第67話 伝説の竜姫
「REEEEDDDDDDDDDDDD!!!!!!!!」
「威勢がいいのは結構だが、これ以上暴れられても迷惑なんでな。そろそろ決着と行こうか」
クロノグラムを空高く掲げる。
俺の魔力、そして大気中の魔力を吸い上げて、クロノグラムは唸りを上げる。
「終わりにしてやる。お目覚めの時間だクロノグラム。拘束解除……出力解放レベル
「REDD……!」
「OSYIII……!」
「リヴァイアサンの時もそうだが、どうやらお前らには分かるようだな。この俺とお前らの力の差が。そうとも、これこそが俺の真の実力、その一端だ」
なんて格好つけてるけど、単に出力調整を行なってるだけである。
俺が本当に全力で魔力を解き放つと、どうなるか分からんからな。
念の為、セーブをかけてるだけのことを、拘束解除とか格好つけてるだけだ。
でも、男の子ってこういうの好きだろ?
ロックが解除される度に、ガシャンって拘束が外れるのかっこいいだろ。
実際、俺の魔力は通常時より格段に上がっているので、嘘はついてないしな。
せっかく異世界に転生したんだから、厨二スタイルで無双するのも大事だよ。
永遠の憧れと言っても過言じゃない。いや、そういうのが苦手な人もいるか?
とりあえず、俺は好きだ。
「見せてやろう……社畜の闇が生み出した最強の闇の力……! 絶対的な闇の前には、いかなる力も無力と化す! 大いなる闇の前に、朽ち果てろ! ダークマター・デスサイズ!」
強化されたクロノグラムを空中で一振りする。
それだけで、敵の首を切断する。
避けることの出来ない、必中必殺の技だ。
まさに処刑鎌の名前を冠するに相応しい必殺技と言えるだろう。
やっぱり、必殺技は絶対に敵を倒さなくちゃな。
敵に効かない必殺技なんて、必殺技じゃない。それはもはや通常技だ。
だから俺の必殺技は、絶対に敵が死ぬような技を開発している。
そのせいで、絵面的にグロい気がするけど、暗黒騎士だからセーフということで。
「RE……REDDD……」
「OSY…………」
二匹のドラゴンは綺麗に首が跳ね飛び、鮮血が噴いている。
これで祠に封印されていたドラゴンは全員、俺が倒したはずだ。
「結局、大したことなかったな。やっぱり人間相手じゃないと、やる気が湧かない」
別に。俺が人殺しに楽しみを見出してるってわけじゃない。
ただ、戦うとなると対人戦が一番盛り上がると思う。
同じ人間同士だから、戦闘の駆け引きや力のぶつかり合いに楽しさを見出せる気がする。
前世は喧嘩とか、好きじゃなかったんだけどなぁ。
すっかりこの世界の考え方に染まった気がする。
「ほぅ、妾の眷属を全て倒したかえ」
不意に背後から声がした。
俺が振り返ると、そこには幼い少女がいた。
「誰だお前は」
「これは申し遅れた。妾はかつてこの地を治めていた竜姫じゃ。名をマヤトと言う」
「マヤト……確か、死の大地の正式名称がマヤトって言ったか」
「妾の名前が後世にも伝わっておるようで何より何より。それよりお主、人間かえ?」
「だとしたら何だ? てかお前は誰だよ。いきなり出てくるなんて、怪しさが半端じゃないぞ」
このマヤトと名乗る少女、只者じゃない。
纏っている魔力の量もそうだが、外見の幼さからは想像もつかないような、淫靡な雰囲気を感じる。
それにこの邪悪な魔力は、かつて三流魔王が纏っていた魔力と雰囲気が似ている。
それになにより、ロリババアだ。
頭に二本の角が生えている。竜人という奴だろうか。
ロリババアで竜人って、属性盛りすぎだろ。
この世界に珍しい、黒髪和風ロリってだけでビジュアルが強い。
「お前、異界の神の使いか?」
「おや、異界の神を知ってるのかえ? それなら話は早い。妾はかつて、異界の神に力を与えらえ、この地に終焉をもたらした者よ」
「終焉って、どういうことだよ。まるでお前が、この地を荒れ果てた大地に変えたみたいな言い方だな」
「そう言ったつもりなんじゃがのう。人間には理解が及ばぬか」
「つまり、年がら年中暑いのも、作物がろくに育たないのも、天候が悪いのも、全てお前のせいだと?」
