2.世界を視る女神
『ラフィーナ様、お疲れ様でございます』
『ありがとうピリウス。なんとか世界は破滅から救われました』
神殿のような場所で緩いシルクのような生地で出来た服を着た若い男が、椅子に座っている女性に声をかけた。
すると豪華な椅子に座り、男と同じような服を羽織ったラフィーナと呼ばれた女性は長い霞色のロングヘアをかき上げて返事をした。
ラフィーナはピリウスへ微笑みかけて話を続ける。
『良かったです。あのまま魔王が勝利していれば世界は魔族一辺倒になっていたことでしょう。勇者としての責任をしっかり果たしてくれました。わたくしもいい仕事をしたと思いませんか?』
『そうですね。しかし、最後の言葉……ラフィーナ様はどうされますか?』
満面の笑みで自画自賛するラフィーナにピリウスは苦笑する。
だが、ピリウスは神妙な顔で話を続けた。内容は勇者と魔王が二人とも納得がいかないまま死んでしまったことである。
『むう……そうですね。魂の現状は?』
自身の功績を讃えてくれなかったことに不満を露わにしつつ、ピリウスへ確認をする。彼は特に気にした感じも無く報告を続けた。
『場に留まっております。このままだとタチの悪いゴーストかレイスになる可能性が高いでしょう』
『それは困りますねえ』
本来、死んだ魂はすぐにラフィーナ達の居る神の世界へと還ってくる。しかし、強い未練や恨みなどを残したまま死んだ場合、死後も留まってしまうことがある。
『仕方ありません。二人を来世でも一緒になるようにしてあげましょうか』
『よろしいので?』
『ええ。想いが強すぎると強力なゴーストになりかねませんし。バスレーンを派遣しなさい』
『かしこまりました』
決定を聞いたピリウスは礼をして踵を返し、広い部屋を出ていく。
それを見届けた後、ラフィーナはニヤリと笑う。
『……勇者と魔王の再戦。その望みが叶うことはありませんけどね。そんな存在をまた出すわけにはいきませんもの。まあ、記憶も力も失くして転生させれば約束など無いに等しいですもの』
◆ ◇ ◆
『バスレーン、バスレーンは居るか?』
『おや、ピリウス様じゃありませんか。どうされました?』
所狭しとラフィーナ達と同じような服を着た者達がひしめく役所のような場所へ赴いたピリウスはバスレーンという人物を呼ぶ。
その言葉を聞いたメガネのピンク髪をした女性が反応する。
『すまないが勇者と魔王の魂を回収に向かってくれ』
『え!? わたしがですか!? あれはラフィーナ様くらいしか対応できないと思いますけど……』
『大丈夫だ。ラフィーナ様はあの二人を一緒のところへ転生させることを決定した』
『ほほう……』
ピリウスは魂を回収した後で転生させることを約束すれば大人しく還ってくるだろうと説明する。バスレーンはそれを聞いてため息を吐きながら首を振った。
『仕方ありませんねえ……しかし、どうしてわたしなんですか? 他にもベテランがいるでしょうに』
『お前が一番口が上手いからだろう。ほら、この前も子供を見守るため残ると言って聞かなかった犬の魂を連れて帰ったじゃないか』
『動物と勇者と魔王を一緒にせんでください……』
明らかにおかしいと思いつつも仕事なら行くしかないため、バスレーンは準備をして地上へと向かう。
『うおお……!? 魂のくせになんて強い圧を放つんですかね!?』
(……ケッチャク……カナラズ……)
『はいはい、女神様がそれを認めてくれましたよ。さ、転生しましょう?』
(オオオ……ユウシャ……タオス……)
本来であればなにも言わぬ魂が明確な意思を持って語り掛けて来ていた。
もう少し遅かったらヤバイゴーストとして顕現していたであろうとバスレーンは冷や汗を拭う。
『怖っ……大丈夫ですかね、ちょっと意志の力が強すぎる気がしますけど』
(ゼッタイダナ……)
(ノロウ……)
『ひぃっ!? だ、大丈夫ですって。特に勇者レオンは女神様の力で魔王を倒したんじゃないですか。疑うんですか?』
(……メガミ……ユルセナイ……)
『藪蛇!?』
勇者と魔王が同じところにいるのだからカドが立つに決まっている。魔王の魂が活性化しようとしているところでバスレーンは告げる。
『魔王アルケイン、貴女もレオンさんとまた戦いたいなら大人しくついてくるのがいいですよ。世界を救った特別措置だそうです。悪さをしないなら同じところに転生させるそうです』
(……)
(ケッチャク……ツケル……)
バスレーンの説得によりアルケインは大人しくなり、レオンの方は段々と決着をつけるしか言わなくなった。
『では行きましょう。新しい世界へ』
(ウソツイタラ……ノロウ……)
(コロス……)
『ラフィーナ様! 絶対なんとかしてくださいよー!?』
ひとまず説得は成功し、バスレーンは厄介な魂を連れて帰ったと称賛されていた。
ラフィーナがそれに嫉妬したとかそういう話はさておき、しばらくしてから転生させる時期がきた。
『ふふ……さて、願いを叶えましょうか』
ラフィーナが不敵に笑い、なにか詠唱をした後、二人の魂が輝きを放つ。
『おお、この瞬間はいつもきれいですね』
『そうでしょう、これが命の輝き。流石は勇者と魔王、ひときわ美しいですわ』
『さすが女神様!』
『フフ、そうでしょうそうでしょう。では、今度は楽しい来世を』
ラフィーナがそう告げると、目の前の魂はフッと消えた。
『これでどこかの子として産まれるでしょう』
『魔王はどうなるんです?』
『当然、人の子です。あんな力を持つ者を同じ存在にするわけがありません。さて、今日の転生儀式は終わりです。バスレーン、お茶にしましょう。随伴することを許可します』
『あ、はあ……今の、なにか違和感があったような……』
『わたくしの儀式になにか? まったく少しチヤホヤされたくらいで……』
『い、いえ、なんでもありません!』
ラフィーナがぶつくさ言い始めたのでバスレーンは慌てて機嫌を取りに行く。
これで大きな仕事が終わったと、他の者達も安堵していた。
――そして月日は流れ
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