第62話 村に水路を引く

「川だー!」


「すげぇ! 水があるぞ! こんな死の大地に!」


「どうなんてるんだ! 村長がやってくれたのか?」


 村のみんなも、突然川が出来たことに驚いたようだ。

 当然だろう。天変地異でも起きないと、ある日川がいきなり出来るわけがない。


「水のドラゴンを倒したら、その影響で川が出来たんだよ」


「なんだか分からねえけど、すごいじゃないか!」


「これで生活水準も、大幅に上がるぞ!」


 うんうん、村人全員が喜んでいるようで、村長として鼻が高い。


「ところで村長、この川の水はどうやって村まで運ぶんだ?」


「え゛っ」


「一般的には水路を作って、川の水を取水口から水路に流して、村の溜池に流す感じだろう」


「俺達、水路作りのノウハウなんてないぜ〜」


 これは困った。この世界には水路は既に確立した文明だ。

 俺のスキルで生成できない。今回ばかりは俺の前世知識は活かせそうにない。


「それなら、みんなで作るか!」


「村長がここまでお膳立てしてくれたんだ! 後は俺達がどうにかしようぜ!」


「みんな……ありがとうな! 俺に手伝えることがあれば、なんでも言ってくれ!」


「ん?」


「今なんでもって言ったよな、村長」


「なら一番大変な、溜池作りと、水路の材料を作ってくれ!」


 衝撃!

 村長になっても、下っ端仕事から抜け出せなかった。


「えーと、どれくらい土を掘ればいいんだ?」


「そうだな。移住希望者のことも考えて、大きめで頼む。欲しいのは木材と、岩、あと水路を設置出来る綺麗な地面だな」


「そうか。それならどうにか……覚醒しろ、クロノグラム!」


「ちょ、ちょっと待て村長!」


「いきなり大技は危ねえって!」


「上手いこと避けろ! これが一番手っ取り早い!」


 ズバアアアァァァァン! と村の周りに大きな音が響き渡る。

 村の端から川まで、一直線に地面を均した。

 そして溜池予定の場所も、クロノグラムで土を吹き飛ばすている。


 ついでに周りの木を伐採して、綺麗に加工しておいた。


「準備万端だな! さぁ、みんなで一緒に村へ水を引こう!」


「あ、ああ……」


 なぜみんな、俺に対して引いているのだろう。

 俺は水を引きたいだけなのに。


「村長、すげぇけどパワフルすぎるよな……」


「あれは人間やめてるぜ。村の周囲一角を更地にしたんだぜ」


「でも、おかげで作業が楽になったじゃないか。やろうぜみんな!」


「「「おおー!」」」


 なぜか俺以外のみんなが、一致団結して作業に取り掛かった。

 俺もその輪の中に入りたかったよ……。


 ◆◆◆


 みんなの協力もあって、水路作りは数日で完成した。

 溜池に水が溜まっていくのを見て、思わず感動してしまう。

 泣けるやんか……。


「次はいよいよ米だ! 水田作りをするぞ!」


 俺の念願の米作りまでたどり着いた。


 まず、クロノグラムで水田予定地の地面を切り飛ばし、溜池から水路を延長して、水を流す。

 細かいところは村人にも調整してもらい、どうにか目的の水田は完成した。


 確か前世のネットで見たうろ覚え知識だと、ある程度水が行き渡ったら水路に栓をして水の上げすぎに注意だったか。


「そして発動しろ、【ダークマター】! 異世界でも育つ苗を生成しろ!」


「これが村長の作りたがってた米なのか?」


「どう成長すんのか楽しみだな〜」


「まだこれからだ。みなさんには、田植えをやってもらいます」


「え? なんだよそりゃ」


「やってみれば分かるさ」


 ◆◆◆


「ぐおおおおおおお!!!! 脚が壊れるぅぅぅぅ!」


 うんうん、田植えってきついよね。分かるよ。


「こ、こんなので本当に美味しいものが作れるんでしょうか」


「任せとけって! 絶対おいしいから」


 その自信を分けてほしいね。


 ともかく、こうして念願の水路、そして水田が手に入ったのだった。

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