第69話 死の大地に自然が蘇る
「さて、こののじゃロリを倒したはいいが……このまま放置するわけにもいかんよな」
「ぐ……なぜじゃ……何故妾が人間ごときに負けて……妾は竜を束ねる姫……邪神様の願いを果たすべく、この地を……人間を……人間を? いや違う……妾たちと人間は……かつて共に暮らしていた……殺してはいかんのじゃ……でも、ぐぅ……」
流石はドラゴンの姫と言ったところか。
俺の攻撃を受けて瀕死で済んでいる。
こりゃ、さっきの技は必殺技失格だな。敵を殺せない技は必殺技とは呼べんだろう。
「妾は人間を滅ぼし……我らをこんな風にした勇者を……いや、邪神を倒して……ぐ、うぅぅ……!」
「こりゃ酷いな。完全に意識が混濁してる。三十連勤して徹夜続きだった時の俺みたいだ」
「あ……マヤトの地は妾が守る……それだけは……必ず……」
可愛そうな子だな。
竜族の長として人間と平和に暮らしていたのに、邪神のせいで全てが壊れたわけだ。
もう記憶も混濁して、誰を憎むべきかも分かってないっぽい。
俺にしてやれるのは、これ以上彼女の愛するこの地に被害を出さないよう、介錯してやることくらいだ。
「あぁ……もう楽にしてくれ……妾は疲れた……」
のじゃロリが力尽きて、体を倒した時だった。
それは突然、俺の視界に入った。
のじゃロリは和風の着物を着た、龍の角が生えたロリっ娘だ。
そんなロリが無防備に体を動かせば、当然着物が緩くなる。
そこから見えたのは、この世の真実。
淡いピンク色の突起が見えた!
気の所為じゃないかと、もう一度確認する。
間違いない。TKBがもろに見えている。
あれ、俺ってデカパイ好きじゃなかったっけ?
今のこれだけで、たまにはしょぼパイもいいなと鞍替えしそうになりそうだ。
「もう、お主の手で楽にしてくれ……」
全然話が頭に入ってこない。
俺の頭の中には、果たしてこれがガチロリのTKBなのか、それともロリババアのTKBなのか。
前者だとアウトだが、後者だともはや美術的価値すら感じる。
そう。端的に言うとのじゃロリのそれは綺麗だった。
「おいどうした小童……妾を殺さぬのか……?」
「黙ってくれ。今真剣な選択を迫られているんだ!」
活かすべきか殺すべきか。
別に俺は殺すのが趣味ってわけじゃない。
殺さずに事件が解決出来るなら、その方がずっといい。
決して、のじゃロリババアのTKBに惹かれたわけではない。
だがこのままだと、のじゃロリは邪神の力のせいで。再び正気を失うだろう。
そうなれば、今度こそ息の根を止めなければならない。
選択の時間は少ない。
「……おい、そのへその辺りにある紋章はなんだ?」
「これは……なんじゃったかのう……。昔はこんなもの、ついてなかったはずなんじゃが……」
服がはだけたおかげで、のじゃロリはほぼ裸も同然の姿になっている。
その中で分かった新たな事実。お腹に淫紋みたいなマークが刻まれているのだ。
「このマーク、どこかで見たことがあるような……そうか! ユグドラ民の
「聖痕じゃと……? 妾はそんなもの、この身に刻んだ覚えはないんじゃが……」
「つまり誰かに刻まれたってことだ。誰か? 決まってる。邪神に刻まれたんだよ。人間と共存するドラゴンが邪魔で邪魔で、仕方なかったんだろうさ」
「そんなはずは……妾は、人間を滅ぼすために……邪神様が……くぅ、頭が割れそうじゃ……!」
つまりローレシアやユグドラ国民がされたようなことを、こののじゃロリもされていたというわけだ。
しかも邪神自ら、のじゃロリを配下に加えようとしていたのだろう。かなり強い呪いのはずだ。
しかし、それでも自我が暴走する程度で済んでいるのは上位の竜種だからだろうか。
だらしのないユグドラ国民は、全員魔族に変貌してしまったからな。大違いだ。
「仕方ない。もう使うことはないと思ってたけど、この武器の出番だな」
俺はアイテムボックスから剣を取り出す。
