6.今世を生きるには邪魔すぎる
盗賊団を壊滅させたことで一時もてはやされていたロイとリアムは、家族以外に勇者と魔王の記憶があることは伏せることにした。
「これで良かったの?」
そして盗賊騒ぎから数日が経過したある日。
リアムは炎の魔法で地面にウサギの絵を描きながら隣に座るロイへ尋ねる。
ロイは風の魔法で地面の葉っぱをまとめながらリアムに答えた。
「信じてもらえるどうか微妙だし、面倒ごとにになっても困るんじゃないかな?」
「それもそうね。まあ、次の日はあ私達二人とも高熱で倒れちゃったけど」
「知識の量と子供の身体じゃやっぱり負荷が凄いんだろうなあ」
ロイは苦笑しながら仲良く並んで寝込んでいたことを思い出す。
9歳の身体に詰め込まれた知識は負担が大きかったのだ。
三日ほど寝込んだ後、スッキリした顔で急に起き上がり、互いの両親は大いに喜んでいた。
「強くなったのはいいけど、ちょっともてあましちゃうよな」
「うん……それに、ロイと決着をつけたくてうずうずするのは困るよぅ……」
「だよな……」
力を持て余すだけならともかく、熱から回復した後、二人はお互いと戦いたくなってしまうという症状に悩まされていた。
記憶から最終決戦で相打ちになったことが起因しているのは間違いない。
確かにケリをつけたいという欲求はあるが、幼馴染で好きな人にやるわけにはいかないのである。
「なんでもいいから勝負してみる?」
「そうだなあ。勝負とか競争はリアムとやる必要性を感じないんだけど、どっちかが勝てばもやっとした気持ちは晴れるかもな!」
「うんうん! それじゃあじゃんけん――」
「ほい!」
リアムがすぐに勝負をしようと提案したのはじゃんけんだった。ロイもすぐに気づいてじゃんけんを返した。
――しかし
「あいこでしょ! ……はあはあ……決着が、つかない……」
「つ、次こそ! あいこでしょ!」
――五十回ほどやってもずっとあいこを出し続けて決着はつかなかった。そして五十一回目。
「ほい……! あ、私の勝ち!」
「おお! ならこれで終わり、か?」
リアムが勝ちこれでむずむずした気持ちが消えるかと思われた。だが、なにも起こらなかった。
(勝負……きちんと……戦いで……)
(どっちが強いか……はっきり……)
さらに二人の脳裏に勇者と魔王の声が聞こえて来た。ロイは腕組みをして悩む。
「うーん、こういうのじゃダメみたいだな」
「えー、私ロイと戦うなんて嫌だよ?」
「俺だってそうだ。剣術か魔法で打ち負かせばいいのか……? わざとリアムに倒されるのは――」
(ダメ、だ……)
「やっぱりか……」
「うう……大好きなロイと戦いたくないよう」
心の奥底からなにかが拒否をしてくる。
勇者と魔王からあらゆる知識を得ることができた弊害は大きかった。
決着をつける……今の二人にはなにも関係がないのにとロイは苛立ちを露わにする。
「くそ……ならリアムが俺を倒せばいいのか?」
「手加減してもダメなんじゃないかなあ」
「うーん」
「ロイ?」
ロイは風魔法を止めてから腕組みをして考える。リアムが可愛く首を傾げて尋ねるも返事が無かった。
「(一応、俺達の考えていることは内に居る勇者と魔王に伝わっている。どこかに落としどころを決めてもらわないとただの殺し合いになっちまう)」
「ロイ、どうしたの?」
「うわ!? 近いよリアム」
「えー、いつもそうだったのに。……あ、そっか……え、えっちな感じになっちゃう?」
「ぶっ!?」
見た目は9歳だが知識は増えた。ということはそういう知識も得たということだ。
「ま、まあ……お前は可愛いし……」
「ロイ……」
二人が目を瞑ってキスをしようとすると、体がムズムズし始めた。慌てて離れるとムズムズが治まった。
「くっ……邪魔をする……!」
「もー! なんなのー!!」
(イチャイチャ……許さない……)
「うるさいよ!? もうあんた達は亡くなってるんだから諦めろって!」
(ケッチャク……つけてから……)
「そんなこと言われても知らないよー!」
明らかにむくれたリアムが激昂する。しかし胸中の声は「ケッチャク……」と呟くばかりであった。
「とう!」
「うひゃあ?!」
そこでイライラしたリアムがロイに抱き着いた。過去の決着なんか関係ないとばかりに。
すると――
「う、うう……さっきよりも衝動が強く……」
「リ、リアム……離れるんだ……」
「いやだあ……」
戦闘衝動が膨れ上がり、ロイは離れるように言う。だけどリアムはぐずるように離さなかった。
「こ、これじゃ俺達がまいっちまう……リアム、すまない!」
「きゃ!? ロイ……!」
強引にリアムを引き離して、ロイは距離を取った。
するとリアムが意外だという顔をして目を見開いてロイを見る。
「俺達が一緒になるには……決着をつけるしかない。リアム、やるぞ……」
「ロイ……嫌だよ……」
「これしか……ない。やるぞ」
「う、うう……」
ロイが決意をした目でそう言う。
リアムは納得のいかない顔で泣きそうになるが、そのまま二人は武器を持って森へと移動するのだった。
「……ここなら全力でも大丈夫、かな」
「ねえ、本当にするの?」
「ああ。俺が勝ったらリアムと結婚する」
ロイはニヤリと笑みを浮かべて『約束』を口にする。記憶の中で死ぬ間際に二人が交わした約束を思い出してのことだ。
勇者レオンと魔王アルケインは最後に約束をして散った。
このままだとどっちが倒しても決着がついていないと喚き散らすような気がしたロイは、勝ったら相手を手に入れるという約束を追加したのだ。
「……! なら私が勝ったらロイと結婚する!」
賢いリアムはすぐに気づき、笑顔でそう答えた。
そして二人は身構え――
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