第三章 村作り!スローライフ!

第52話 元暗黒騎士はデカパイ枕に沈む

「ただいま〜」


「よーうやく帰ってきたわね〜我が家に」


「色々大変でしたね……疲れました……」


 王都での事件、そして嫁達の親への挨拶。

 全ての用事が片付いて、俺達はようやく愛すべき死の大地の家に帰ってきた。

 いや、別に愛してるわけじゃないな……。仕方なくここに住んでるだけだ。


「そういえば、俺達がユグドラ王国から追われる理由が無くなったわけだけど、二人はどうする?」


「どうって、何が?」


「だから、わざわざ死の大地で生活する必要が無くなっただろう? もし嫌だったら、どこか別の場所で暮らしてもいいんだぞ」


「嫌よ!」


「嫌です!」


 二人揃って同じ返事が帰ってきた。

 こんな最低な土地に、何の未練があるのだろう。


「だって、ここはもはや私たちの土地よ? せっかくこれからって時に、手放すなんて勿体ないじゃない!」


「レクスが言ってくれたんですよ。ここで新しい人生を送ろうって。私たちはもう、ここが第二の故郷なんです」


「二人がいいなら、俺は問題ないけど……不便じゃないか?」


「それをどうにかしていくのが、ダーリンの望んだ生活なんでしょ?」


 そうだった。スローライフは不便を甘受し、快適にしていくものだ。

 自分たちの手で一から作り上げていく楽しさこそ、俺の望んだスローライフだ。


「うん、そうだな……。じゃあ今度こそ、しがらみから解放されたことだし、俺達のスローライフをここから始めよう!」


「ええ! 楽しみで仕方がないわ!」


「やっと本格的に村作りが出来そうですね!」


 最初の目標だった食糧問題、これは現地の野菜や俺のスキルで作った前世風の野菜で解決した。

 最悪の環境だった、クソ暑い死の大地も、俺の魔法で天候を変えて解決した。

 村人が暮らす家も、俺のスキルで解決した。


 次はやはり、村のインフラ作りか酒やお菓子といった趣向品を作るとしよう。


「細かいことは、片翼のダンと話して決めるさ」


 ソファに寝転がろうとしたら、アリアスが俺を引き留めた。

 彼女はソファの上に仰向けに寝転がり、胸の辺りを手でポンポンと叩いた。

 どうやら、ソファではなく私に乗れということらしい。


「うぉ……すげっ……」


「ふふ、どうかしら? これぞ私の胸枕よ。気持ちいいかしら?」


 これもう胸枕どころかデカパイ枕だろ。

 羽毛布団のような柔らかさと、高反発枕のような張りがある。

 なるほど、天国の心地というのはこれのことか。


 それを見て、ローレシアは俺の足を彼女の膝の上に乗せた。

 次は自分がやるという意思表示らしい。

 デカパイ枕の予約待ちとか、ここは天国か?


 しかし二人とも、どうして俺がデカパイ好きだと気付いているのだろう。

 もしかして普段から、視線に出てたのだろうか……?

 いや、そんなはずはない。……ないよな?


