第66話 祠が三つ、ボスドラゴンが三匹

「あっつなぁ……」


 今日も明け方に空に向かって魔法をぶっぱして、赤い雲を大量発生させた。

 いい加減、この仕事も面倒になってきたなぁ。

 毎朝早く起きるのって嫌なんだよな。俺は基本、夜型なのに。


「というか、そろそろ冬なのに暑いのもおかしいよな……。いくら死の大地って呼ばれてても、周りの国は季節の変化があるのに、ここだけ無いっておかしすぎる」


「おはよ〜ダーリン……」


「おは……よう……ございます……旦那様……ふわぁ」


 天使が現れたと思ったら、アリアスとローレシアだった。

 いや、二人とも天使で間違いないな。

 寝起きのちょっとだらしない姿も、かわいいと絵になる。最高だ。


「あなたも毎日大変ね。早起きは健康にいいって言うけれど、いい加減太陽の光を浴びたいわ」


「この地方はずっと、旦那様の赤い雲で暗いですしね」


「とは言っても、あの雲が無かったら炎天下でみんな死ぬからなぁ」


「それはそうね。ああ〜お日様の光が恋しいわ!」


 アリアスの言うことはもっともだ。

 俺もいい加減、日光を浴びてスッキリしたい。

 ずっと曇りだと、なんだか気分が滅入ってしまいそうだ。


 別に普段から陰気だろと言われると、何も言えないのだが。


「あれ……旦那様、空をよく見てください。なんだか様子がおかしい気がします」


「え?」


 ローレシアが指差す方を見ると、確かに空の様子が変だった。

 いつもは赤い雲がどんよりと流れているのだが、それがいつもと違った。


 空が歪んでいる。

 写真加工アプリで加工したみたいに、歪んで見えるのだ。


「ダーリン、なにか変な魔法でも使ったの?」


「いや、いつもと同じやり方だけど……」


「まだ暗いから分かりづらいですが、空全体が歪んで見えますね……」


「なんだか不吉だわ……」


 いつもと違う光景。

 こういう時、大抵何かが起きる前触れなのだ。


「祠と何か関係があるのか……? あれくらいしか原因が思いつかんぞ」


「祠? それって、前にリヴァイアサンが出現した時のアレのこと?」


「いや、村民が新しい祠を見つけたらしいんだよ。それが何か、空の異変と関係あるのかなと」


「断定出来ませんけど、確かに気になりますね……」


 たぶん断定していいだろう。

 ほぼ確実に、あの祠と関係ある。だって、他にフラグがないからな。

 ということは、またリヴァイアサンみたいなのが出現するってことか。


「とりあえず、村民全員に警戒するように言ってくる」


「分かりました。私達はどうしましょうか」


「じゃあ、美味しい朝ご飯を作って待っててくれ」


 そう言うと、ローレシアはふふっと笑った。

 アリアスはやれやれといった態度だ。


「分かりました。それじゃあ、とびっきりの美味しい朝ご飯を作って待ってますね」


「行ってらっしゃい、ダーリン!」


「ああ。行ってきます」


 今日も一日、頑張るか。

 嫁の笑顔が俺のパワーだ。


 ◆◆◆


「村人全員に警戒体制を敷くよう言ったはいいものの、さてどうするかな」


 空模様は相変わらずおかしい。

 それだけじゃなく、なんか風も強くなってきた。


「絶対おかしいよな……地震まで発生し始めたし。これ、何か起きるフラグすぎるだろ」


 なんか光の柱みたいなのが出てるし。

 三本あるけど、一つはフェリスに聞いた新しい祠が見つかった方角だ。


「祠の封印が解けかかってるとか……? ってことは、前壊した祠も含めて全部で四つあったのか」


 もはや天変地異が起きているといっても過言じゃない。

 竜巻まで発生し始めた。


「村長〜! これ大丈夫なのか!」


「分からないけど、みんなは家で待機してくれ! 家は耐震補強してると思うから!」


「村長はどうすんだ?」


「外にいたら危険だぜ!」


「そうだけど、こんなに怪しい状況だと、放置しておくわけにもいかんだろうしなぁ」


 結局、俺が祠を放置しようがしまいが、こうなってしまうのだ。

 何がどう関係してるのかは分からんが、この異常現象に祠が関係しているのは間違いない。

 だって他にフラグがないからな。


「とりあえず、祠をぶっ壊してくる」


「この前は触れるなって言っておいて、大丈夫なのか〜!」


「前言撤回だ! 何か起きてるんなら、もう壊すしかねぇ!」


「村長一人で大丈夫か〜!」


「なんとかしてみる! みんなは安全な場所で避難を優先してくれ!」


 おそらく祠を壊したら、この前のリヴァイアサンみたいな奴らが出てくるんだろうな。

 それも三匹。あーやだやだ。

 俺のスローライフは、一筋縄では行かないらしい。


「それじゃあ、行ってくるか!」


 ◆◆◆


 村から離れた場所までやってきた。

 ここなら、多少暴れても村のみんなに被害がいかないだろう。


「じゃあ始めるか。まずは光の柱、そこにある祠三つをぶっ壊す! ダークマター・レクイエム!」


