁぁ!!」
「やああああああ!!」
二人が覚醒してからさらに一年が経った。
あれから何度も戦いを交え、どちらかの決着をつけようとしていたのだが、いまだにそれが成されることは無かった。
「頑張れリアム! 勝ってロイとけっこんだー!」
「うん……!」
リアムの兄、リカルドが横で木剣を振り回しながら妹を応援していた。それを聞いてロイは渋い顔で口を尖らせた。
「俺は負けてもいいんだけどな……!」
「ダメよ、本気でやらないと! <ダークアロー>!」
「クソ勇者と魔王がよ……! <ライトアロー>!」
もちろん、リアムも不満気にしながら魔法を放つ。それを聞いたロイも悪態をつきながら相殺した。
「ぐあ……」
「ううん……」
「そこまでだ!」
最後に撃った魔法が最後のアタックだったようで、二人はその場で尻もちをついた。そこでロイの父ディアクがストップをかける。
「あー、今日も引き分けかあ。はい、お水だよ」
「はあ……はあ……」
「んぐ……んぐ……くそー! 一体どうすればいいんだよ!」
リカルドが苦笑しながら二人に水を差しだしていた。それを一気に飲み干してからロイは大の字になって寝転がる。
身体に傷が出来ても回復魔法で治療できるため、減ったのは体力と魔力だけである。
「どうなんだろうなあ。別にいいんじゃないか、決着をつけなくても。お前達は好き合っているし、仲良くしていたら勇者と魔王も諦めるんじゃないか?」
「うーん、手を繋いでいると嫌な気分にさせられるし、キスなんてした日には頭の中で怨嗟の声が聞こえてくるんだよ」
「そりゃ……嫌だな……というかキスしてるのかお前達……」
「本当ですよ、おじさま」
ディアクがどこから驚いたものかと肩を竦めていた。
ロイもリアムも仲良くしていると、お互い内に居る勇者レオンと魔王アルケインが『倒せ……』と囁くと告げた。
「もー、ロイも頑張って私を倒してよね」
「それを言ったらリアムだってもっと本気を出せよ。当時は魔王の方が強かったんだし」
「む。私が弱いって言いたいの?」
「そうじゃないって。仲間と一緒にやっと倒したんだから、魔王アルケインの方が力があったはずだし」
「だからそれで倒せないって言ってるなら私が弱いってことじゃない!」
「うわあ!?」
「お、おい、リアムちゃん!?」
ロイの言葉に苛立ったリアムが彼に飛び掛かってもみくちゃになる。産まれた時から一緒で、ずっと仲良しで喧嘩なんかしたことがない。
そんな中、リアムがむくれてロイを叩いたのでディアクとリカルドは驚いた。
「リアムやめなよ、ロイが悪いわけじゃないよ」
「うう……お兄ちゃん……」
「いや、びっくりしたなあ」
リカルドに止められてリアムは涙ぐむ。実際、頭では分かっているし、知識もあるが十歳になったばかりの子供の感情は溢れるばかりだったのだ。
「リアム……」
「ごめんねロイ……」
「さ、さあ、帰るか。そろそろ母さん達が晩御飯を用意しているはずだ」
「そうだね」
いつも元気なロイもリアムが泣いてしまったため意気消沈していた。気まずい空気の中、この場を立ち去る。
ちなみに村の近くでは被害が大きくなるため、かなり離れた山奥の荒地で戦うようにしていた。
リアムが空を飛べるようになっていたため、移動は彼女に任せている。
ディアクやリカルドはお目付け役というわけだ。ただ、見ているだけではなく、リカルドに狩りのやり方を教えることもしていた。
ロイとリアムが居れば危険なことが無いとリアムの両親も任せているのだ。
「……またな」
「うん……」
「またねロイ! ほら、お家に入ろう」
程なくして家に到着すると、口数も少なくお互い家へと入っていく。ディアクは後ろ頭を掻きながらそれぞれ見送った。
「うーん……なんとかならないものか。これじゃ二人とも壊れちまう」
知識がついても精神は十歳のままなので、子供らしい感覚は残っている。
身体と感情と知識が追いついていない状況なので理不尽を感じてストレスになると考えていた。
大人でも思い通りにいかなければストレスになるのに、まだ感情を優先して行動する子供には辛いだろうと。
「くそ、リアムのやつ好きに言いやがって……」
「こら、ロイ。リアムちゃんが悪いわけじゃないだろ」
「そうなんだけど、ここまでケリがつかないとイライラするよ……リアムが弱い訳じゃないんだけど」
「まあまあ」
不貞腐れるロイにディアクが頭を撫でてやった。
実際、彼は少し拮抗が崩れればどちらが勝ってもおかしくないと考えている。真剣を使って戦わなければ納得をしないのではないか、とも。
「それにしても迷惑な話だよ……リアム、怒ってた……」
「だよなあ。また考えるか」
「うん……」
しかし、この後も二人の戦いが終わることは無かった。
戦って、戦い抜いて、二人は終わらせようとした。
だが、その結果――
「ロイ、今日が最後ね。いい加減、あんたとの戦いも飽きてきたわ」
「そうだな。お互い、修行は積んでいたけどお前もそれに合わせて強くなるから堂々巡りってやつだし」
「はあ? 強くなったらいけないって言うの?」
「そうじゃねえよ。どっちかが強くなって倒すのは二人で考えていたことだろ? つっかかってくるなって」
「修行しないとうるさいもの。そっちがやったらこっちもやらないと、ね」
「まあな」
――仲が悪くなってしまっていた。
あちらを立てればこちらが立たず……お互い、自分よりちょっとでも強くなっていればという思いはあったが上手くいかず、相手に当たるようになってしまっていたのだ。
今日で最後、というのは彼等が学院に通うための年齢である十三歳に達したからで、これからは簡単に一騎打ちなどできなくなるからだ。
だが、もはや諦めの境地に入っていて二人はこれ以上やっても無駄だと感じていた。
だから最後。
これでダメならお互いを諦めるという暗黙の言葉だった。
「……大好き、だからね」
「ああ、俺もだ。いざ――」
そして――
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