 いや、それで俺の喜ぶことをしてくれるなら全然いいのだが……。


「ダーリンは何か、欲しいものとかないの?」


「あ、酒は作りたいな。王都からくすねてきた……じゃなくて、頂いた物も限りがあるしな」


「それより、服が欲しいわね。洗濯機って便利な道具があるとは言え、同じ服ばかりなのは嫌だわ」


「私はご飯のバリエーションが豊かになってほしいです。お肉とか、パンとか……」


「作り方を覚えるか、それとも余所の村と交易でもして手に入れるしかないよなぁ」


「交易って、この地域に他の村なんて無いじゃない」


 それが問題だよな。この地域に住んでる人なんて、俺達以外誰もいない。

 そりゃ、死の大地なんて呼ばれる所に住むヤツがいるわけないのだが。

 本格的にここで暮らしていくことを考えると、自給自足だけではどうにもならないことも増えるだろう。


「そのあたりも明日、ダンと相談するか」


「ねぇ、ダーリン。そもそもダーリンって、この村の村長なのかしら」


「んん? 別に村長を名乗った記憶はないけど……」


「村民も増えたことだし、代表者を立てるのは必要だと思うの。私の村でも、村長がいたでしょ?」


「ああ、お義父さんが村長だったよな。村長って、普段はどんなことをしてるんだ?」


「別に大したことはしてないわ。村の方針を決めたり、村民の様子を見たり、相談を受けたりするくらいかしら?」


「結構大変そうだな……」


「そうかしら? パパは楽な仕事だって言ってたけれど」


「レクスはその、あまり大勢とは関わり合いを持たない主義ですからね」


「言葉を選んでくれてありがとう。そう、俺は人付き合いが苦手だ!」


「自信ありげに言うことじゃないわよ?」


「リーダーとか、そんな責任あるポジションは大嫌いだ!」


「言ってることが酷くなってない!?」


「騎士団長や部隊長の悪行を見て、リーダーという役割に不信感を覚えてしまったんですね……」


 いや違うぞ、ローレシア。

 俺は単純に、前世から根暗だったから、目立って責任のある立場が嫌なだけだ。

 会社のプロジェクトの担当に俺の名前が書かれたら、ゲロを吐きそうになるほど鬱になってたなぁ。

 まぁ、最低限責任持って担当したけど……。苦手なんだよな、自分勝手なヤツらと連携して仕事するのは……。


「でも私は、やっぱりダーリンが村長になるべきだと思うわ」


「嫌だな……」


「だって獣人のみんなは、ダーリンがいるからこの村に住むようになったわけじゃない? だったら、もうあなたには責任が発生してるわ。だったら、いっそのこと村長になればいいじゃない」


「言われてみれば確かに、村人のみんなは俺のせいでここにいるんだよな……」


「レクスのおかげ、と言ってもいいかもしれませんね。それだけ貴方が慕われてるってことですよ」


「そんなもんかな……イマイチ自信がないんだけどな」


「じゃあ、いっそのこと投票制にするっていうのはどう? たぶんそれでも、ダーリンに票が入ると思うけれど」


「そんな気はしてる……。よし、分かった。村長を引き受けるかはともかく、村民のみんなも集めて、明日話をしよう」


「それがいいと思います。それに自信が無いなら、素直にそう言っていいと思います。村長だから完璧を求められるわけでは無いでしょう。そうですよね、アリアスさん?」


「もちろん! パパだって、出来ないことの方が多いんだから! 大事なのは、みんなに寄り添う姿勢よ!」


「なるほどなぁ……」


 そもそも獣人たちも、俺達同様に死の大地に拘らなくてもいいのだ。

 迫害してきた人族がいなくなったのだから、ユグドラ王国に帰ることだって可能だ。

 まずはみんなにその話をして、それから意見を聞くことにしよう。


「ふふ……」


「どうした、ローレシア。俺の顔に何か付いてるか?」


「いえ、今のレクス……真剣な顔をしてましたよ。早速村長の風格が出てました」


「げぇっ! そ、そうかぁ……? まぁ、獣人の方が多いんだし、ダンに村長の席を譲るさ」


「そんな上手く行くといいけれど、どうなるかしらねぇ」


「含みのある言い方だなぁ。そんなに俺に村長になって欲しいのか?」


「そういうわけじゃないわ。ただ、あなたが相応しいって思っただけよ」


 俺は全く、そういう適性は無いと思うんだけどなぁ。

 そういえば、前世も含めて俺は管理職についた経験が無い。

 役職持ちになる前に転職したり、そもそも若くして死んだってのもある。


 みんなの意見を聞いて、寄り添う……か。

 俺が理想に浮かべる上司の姿が、まさにそんな感じだ。


「難しい顔してないで、今日は晩御飯にしましょう! ドラゴンのお肉は余ってるわよね? 以前ダーリンが言ってた、ハンバーグを食べてみたいわ!」


「ハンバーグは美味しいぞ。作るのはちょっと面倒だけど、スキルで何か生成しなくても、今ある材料で作れると思う」


「私達も手伝いますから、作り方を教えてください! お肉食べたいです!」


「そうだな。とりあえず今日は、飯にしよう!」


 難しいことは、明日の俺が何とかしてくれるだろう。

 明日の俺が今の俺の適当さを恨んで、タイムスリップして殺しに来ないか不安だ。

 やろうと思えば、たぶん出来るからな。俺のスキルだと……。


 今こうして平気ということは、明日の俺は頑張ってるってことだ。

 それならもう、難しいことなど考えず、飯にしよう!


 ◆◆◆


「おいしかったです〜! レクス、凄かったですよ! お肉からじゅわ〜って! じゅわ〜って汁が出て、それがまたソースと絡まって堪りませんでした……!」


「野菜の付け合わせも、美味しかったわね。特に蒸しポテトが美味しかったわ。ハンバーグ、中々お酒に合うじゃない♪」


「中々上手く作れたな。これは案外、我が家の定番メニューになるかもしれないな」


「お肉の確保が大変よね〜。今の肉の備蓄がなくなったら、しばらく肉料理はナシなのよね」


「村のみんなで、家畜を飼う必要があるかもな」


「それじゃあ、明日は第一回・村会議ね!」


「パンが欲しいです! 主食が欲しいです!」


 やることがいっぱいだ。だがそれがいい。

 俺達のスローライフは、始まったばっかりだからな。

 やりたいことがありすぎて困る。それだけ楽しみが残ってるってことだ。


「そういえばダーリン」


「どうした? アリアス」


「責任が嫌って言ってたけど、私達への責任はしっかり取ってよね♡」


「も、もちろ、ろん。結婚した以上、当然だろろろ……?」


「まだ早いみたいね……」


 やれやれ、といった表情で苦笑された。

 これは完全にバレてるな。俺がピュア童貞だということが。

 そんな嫁の態度もまた、かわいいからオーケーだ。

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