 遠距離から光の柱の発生している場所目掛けて攻撃する。

 ご丁寧に光の柱なんて目印を出してくれるなんて、今回の敵も分かりやすい奴らだ。


 ドゴォン! と何かが壊れた音が聞こえる。

 たぶん祠の破壊は成功しただろう。


「問題はこの後、祠を壊したら何が出るかな」


 数秒経って、光の柱が消滅した。

 かと思えば、今度は馬鹿でかい魔力が三つ、こっちに向かってくる。


「封印が解けて暴れたい気分なのか? まあ丁度いい。三匹まとめてぶっ潰してやる」


 歪んだ空から出現したのは、細長い龍だった。

 地震が止まらない大地が割れて、そこから這い出てきたのは岩石を纏ったドラゴンだ。

 そして竜巻を従えてこちらに向かってくるのは、大きな羽を持ったドラゴン。


 どいつもそこら辺のドラゴンと違い、明確にボスっぽい雰囲気を醸し出している。


「OSYIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!」


「REDDDDDDDDDDDDDD!!!!!!!!!!!」


「TEMPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!!!!!!!!!」


「あー、何言ってるのか全然分からねぇよ。暴れたいだけなら他所でやれよな、まったく」


 人様の領地で好き勝手やりやがって。

 迷惑にも程があるぜ。


 いや、法律で俺の領地って決まってるわけじゃないけどね。


「OSYYYIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!!」


「うおっ! 天空の龍、空を自在に飛べるのかよ! スカイドラゴンってやつか?」


 いきなり飛んてきて噛みつこうだなんて、乱暴な奴だ。

 そんな乱暴者には、俺の愛剣クロノグラムで眼球潰しをお見舞いだ。


「OOOOOOOOOOOOOSSSSSSYYYYYYYIIIIIIIIIIIIII!!!!!」


「効いてる効いてる。やっぱり龍といえど、目潰しは痛いみたいだ。ほら、残りの二匹もかかってこいよ」


「REDDDDDDDDDDDDDD!!!!!!!!!!!!!!」


「すげぇ、大地を操作して岩石の槍を作ってる! ドラゴンの癖に器用だな!」


「REEEEEEEEEEEEEEEEEEEDDDDD!!!!!!!」


「だが残念、そういう技は岩帝もたぶん使えるぞ。ドラゴンだから規模こそデカいけど、珍しい技ってわけでもない」


 俺に放たれた岩石の槍を全て弾き飛ばす。

 最後の一本だけは、大地のドラゴンに向かって跳ね返す。

 自分の攻撃でも喰らってろ。


「REEEEEDD!!」


「おお! マグマのシールドで防いだか! てかマグマとかあるんだな、この地方って」


「RRRRRRRRREEDDD!!!!!!!」


 大地のドラゴンはマグマを操り、砲弾のように放ってくる。

 一つ一つが大型トラック並みのサイズだ。

 当たったら即死だな。当たらねぇけど。


「これでも喰らえ」


 俺は魔力の剣を作り出し、それを大地のドラゴンに向けて放つ。

 マグマを放つのに夢中な奴は、俺の攻撃に気付かず直撃を受ける。

 スカイドラゴンと同じく、目を潰してやった。


「REEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!」


「こいつら、知性のあるドラゴンとか言ってるけど、おつむが残念だな。そこら辺のドラゴンよりは頭は回るみたいだが」


「TEEEEEEEEEEMMMMMMMMMPPPPPPPPPP!!!!!!!!!」


 竜巻のドラゴンが、竜巻を吸収している。

 魔力がどんどん高まっている。一撃ぶちかましてくるっぽいな。


「TTTTTTTEEEEEEEEEEEEEEEEEMMMMMMMMMMMMP!!!!!!!!!!!」


 竜巻のドラゴンは、口から高濃度のエネルギー波を放ってきた。

 かなりの威力だ。たぶん直撃したら、消し炭になるな。


「喰らえ。クロノグラム」


 その攻撃を、俺はクロノグラムで吸収する。

 高濃度の魔力を喰らい、クロノグラムも悶え喜んでいる。


「お返しだ」


 魔力の餌を得て、昂るクロノグラムで竜巻のドラゴンを一閃する。

 それだけで、竜巻のドラゴンは真っ二つ。

 呆気なく、地面に落ちていった。


「どうした、この程度か? 災害みたいな規模の癖に、俺一人に負けるのか」


「RRRREEEEEEEEEEDDDDDDDD……!!!!!!!!!!」


「OOOOSSSSSSSSYYYYYYYYIIIIII……!!!!!!!」


 ドラゴン退治も慣れてきたな。

 俺、この戦いが終わったら竜殺しの称号を得るんだ。


「お前らも、俺の村のリソースにしてやるぜ!」

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