3.どこにでもあるいつもの風景


 ――とある村


 特に特筆すべきも無い、町から少し離れたところにあるその場所で仲のいい男の子と女の子が、今日も仲良く顔を合わせていた。


「今日はどこへ行くの、ロイ?」

「父さんと森へ狩りへ行くよ。リアムは?」


 赤い髪の女の子、リアムがダガーと防具を装備した少年、ロイは今日の予定を尋ねると、ロイは笑顔で答え、質問を返した。

 二人は今年で九歳だが、村の子はみんな大人の手伝いをする。貧しい村ならなおのこと食い扶持を稼ぐためにやるのだ。

 

「私はお母さんと一緒にニワトリに餌やりだよ! 森に狩りかあ……最近、盗賊団があちこちに出没するってお父さんが言ってたわ。気を付けてね……」


 リアムは今日の予定を口にした後、最近物騒なことがあったことをロイに告げる。

 ロアの父は狩人だが、町や村の外では盗賊や魔物などロイ達や冒険者といった者には脅威となる存在する。

  

「大丈夫だよ、ウチの父さんは魔物相手でも戦えるし。リアムも知っているだろ? それに僕もこの前、初めてフラッフィラビットを仕留めたし」

「うん……! 凄かったよね!」


 それでも狩人の父は強いのだと、ロイは鼻の下を擦りながら言う。ついでに自分の武勇を語っていた。

 二人の家は隣同士で、好きという感情が芽生えつつある。そのためロイは彼女にいいところを見せたいお年頃なのだ。


「ロイ、準備はできたかい?」

「あ、父さん」


 そこで馬を引いて来た父が声をかけてきた。パッと笑顔になったロイが駆け寄っていく。その後からリアムも微笑みながら挨拶をする。


「ディアクおじさん、おはようございます!」

「おや、リアムちゃんも居たのか。おはよう」


 ロイの父、ディアクがリアムの挨拶で居ることが分かり、二人の頭を撫でた。

 ディアクは腰をかがめてロイを抱え上げると、馬の背に載せた。

 

「帰ってきたらまたロイと遊んでやってくれ」

「うん! 行ってらっしゃい!」

「行ってくるよリアム!」


 ディアクも馬に乗り、ゆっくりと馬を歩かせて目的地へと出発する。ロイは半身を出してリアムに手を振っていた。

 段々と遠くなっていく二人を見送り、姿が見えなくなったところでリアムが家に戻っていく。


「ただいまお母さん! ロイとおじさんを見送って来たよ!」

「ふふ、おかえりなさい。本当にロイ君が好きね」

「フレスと僕みたいだ」

「まあ、カルドったら」


 リアムは母のフレスに抱き着きながら見送りが終わったことを告げる。それを聞いた父、カルドはまるで妻のことのようだと笑った。


「うん! お母さん達もおうちが近かったんだよね」

「そうだよ。ロイ君ならリアムを任せられるかな?」

「まだ早いわよ」

「子供はすぐ大きくなるからねえ。もう九歳だよ? ……さて、それじゃ僕は畑へ行ってくる」


 カルドは肩を竦めながら椅子から腰をあげ、入り口付近に置いてある鍬を手に取った。


「それじゃ、リアムとカルドは小屋の方を頼むよ。リカルド、お父さんの手伝いをしてくれるかな」

「うん! でも、僕もロイ君みたいに狩りにも行ってみたいなあ」


 リアムより2歳年上の息子であるリカルドに声をかけると、元気よく返事をした。

 しかし、やはり男の子なのでロイのようにかっこよく狩りに行ってみたいと口にしていた。


「はは、僕は魔物とは戦えないからなあ。畑で家族やみんなの野菜を育てるのも重要なんだよ」

「そうよ。それに今は物騒な世の中だし。何年も前に倒された魔王は居なくなったけど、魔物は減っていないもの。村の中にいましょうね。さ、行ってらっしゃい」

「うーん、僕もかっこよく魔物を倒したいよ。けど、お母さんが心配するから大きくなってからにするね!」


 諦めるとは言わないことに苦笑しながら父のカルドは息子を連れて外へ出ていく。

 

「私達も行きましょうかリアム」

「うん! みんなお腹空いているもんね」


 リアムはフレスの手を引いて早く行こうと元気よく家を出ていく。

 今日もいつもと同じ、穏やかな日が続くと思っていたのだが――


◆ ◇ ◆


「ハッ!」

「やったぁ! 父さん流石!」

「ま、ジャイアントフロッグなら余裕だ。解体して肉だけ持ち帰るか」

「俺もやるよ!」


 ――狩りへ出てから数時間ほど経過したころ、ロイ達親子は順調に仕事をしていた。

 すでにフラッフィラビットを二羽を狩っており、今も巨大なカエルを倒したところだった。

 大型の魔物は群れない代わりに手ごわいが、可食部も多く実入りがいい。

 そんな二人はその実入りのいい魔物を倒してホクホク顔で解体していく。


「もう少し奥まで行くと鹿とか居るんじゃない? 魔物の肉もいいけど、たまにはそういうのも食べたいね」

「イノシシとかも狩りたいがな。ただ、魔物が最近多くなっていてあまり森の奥へ行くのは危ないんだ。もし行くなら冒険者パーティと一緒に行かないと一人は危ない」


 もちろん子供のお前も連れて行けないと微笑みながら頭を撫でる。ロイはその言葉を聞いて口を尖らせ、腕組みをして言う。


「俺だってダガーの使い方は上手くなってきたし大丈夫だよ!」

「頼もしいが、まだこの辺りで修行だな」

「ならギルドに登録させてよー」

「うーん、十三歳以上だからそれも無理だな。はっはっは! じっくりやっていこう」


 父のディアクが笑い、ロイがむくれる。

 このやりとりもいつものことだが、息子が逞しく育ってくれるのは嬉しいと口にする。


「じゃあ、俺も次は手伝う……ん? 父さん、あれ!」

「うん? ……煙? それも規模が大きいな……? それにあの方向は村、か? 嫌な予感がする馬に乗れロイ!」

「う、うん! ……リアム……!」


 ひとまず持てるだけ素材と肉を袋に詰めて馬にくくりつけると、村へと向かって走り出す。


 そのころ村では――

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