第72話 アリアスと夜を過ごす

「あ〜疲れた……」


 ここのところ、村の発展で大忙しだ。

 新しい施設をスキルで生成したり、作物も生成したり、メンタルも不安定。

 今日も肉体労働で大変だった。


「寝たい……寝よう……今日は二階の一人部屋でゆっくり寝よう……」


 俺の家は二階建てで、二階には前世で俺が子供の頃に使っていた部屋がある。

 内装まで前世そっくりに作ってあるから、ここにいると落ち着く。

 一回の寝室は敷布団だが、この部屋はベッドだしな。


「たまには一人でゆっくり寝る……そんな日があってもいいじゃないか……」


 布団をかぶり、寝る準備をする。

 部屋の明かりを消して、完全に就寝モードだ。


 そんな時、ドアがノックされた。


 コンコン、と控えめな音だ。

 夜中だからあまり音が響かない様に配慮している。

 そんな音だった。


「誰?」


「私よ。まだ起きてる?」


 ノックしてきたのはアリアスだった。

 どうしたのだろう。もう夜の十二時を過ぎようという時間なのに。

 夜更かしは美容の天敵と普段から言っているアリアスにしては珍しい。


「大丈夫だよ。入って、どうぞ」


「ええ……この部屋に入るのって、実は初めてかも」


「普段は使わないもんな。俺も久しぶりに入ったよ」


「ここもダーリンの世界で使ってた部屋なの?」


「ああ。高校生の頃まで……えーと、十八歳までここで寝てた」


「そうなのね。ここがダーリンの部屋かぁ……」


 なんだか感心している様子のアリアス。

 俺の部屋といっても、寝て起きてゲームするだけの部屋だったからなぁ。

 一人暮らしの部屋と比べると、エロ同人やエロゲを置けない分、不満の方が大きい。


「なんか、ダーリンのプライベートに踏み込んじゃった気分ね♪」


「俺のプライベートなんて、もうアリアスには曝け出してるよ」


「そうかしら?」


 アリアスは意味ありげに目線を向ける。

 はて、これはどういう意図だろうか。


「私には、ダーリンはまだ隠してることがある気がするのよねぇ」


「へぇ、例えば?」


「たとえば……」


 そう言うと、アリアスは俺の耳元に顔を寄せて、甘い声で囁いてきた。


「私のこと、エッチな目で見てること」


「…………」


「ダーリンの視線、いつも私の胸を見てるでしょ。気付いてないとでも思ってた?」


「いや、そんなことは……」


 はい。見てます。デカパイ見てます。

 しかし女性は男性の視線に敏感という話、あれは本当だったのか。

 すみませんでした。デカパイ大好きです。


「別に怒ってるわけじゃないのよ? ただ、それならそうと言ってくれないと私も困っちゃうのよ」


「こ、困るというと……?」


「だから、好きな人にそういう目で見られて、何もされないって……切ないじゃない」


 ズキュン! 心臓に大ダメージ!

 今のはかなり胸がキュンとした。

 なんだ、アリアスの恥じらいを含んだ表情が、ものすごくかわいい。

 どういう魔法だ?


「村作りもひと段落ついたんだし、結婚してから数ヶ月経ったでしょ? だからそろそろ……」


「そろそろ……?」


「もう、私から言わせないでよ……分かってるでしょ?」


 分かってる。

 つまり、男女でアレをアレするということだ。

 夜のアレというわけだ。


 分かってるよ?

 でもね、アリアス。俺は自慢じゃないけど、前世も今世も童貞なわけ。

 こういう状況でどうすればいいかなんて、全然わかんない。


 え、どうしよう。

 完全にそういう雰囲気になっちゃってるよね。


「あ、ああ。だ、だけどアリアス……俺、その……は、初めてだから……よく分かんなくてさ……」


「わ、私だって初めてだからね!? 経験豊富とでも思ってたの!?」


「いや、そんだけかわいいなら彼氏の一人や二人、いたのかなぁとは思ってたけど……」


「エルフが迫害されてる国で、彼氏ができるわけないじゃない! ……ダーリンが初めての彼氏。どう? 安心した?」


 安心というか、別に元彼がいても気にしないけど。

 単純に俺が初めてだから、こういう雰囲気になると及び腰になるだけだ。


 だが、アリアスの気持ちは分かった。

 アリアスも初めてだが、こうして俺の元に来てくれている。

 内心俺と同じで不安があるのかもしれない。いや、結構乗り気な気もするが。


 これは契りだ。

 愛する者同士がその愛情を確かめ合う行為なのだ。


 そんなに重く考えずノリでヤッてる人が大半だが……。


 だが、俺達は夫婦だ。

 結婚したのに数ヶ月もの間、夜の営みが無いというのはいささか不自然だ。

 アリアスはそれを不安に思ったのかもしれない。


 つまり夫である俺の務めとして、アリアスを抱く。

 これはそういう儀式なのである。


 内心、童貞卒業チャンスだヒャッホー! と思う俺もいれば、どどどどどうしようとビビってる俺もいる。

 だが臆するな、ここを乗り越えたらそういう恐怖ともおさらばできるのだ! たぶん!


「アリアス……」


「あっ……」


 俺はアリアスの体を抱きしめる。

 柔らかい体、シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。

 デカパイ過ぎて、俺の胸板で変形する胸がまた素晴らしい。


 こういう時、エロ同人ではどういう台詞を言っていたか……。

 脳内データベースから、それっぽい台詞を検索してみる。


「今夜は寝かさないから……」


「ぷっ……声震えてるわよ、ダーリン」


 ダッサ! 俺最高にダッサ!


「でも、ダーリンがその気になってくれて嬉しいわ。私こそダーリンのこと、寝かさないから♡」


 そう言うと、アリアスは俺の手を掴み、自分の胸元に引き寄せた。


 ギュム、とも違う。ムニュ、とも違う。

 ふわっとした感触が俺の手に伝わる……温かい感触。


 電気を消していたから分からなかったが、おそらくパジャマの下は何も着けてない。

 これが生乳の感触…………。


「どう?」


「うん……うん……なるほど……」


 もみ。もみもみ。

 ふーん、エッチじゃん。


「ダーリン……な、何か言ってよ」


「ごめん……感動して……ちょっと泣く……」


「ほ、本当に泣いてる! そ、そんなに胸を触るのが嬉しかったの!?」


「うん……デカパイ感謝……」


 俺の人生に一片の悔いなし。

 転生して、結婚してよかった。


「そ、その……胸をずっと揉まれてるの……恥ずかしいんだけれど……」


「ごめん……あと三十分くらい……」


「さ、さんじゅっ!?」


 ありがとう。

 ありがとうアリアス。

 ありがとうデカパイ。


 今夜は絶対に、寝ません。

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