第61話 元暗黒騎士は水着イベントを堪能する

 俺がリヴァイアサンを倒した後、湖で大爆発が起こった。

 恐らく、途方もない魔力を持つリヴァイアサンが消滅したことで、その魔力が大気に還ったのだろう。

 そして、その魔力は新たなリソースとして、この死の大地に循環された。


 なんと、湖の他に川が出来たのだ。

 いくつかの河川が繋がって、死の大地の南の方まで伸びている。

 恐らく、このまま国境を超えてどこかの海に繋がるのかもしれない。


 だがそんなことはどうでもいい。

 川が出来たということは、水着で遊ぶ絶好のチャンスではないか!


「川で遊ぶの? 別にいいけれど、ダーリンって案外子供っぽいところもあるのね」


 違うな、アリアス。

 俺は川遊びをしたいわけじゃない。

 みんなの水着を拝みたいのだ。こんなの、子供には刺激的過ぎるからな。

 つまり俺は立派な大人ということである。

 本当だろうか? 最近のキッズは進んでるからなぁ。前世で死ぬ前、全年齢のソシャゲでも、水着キャラとか普通にいたような。


「服を着たまま川に入るのは、少々いやですが……かと言って、裸はちょっと……!」


 そうとも! そのための水着だ!

 そして水着なんて、この世界にない!

 ならば作り出せばいいのだ。この俺のチートスキル、【ダークマター】でな!

 俺の嫁を、ソシャゲの水着イベント限定キャラみたいな、課金したくなるようなコーディネートをしてやろうではないか!


「発動せよ、【ダークマター】!」


「これは……下着かしら?」


「さ、流石に下着で川に入るのは恥ずかしいです……!」


「違う違う。これは水着って言って、水に濡れてもいい服なんだよ。デザインもかわいいし、水辺でのオシャレ着みたいなものだよ」


「本当かしら? 私の水着、布面積が低くないかしら?」


「ああ! アリアスはスタイルがいいからな! 黒のビキニでコントラスト最高だ!」


 金髪デカパイエルフには黒ビキニを着せろ。これは王道である。


「あの〜レクス……。私の水着……これは……?」


「ローレシアは純白水着だ! 清楚風なフリフリがついてて、似合うと思うぞ!」


 やはり清楚な娘には白を着せろ。これは鉄板である。


「これ、下着より隠すところが少ないんですが……うぅ……」


「大丈夫! 俺達以外いないから!」


「こ、これを着たら、レクスは喜びますか……?」


「……ああ!」


 それはもう、ソシャゲのURを引いた時の数百倍は喜ぶさ。

 なにせ可愛い嫁の水着姿だ。これで喜ばないなら、俺は男じゃない。


「じゃあ着替えてくるけど、覗いちゃダメよ♡」


「ほ、本当に見ちゃダメですからね! は、恥ずかしいので……絶対ダメですから……!」


「それはフリなのか……? いやしかし、着替えた後のお披露目こそが本番だしな……」


 アリアス達は人目のないところへ移動した。

 俺はしばらく、彼女達の着替えを待つ身となった。


 そこにちょんちょんと、俺をつつく感触があった。


「どうした、フェリス」


「村長さま、私も水着欲しい。ちょうだい」


 猫って水が嫌いなイメージだが、フェリスはそうでも無いのだろうか。

 猫っぽいところがあると思えば、そうじゃない部分もある。

 獣人っていうのは、とても不思議だ。


「一応生成しておいたけど、着てみるか?」


「うん。ありがと」


「ああ。それじゃあ、アリアス達と一緒に着替えて……っておい! ここで脱ぐな!」


「別に気にしない。大丈夫なの」


「いや、俺が気にするんだけど……」


「にゃん? 村長さまは女の子の裸、好きじゃないの?」


「好きだけど……」


「私は気にしないから、好きなだけ見ていいよ」


 なるほど、そういうシチュエーションもあるのか……!

 だが嫁の着替えを覗かないと誓った以上、他の女の裸を見るわけにはいかない。

 ここは心を鬼にして、我慢しなければいけない。


「あっ……! 尻尾が引っかかって……くすぐったい……んんっ!」


「大丈夫か!? 怪我とか……はっ!」


「見たね。村長さまのえっち、なの」


「不可抗力だ。お願いだから、嫁には黙っててくれ」


「ふふん、いいよ。その代わり、水着の感想を聞かせてほしいの」


「感想ねぇ……」


 フェリスに用意したのは、スポーツタイプの水着だ。

 ビーチバレーを想像して貰えば分かりやすいだろう。


 率直に言って、似合っている。

 鍛え抜かれた獣人の体と、スポーティーな水着の組み合わせ。

 それはまさに、俺が前世で死ぬ前にブームが来そうな気配のあった、腹筋バキバキ太もも太すぎ系女子! おまけにケモ耳付きと来た。

 こんなの、もはや性癖のハッピーセットだろ。


「似合ってるんじゃないか? フェリスのイメージに合ってると思う」


「そう。よかった」


 なぜ笑うんだろう。俺に褒められて、嬉しいのか?