「そうじゃ。妾が邪神様の力を授けられて、このマヤトの地をこのような荒れた大地へと変えてやった。かつて手を取り合った人間共が住めないように、徹底的に破壊し尽くしたのよ」
それが本当なら、俺達が死の大地で大変な思いをしているのは、こいつのせいという話になる。
俺が毎朝早くに起きて、空に向かって赤い雲を作らなくちゃいけないのも、こいつのせいってことだ。
「どうした? 怒りが湧いてこぬか? 妾を殺そうとしないのかえ?」
「別に、怒りとかまでは……。余計なことしやがってとは思うけどな」
「そうか。お前さんは随分と寛容なんじゃな。だが妾はお前に興味を持ったぞ。我が眷属の竜たちをあっという間に倒した、お主の力に興味がある」
「別に俺の村に危害を及ぼす気がないなら、戦うつもりはないぞ」
「お主が戦うつもりを見せないなら、妾にも考えがあるぞえ?」
「じゃあ、お前は俺の敵だな」
「そういうことじゃ。最初からそう言うておろう」
じゃあ殺そう。
こいつが俺の村に危害を与えるつもりなら、先に殺すまで。
俺はクロノグラムでのじゃロリ竜娘の首を狙う。
「か、硬え!」
「龍の逆鱗って知っとるかえ? 妾の場合は急所についておるのだが、お主は今、妾の逆鱗に触れたぞ」
のじゃロリ龍娘が胸元から扇子を取り出す。
そして扇子を広げ、一回仰ぐ。
それだけで、俺は吹き飛ばされた。
「ぐおおおぇぇぇぇぇ? な、何が起きたんだ!」
「ほぉ、この一撃に耐えられる人間がおったとは、つくづくお主は面白いのぅ。どうじゃ、妾の眷属になる気はないかぇ」
「俺は人間だっつうの。龍の眷属になる気はねぇ!」
とは言いつつも、つい最近まで社会の奴隷だった俺なのだが。
「妾の眷属になれば、永遠にも等しい命を得ることが出来る。神に等しい力も手に入れられる。素晴らしいとは思わぬかえ?」
「それのどこが素晴らしいんだよ……。最悪だよ、最悪。死ぬことも出来ない、ずーっと生きてなきゃいけないなんて、俺にとっちゃ苦痛でしかないね。そりゃ死にたくはないけど、死ぬ時は死ぬもんだしな」
前世の俺も、まさかあんなにあっさり死ぬとは思わなかった。
だが死ぬ時に、まぁこんなもんかと諦めがついたのも事実。
死にたくないけど、避けようがない。永遠の命なんて欲しくも無い。
「あと、神に等しい力ってのも興味ないね。だって、そんな力を持ってる癖に、祠に封印されるような奴らだろ。しょぼくて笑っちゃうね」
「そうか、そうか。ならお主を屈服させた後に、妾の眷属にしてやろう。妾の足の指の隙間を、その舌で拭き取り、足の裏まで舐めさせる屈辱を与えてやろう」
「それは屈辱なのか……?」
「屈辱であろう?」
いや、俺的には全然アリなんだけど……。
まぁこれは分かり合えないだろう。価値観の違いってやつだな。
「じゃあ、俺が勝ったら……どうしよう。適当に……後悔することさえ出来ないくらい、滅茶苦茶にしてやるぜ」
「おぉ怖い。一体妾の体に、何をするつもりなんじゃろう。いやらしい小童よのぅ」
「俺はロリババアに興味はない」
「お姉さんと呼べ、ガキが」
嘘だけどね。デカパイ大好きだけど、それ以外も守備範囲だけどね。
でも敵を性的に見るとか、出来るわけないからな。
「クロノグラム、どうやら敵は今までで一番の奴らしい。最初から拘束解除……出力解放レベル
「龍姫マヤト……数千年の眠りより目覚め、今ここに舞い降りよう」
「いざ……」
「勝負じゃ!」
クロノグラムとのじゃロリの扇子がぶつかり合う。
その衝撃で、死の大地全体に衝撃波が広がる。
空は裂け、赤い雲の一部が消し飛んだ。
地面は砕けて、川は洪水が起きる。
もう、バトル物のスケールじゃなくて災害なのよ、これは。
「さぁ小童! お主の力で、この龍姫マヤトの全力を引き出してみるがよい!」
「てめぇの方こそ、俺に全力を出させてみやがれ!」
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