決着は来世でつけると約束した勇者と魔王はお隣さんで幼馴染になる

八神 凪

1.最終決戦

「手ごわい……!」

【これが勇者……! 女神の力か!】

「チィ……!」


 勇者レオンは人間と魔族の争いに終止符を打つため魔王アルケインの下へと辿り着いた。


「防御魔法を! <ベヒモスプロテクト>」


 レオンのパーティは四人。その中の一人である魔法使いであるフェイナがレオンに防御魔法をかけた。


「助かる!」

【チッ、小娘が! バラエナ!】

【ハッ!】

「させるか……! ぐあ!?」

「アガン!?」


 魔王も配下を呼び寄せており、オークキングのバラエナが背丈ほどもあるバトルアクスを戦士アガンへ振り下ろした。

 アガンは大剣でそれを受けてから逸らすが、並みのパワーではないオークキングの一撃は鎧を砕いて肩に傷を負う。


「<ハイキュア>!」

「ありがとうテリア! うおおお!!」

【やりおるわ人間が……!!】


 怪我をしたアガンにすかさず回復術師のテリアが傷を癒す。礼を口にしながらすぐにバラエナへと斬りかかっていくアガン。


「良かった……! ……ハッ!?」

【くく……美しいお嬢さんに戦いは似合いませんよ? 私のものになりませんか?】

 

 切り返したアガンを見て安堵するテリアの背後に、いつの間にか紳士のような声をした男が立っていた。

 慌ててその場を離れて振り返ると、青白く生気の無い男へ口を開く。


「ヴァンパイアロード……!」

【フィアームという。以後、お見知りおきを。私のコレクションにするのでね?】

「誰が!」

【どうせ我々魔族には――】

「<ボルケイノ>!」


 テリアを見てにたりと笑うヴァンパイアロードのフィアーム。彼が剣を構えたところで狼の形をした炎が襲う。


【む……!】

「がたがた言ってるんじゃないわよ! アンタたちはここで終わり! テリア、あのオークキングこいつで部下は最後みたい。アガンと連携しながら倒すわよ」


 魔法使いのオリビアが激昂しながら挑発をする。テリアもその言葉に頷いた。


「ええ、オリビア! <セイクリッドアロー>!」

【くく、お嬢さん二人とは楽しめそうだ!】


 テリアの放った聖なる矢がフィアームを追尾する。笑みを浮かべながらそれを走って避けていた。


 勇者パーティと魔王幹部は互いの要になる二人の邪魔をさせないようけん制する。

 どちらかが倒れれば一気に生き残った方の陣営が優勢になる。後ろから撃たれることだけは避けねばならなかった。

 

 そんな女神の加護を持つ勇者と世界を脅かす魔王の戦いは熾烈を極めた。お付きのオークキングとヴァンパイアロードも実力は折り紙付き。


「吠えろドラゴントゥース!!」

【アビス・レイ!】

【「「うおお……!?」」】


 レオンとアルケイノの二人が斬り結ぶたびに決戦場である城が揺れ、壁が破壊されていく。勇者パーティと魔族の幹部は巻き込まれまいと場所を移動する。


【勇者め、本物の化け物だぜ……!】

「それは魔王もでしょうが! <ビッグトルネード>!」


 オークキングのバラエナが冷や汗をかきながら呟くのを尻目に、オリビアが彼に高威力の竜巻を放出する。


【ふん!】

「あのマント、魔法を打ち消すのか……! 交代だ、あのヴァンパイアロードは俺とテリアでやる。オークキングは……オリビア、頼むぞ」

「任せなさいって!」


 そう言われたオリビアは舌なめずりをして右手にある杖を構えた。バラエナはそれを見て瞬時に間合いを詰めた。


【対面に居て魔法など使わせんぞ!!】

「なら、これはどうかしらね <オーラブレイド>!」

【なんと!】


 オリビアは左手で腰のダガーを抜いて魔力を込める。すると刃が魔力の膜に覆われる。


【だとしても!】

「逸らせればそれで! <ドラゴンブレス>」

【ぬぐ!?】


 バラエナは力任せに大きく振り下ろしたバトルアクスをオーラブレイドで逸らす。

 こんな力が小娘に……そう考えた瞬間、バラエナの脇腹に衝撃が走る。

 ドラゴンブレスは収束させた魔力をブレスのように放つ魔法で、大抵の魔物なら貫くことができる。

 だが――


「嘘、鎧だけ!?」

【まさかドラゴンブレスとは……力を込めて防御して良かったということか……!? つあ!】

「きゃあ!?」


 ――鎧が破損したものの、胴体は皮膚を焼いたが貫くまで行かなかった。そのまま空いた左腕を振るわれてオリビアは大きく吹き飛ばされた。


「オリビア!」

【よそ見をしている場合かな?】

「お前もな!」

【チィ】


 飛ばされたオリビアを心配するテリアにふわりと宙を舞って彼女に近づくフィアーム。もちろん、アガンは接近を許すはずもなく大剣を振るう。


「ファルコンクラッシュ!」

【これは……避けねばなるまい! <ブラックストリング>】

「なんの!」

「<ディスペル>!」

【これを打ち消すか……!】


 一進一退。

 そう言って差し支えない攻防が繰り返される。その間にも天井に穴は開き、壁は吹き飛んでいく。


「ぺっ! やるじゃない」

【立ち上がるか……! 手加減は一切していないのだがな!】

「テリア防御魔法があるからね。……骨一本はいったかもだけど?」


 バラエナはニヤリと笑みを浮かべながらオリビアににじり寄る。一気に接近すれば今度こそ魔法で貫かれると考えているからだ。


【面白い……最後の相手に相応しい】

「かもね。さて、風通しも良くなったことだし、ケリをつけさせてもらうわ。最大魔法をね」

【ハッタリだ。仲間を巻き添えにはできまい】

「どうかしらね? これは避けられないわよ<コメ――」


 オリビアが魔法を使おうとした瞬間――


「ぐおあああああ!?」

【ぐぬううう!?】

「レオン!」

【アルケイン様ぁ!!】


 ――お互いの刃が急所を貫いていた。


「ま、まさか相打ちとは……ごほ……」

【おのれ……しかし、楽しい時間であった。我を打ち倒すほどの力……】

「ま、借り物だけど……な」

【くく……言うわ……】


 そのまま倒れ伏す勇者と魔王。

 回復魔法を! レオンは遠くでその言葉を耳にしながら意識を失いつつあった。


【しかし……相打ちは納得がいかない……】

「う……そう、だな……め、女神よ……世界を救ったんだ、俺の……願いも聞いてくれや……こいつとの決着をつけられるよう……どんな形でもいい……来世へ――」

【それは……おもしろそ――】


 そして、世界を相手にした魔族の王と、人間のために命をかけた勇者の命はここに潰えた。

 回復魔法ではどうにもならないほど損傷していたレオンは、勇者として英雄として後世に語り継がれるのだった――


 そして時は流れ――

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