5.勇者と魔王の記憶
「な、んだ……てめぇ……ら、ガキのくせに……」
「こっちからすればお前達がなんだ、だよ。全員手加減して生かしている。リアムが回復魔法を使えたことに感謝するんだ」
「ロイも急所を外すの上手かったよ♪」
血だらけになった盗賊のリーダーを前に、ロイとリアムが言葉を交わす。
たった数分。
それが盗賊達が制圧された時間だった。彼等の身柄が村の一番広いところに集められ、村人に囲まれているところである。
「これで全員のようだな。ひとまずこいつらは町に連絡して引き取ってもらおう。それよりも……」
「ん?」
「なに?」
「いや……と、とりあえずロイにリアム、助かったよ。報酬が入るはずだから、また連絡するよ。ディアクさん、後は……」
「ああ……」
自警団の男は二人を見て困惑していた。昨日までこんな魔法が使えたり戦闘ができたなど聞いていない。
だが、助けられたことは事実なので、あとは両親に任せるかとディアクに帰宅を促した。
「それじゃ……戻るか」
「そうだね。……戻ったら俺のことを話すよ」
「そうか……ん? おや、みんな来たみたいだな」
「あ! お父さん、お兄ちゃん!」
「母さん達も!」
ディアクの視線を追うと、そこにはお互いの一家が居た。まずは手を振りながら笑顔を見せるリカルドがロイとリアムに抱き着いてきた。
「良かったぁ! 二人とも無事だよ!」
「あはは、お兄ちゃん鼻水が出ているよ!」
「リアムのおかげで僕も助かったよ! でも、魔法なんていつ覚えたんだい?」
「……ロイ、お前も凄かった。一体何があったのだ?」
リアムとロイ、それぞれ奇跡のような力を目の当たりにした二つの一家は首を傾げていた。すると、リアムが胸に手を当ててから口を開く。
「……ちょっと長くなるかもしれないからお家でお話をしたいかも」
「あ、ああ、ならディアクさん達もうちへ来てもらえるかな?」
「もちろんだ。行こう――」
二家族はまだ混乱のおさまらない町中を後にし、リアムの家へと足を運ぶ。
ロイとリアムが揃って前を歩き、兄のリカルド以外はやや奇妙だといった顔でついていく。
ほどなくしてリアムの家のリビングに集まると、まずロイが口を開いた。
「えっと……驚かないで聞いて欲しいんだけど、俺はどうやらかつて魔王を倒した勇者、レオンの生まれ変わり……みたいなんだ」
「え!?」
「ど、どういうことだ……!?」
驚く一家。
しかし、それ以上に目を見開いて驚いている者が居た。
「そ、それは本当なのロイ……?」
「え? ああ、うん。そうみたいだ。さっき盗賊団が村の人を襲っている時にカッとなってさ。その時に力を使えって頭に。で、勇者レオンの記憶が流れ込んで来たんだ」
ロイが頬をかきながらリアムに笑いかけると、少し困った顔で彼女がポツリと呟いた。
「……運命、なのかな……私は……魔王アルケインの記憶が、さっき……」
「え!?」
「ま、魔王アルケインって異種族を率いて人間と戦ったあの!?」
今度はロイが驚くことになり、リアムの父カルドが大声を出しながらひっくり返って椅子から転げ落ちた。
「う、うん……私もこんなやつらに好きにさせるな、力を使えって」
「な、なんてこった……ウチの娘が魔王の生まれ変わり……」
「で、でも、私が産んだんだから人間ですよあなた」
「そ、それもそうか……」
妻のフレスコが抱き起こしながら正論を口にする。そこでリカルドが目を輝かせて口を開く。
「ロイもリアムもかっこいいなあ!」
「ふふ、でもお母さんの言う通り私は人間だし、お兄ちゃんの妹だからね!」
「俺も記憶があるけど、父さんと母さんが両親だからな!」
「ああ。ちょっと驚いたけど、お前はロイだものな」
「まあね! 剣技と魔法は継承しているから、狩りが楽になるかも」
ロイの父であるディアクが肩を竦めて息子の頭を撫でていた。
ひとまず二人が『ものすごく強くなった』という結果が明らかになったし、下手に隠さず二人が正直に口にしたのも良かった。
「でも、勇者と魔王の記憶を持った二人がお隣さんはやっぱり運命なのかしら? あなたたち赤ん坊の頃から殆ど一緒に過ごしているものね」
「「あー……」」
「ん?」
ロイの母であるイオが嬉しそうに手を合わせてロイとリアムに視線を送ると、二人は顔を見合わせてから気まずそうに声を上げた。
「いやあ、今の反応でそうかなと思ったんだけど……前世の俺達は、まあ、その、敵対していただろ?」
「ああ」
「で、最後は相打ちだったの。この辺りも伝聞があるからわかると思うけど、続きがあるの」
「リアムちゃんが大人びているわね。可愛い」
可愛く頬に指を当てて喋るリアムを見てイオが目を細める。それを聞いたリアムはにっこりと微笑んだ後、話を続ける。
「次に生まれ変わった時、必ず決着をつけようと約束して倒れたのよね……」
「そうだったなあ……」
ロイとリアムは遠い目をして誰にともなく呟いた。
「決着って……」
「ロイとリアムはライバルってこと!」
リカルドはやはり目を輝かせて拳を握る。そんな兄を見てため息を吐きながらリアムが返す。
「そうなの……でも、私はロイが大好きだしそんなことはしたくないんだよね……」
「俺だってそうだ! でも、頭の中でなにか引っかかっているんだよなあ」
「みんなを守れるようになったけど、ロイと喧嘩は嫌だなあ……」
二人はそう言って抱き合い悲し気な顔を見せる。だが、二家族はその光景を見て苦笑する。
「(ラブラブな二人に生まれ変わるなんて皮肉だけど、悪い方向にはいかなそうね?)」
「(そうだな。ま、大丈夫だろう。とりあえず、みんなには黙っておこう)」
「(えー! 僕、友達に自慢したいよー)」
「(大きくなったら、いいかもしれないね。……多分、本当なら誰も勝てないだろうし)」
「(私達大人は見守る感じになりそうねえ)」
そんな調子で和やかに見守るのだった。
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