それをしっかりと握り、のじゃロリの腹部に狙いを定める。
「それで……よいのじゃ……これ以上、妾は故郷を壊したくない……自分を失いたくないのじゃ……」
「そうか。なら思う存分、やらせてもらうぞ!」
俺は短剣をのじゃロリの淫紋……じゃない、怪しい紋章に突き刺した。
腹部を貫通するほどの強烈な一撃。尋常じゃないダメージがあるはずだ。
通常の剣なら……の話だが。
「……なんと、お主……何をしたんじゃ?」
「お前にかかっている呪いを解除した。俺の持つ、解除の剣で邪神からの干渉を打ち消したんだよ」
「た、確かに変な紋章が消えておる……頭も、随分とはっきりしておる。これは夢かのぅ……!」
「残念ながら現実だ。さっきまで死にたいって言ってたのに、悪かったな。殺してやれなくて」
「じゃが……今まで心を巣食っていた闇が、綺麗さっぱり消えておる……。本当に妾は、邪神の洗脳を受けていたんじゃな……」
「お前が正気に戻ったからか? この地の天変地異が治まったみたいだな」
竜巻やマグマ、空の歪みが全て嘘のように元通りになった。
つまり、のじゃロリ一人でこの地の天変地異をコントロール出来るほどの力があるって証左だ。
確かに、そんな龍が人間の味方をしてたなら、邪神も厄介に思うだろうな。
「妾は……生きてしまったんじゃな……」
「別に、死ななきゃいけない理由もないだろ」
「妾は昔、ここで大罪を犯したのじゃ。配下の龍に命じて、この地を荒らし、人間を蹂躙した……」
「それは邪神の気にあてられたからだろ? 俺の周りには、そんなやつばっかりだぜ。案外みんな、元気に生きてるよ」
ローレシアとか、陛下とか。
邪神の魔力で操られそうになったり、実際に操られて国を滅ぼした。
けど、二人共元気にやってる。いや陛下は元気とは言いづらいけど。
それでも生きていけるもんだ。
「妾には、今後どうやって生きていけばいいんじゃろうな……」
「竜姫なんだろ? 昔、この大地の主だったんだろ? だったら、俺が村作りをやってるから、手伝ってくれよ」
「村作り……? なんじゃそれは……」
「お前や配下の龍が暴走したからか、封印されたからか知らんが、ここは死の大地って呼ばれるくらい、自然も天候も食料も……とにかく何も無いんだよ。お前が罪滅ぼしをしたいなら、今この地で生きる人のために、何か力になってくれよ」
「村作り……かつては妾も、そんなことをしたのぅ……懐かしいのぅ」
「食料、塩、酒、他にも移動手段や天候や地質、悩むことばかりなんだ。どうにかしてくれないか? 龍は神の化身って呼ばれるほどの、すごい種族なんだろ?」
「そうじゃとも。お主の言う通り、妾はかつてこの国を滅ぼした責任がある。そして今の人間に報いなければならぬのじゃ! お主の村作りの件、そしてマヤトの地の問題を妾がなんとかしてみせようぞ!」
そう言うと、のじゃロリは黄金の魔力に包まれて、その姿を変える。
黄金の美しき龍が、そこに佇んでいた。
『まずは忠誠の証じゃ! 妾の力をとくと見るが良い!』
のじゃロリこと黄金の龍は空高くブレスを吹き付けると、その魔力が死の大地全体に広がっていく。
まるで夢のようだ。
赤い雲は消え去り、太陽が現れた。しかし暑いわけじゃなく、半袖ならギリギリ耐えられるほどの暑さだ。
次に大地が、みるみる蘇っていく。今まで荒れた大地でしかなかったのが、自然豊かな大地へと変貌を遂げた。
そして他にも変化があるようだ。まだまだ俺一人じゃ確認できそうにない。
「すごいな。その龍の状態がお前の真の姿なのか?」
『そうじゃ。人型のときの、ざっと数百倍は力が上がっておるぞ』
よかった。俺相手にこの姿を出さなくて、本当に良かった。
なにはともあれ、これで死の大地に自然が戻ったのだった。
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