 一応俺は村のトップだから、長に認められて嬉しいとか、そういうことだろうか。


「お待たせ〜! 着替えてきたわよ〜! どうかしら!」


「おお……!」


「ほら、ダーリン。何か言うことがあるんじゃないの?」


「女神だ……女神がいる……性癖の女神だ……」


「ど、どうしたのよ!? 急に泣き出しちゃって! もしかして、スキルの副作用かしら? 精神が不安定になってるの?」


 それも多少ある。

 だが俺は歓喜したのだ。これほどの暴力があっていいのか。

 デカパイとは、フィクションより奇なり。水着が胸に食い込んでるのが、なんかいい。

 やはり本物のデカパイエルフの水着姿は、どんな二次元よりも神々しく見える。


「綺麗だよ、アリアス。とても似合ってる。世界一かわいいな……」


「も、もう! そういうことを言うのは禁止! ダーリンに頼まれたから着たけれど、恥ずかしいんだから……」


 恥じらいも完備している。なるほど、完璧とはアリアスのことを指していたのか。

 これが前世で夢見たユートピア。男の夢がここには詰まっている。


「ほら、聖女さまも出てきなさいよ! 恥ずかしがってないで、ほら!」


「あ、アリアスさん……私はちょっと、きゃあっ!」


 岩陰に隠れていたローレシアが、アリアスに引っ張られて姿を見せた。


 そこには、矛盾を形にした存在があった。


「レ、レクス……あの……その……どう、でしょうか……似合ってますか……?」


「ローレシア……俺はあんまり、こういうことを言いたくないんだけど……」


「は、はい……」


「惚れ直した。君が俺の妻であることを、誇りに思う。綺麗だよ、ローレシア」


「あ、あのあの、その、あああ……ありがとうございますっ!」


 ローレシアの水着は清楚系のものだ。

 だが実際に彼女が着てみれば、清楚なんて言葉は吹き飛んでしまった。

 真っ白な透き通る肌、チラリと見える綺麗なおへそ、そしてフリフリで隠し斬れないほどのデカパイ。

 デカすぎて胸の下半分が影になってしまっている。デカすぎんだろ……。


 清楚系デカパイ聖女の水着姿。

 これこそが、この世界で一番の矛盾。

 それ故にギャップがあり、美しさが際立つ。


 なるほど、どうやら理想郷とはここを指す言葉らしい。

 死の大地なんて異名があるのに、理想郷とはこれもまた矛盾している。

 だが確かに、ここにある。俺にとっての理想郷、ユートピアがここにある!


 これだ! 俺が長年求めていたのは、これなんだ!

 美少女! おっぱい! ハーレム……というにはまだ少ないか。

 だが、こんな天国は前世どころか、この世界のどこにもないだろう。


 俺は今、世界で最も幸福で満ち足りた男なのだ!


「それで? 着替えた後はどうするのかしら。水遊びするだけ?」


「せっかくなら、新しく出来た川を泳いでみませんか? 私達は女神様のご加護がありますし、もし危険な水でも安全です」


「それなら大丈夫だと思う。私の目で水の魔力を見たけど、悪い魔力は流れてない。安全だと思うの」


 流石はフェリス、既に水の安全を確認してくれていた。

 それが分かってたから、自分も水着に着替えて泳ぐ気満々だったんだろうな。


「それなら、ダーリンも!」


「え? な、なんだぁ?」


「ほ……ほら、レクス! 行きましょう!」


 俺は嫁二人のデカパイサンドイッチに腕を掴まれ、岩から川へダイブした。

 三十メートルくらいの高さだったけど、普通に怖い。

 怖いけど、両腕の感触が凄すぎてそれどころではない。


 なるほど、これがバケーション。

 通りで異世界転生系の作品で、水着ノルマがあるわけだ。

 こんなの、幸せに決まってるじゃないか。


「村長さまー行くよー。それーーーー!」


 次いでフェリスも川に飛び込んでくる。

 しばらく沈んだ後、水上に浮かんできたフェリスは、顔をブルブルと振るわせて水気を払った。

 こういう所は猫っぽい。ちょっと癒されるな。


「そうだ! どうせなら、水中魔法バトルとかで遊ばない?」


「あ、危なくないですか!?」


「魔法は苦手だけど、撃ち落とすくらいなら出来るの」


「あんまり危ない遊びはするなよー」


 こうして、死の大地に新しく水源が生まれた。

 今後、川の水を村に引くことになるだろう。

 その時は作業がいっぱいあるが、今はこの理想的で甘美な時間を味わうことにしよう。


「……川遊びなんて、前世の中学生以来だな……」

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