第53話 第一回村人会議
赤黒い雲が広がり、雷鳴の轟く中、村に住む全員が俺の家の前に集合していた。
「みんな、今日はよく集まってくれた。この村のこれからについて、みんなで相談したい」
「なるほど、決起集会か」
片翼のダン、それはレジスタンス気分が抜けてないんじゃないか。
「それで黒き剣、具体的にどういう話をするんだ。村の今後について、というのは抽象的に思えるが」
「じゃあ今日の議題を上げておこうか。一つは村で作っていくモノをどうするか。野菜は作れるようになったけど、他の作物を作るかとか、酒作りに挑戦してみるとか、色々だな」
「酒作りはやってみたいなー!」
獣人の一人が興味深そうに声を上げる。
他の数人も、うんうんと頷いている。やっぱりみんな、酒好きなんだな。
「次に、村で作れなさそうなモノをどうするか。服とか畑で作れない食糧とかだな。俺は交易すべきだと思ってるけど、みんなの意見を聞きたい」
「なるほど、交易か。確かに俺達の故郷でも隣村と交易をしていたが、地理的に不可能じゃないか?」
ダンの言うことはもっともだ。俺もそれは考えていた。
「飛空挺を使う。これならどこへでも行き来できるだろ? 移動の負担も軽減できる」
「いいのか? 飛空挺は黒の剣専用の船だと認識しているが」
「別に、俺が独占するつもりはないよ。この村に必要なら、みんな使ってくれ」
「いいね。あの飛空挺は乗り心地がいい。ありがたく使わせてもらうの」
レジスタンスの紅一点、フェリスが尻尾を振りながら答える。
表情からは分かりにくいが、これは喜んでいるのか?
「具体的にどこと交易するかは、まだ考えてない。みんなの故郷や知ってる村から、交易を始めていければいいと思ってるんだけど」
「黒き剣のツテはないの?」
「ない、ないです」
俺にツテとか取引先とか、あるわけない。
だって俺の前の職場は、全部崩壊したからな、ガハハ。笑えないけど。
「ダーリン、四天王と交渉してみたらいいんじゃないかしら」
「四天王? あいつらかぁ……頼るの嫌だなぁ……」
俺のファンクラブに入ってるようなやつらに、この村の運営に関わって欲しくない。
だって、俺のファンを自称するヤツらだ。碌なヤツじゃない。
「でも、アリアスさんの案はいい考えだと思いますよ? 四天王は帝国の中枢にいる方達ですし、今はユグドラ王国再建にも携わっています」
「なるほど、帝国と王国の両方にパイプができるってことか」
そう考えたら、四天王を頼るのもアリに思える。
あいつら、普段は面白集団だけど、政治的な場になると真面目だからそういう面では信用は出来る。
本当に俺のファンクラブ会員じゃなかったら、心から信用出来るんだけどなぁ。
「だがユグドラ王国と交易なんかする必要があるのか?」
ダンが怪訝な顔を浮かべる。他の獣人たちも、同じような表情をしている。
ユグドラ王国に反発していた彼らからすると、わざわざ王国と関わりたくないのだろう。
一応俺から、ユグドラ王国が崩壊して、今後は亜人達を受け入れる方針になったことは伝えたのだが……。
やはり今まで迫害されてきた当事者達は、簡単には信じられないようだ。
「ユグドラ王国は今、再建の真っ最中だ。亜人差別していた陛下は帝国の支援もあって、亜人に対しての考えを改めようとしてる」
「俺達は、その国王から迫害されていたんだ。そんなヤツを信用していいのか」
「難しいよな……」
「そうだぜ。いくら黒の剣が言ったって、俺達と王国の確執は簡単には消えねえ」
やはり反対意見が多い。
俺が同じ立場だったら、同じように難色を示していただろう。
それほど、彼らは苦しみを受け続けてきたのだ。仕方ない。
「……分かった。ひとまず、王国との交易は白紙にしよう。みんなの感情を優先したいからな。ただ、ユグドラ王国相手じゃなく、そこに住む亜人達との交易はアリかどうかは教えてくれ」
「例えば私の住む、エルフの村とかどうかしら。あそこはユグドラ王国の北東にある、隠れ村よ。人族の影響を受けずに暮らしてきたエルフしかいないわ。それでもユグドラ王国の国民だから駄目って意見はあるかしら」
俺の考えを汲み取って、アリアスが説明を加えてくれる。
そう、獣人達がユグドラ王国を恨む気持ちはわかる。
だが今のユグドラ王国に住む亜人達まで恨んでいるわけではないだろう。
村の今後のためにも、同じ亜人同士で交易をしたい。そこで、アリアスの故郷を例に挙げてくれたのだろう。
「エルフは別に恨んではいない。ユグドラのアイツらとは違い、我ら獣人と同じ立場だ。彼らと交易する分には、俺達から不満はない」
「ダンはこう言ってるが、他のみんなはどうだ? 不満とか不安、懸念点があれば言ってくれ」
「大丈夫。私達みんな、エルフと交流することに不満はないの」
「俺達はいいぞー」
「気にしないでオーケーだぜー!」
よかった。これでユグドラ王国に住むなら、エルフだろうと関係ない! と言われたら心が折れるところだった。
獣人のみんなは、ユグドラ王国とそこに住む亜人は割り切って考えているようだ。
感情的じゃなく、ちゃんと理性で考えられている証拠だ。消えたユグドラ国民とは、民度が違う。
「ありがとう。それじゃあまとめると、交易は四天王と相談、それからみんなの故郷やアリアスの故郷の村などから始めようと思う」
「それで異論はない。俺達も久々に、故郷に顔を出したいからな」
「お父さんとお母さん、元気にしてるか確認したいの」
「飛空挺で行き来するといいさ。あ、誰がどういう目的で使うかは、みんなに分かるように紙に書くとか、そういう取り決めをしておこう」
「ん、分かったの」
さて、大まかな方針は固まったな。
細かいところは、また別の会議で決めたらいいだろう。
とりあえず、今日はみんなと認識のすり合わせをするのが目的だからな。
「それじゃあ最後の議題だ。この村の村長を誰にするかって話だけど……」
その瞬間、みんなが一斉に首を捻った。
こいつ、なに言ってるの? っていう表情をしている。
なんか変なことを言ったかな。村長を決めるのって、普通のことじゃないのか?
「ねぇ、黒の剣。村長ってあなたじゃないの?」
「え、いや別に俺じゃないと思うが……。今の所、空白のポジションだからみんなで決めようって話でだな……」
「俺達はみんな、お前が村長だと思ってたが……違うのか?」
「そうだぜ? 全員、あんたを大将だと思ってたぜー!」
うんうんと、みんなが頷く。
どうやら村のみんなが、俺を村長だと認識していたらしい。
そもそも、この村を作ったのが俺なんだから当然といえば当然だ。
でもやっぱり、村長って気が重いなぁ。
俺がプレッシャーを感じていると、アリアスがやれやれといった表情で、俺の肩に手を置いた。
「やっぱりこうなったわね。みんな、あなたがリーダーって認めてるのよ」
「そうですよ。今日の会議だって、旦那様が主導になって進めてたじゃないですか。もうすっかり、村長みたいでしたよ」
それは前世で、会議を任される機会が多かったから……。
あ、議事録取るの忘れてた。これ、前世だったら怒られてたな。
「じゃ、じゃあ……一旦は俺が村長ってことになるのかな? 一旦、一旦だからな? 決定事項じゃないからな?」
「往生際が悪いわよ、ダーリン。責任とりましょ♡」
「ああ、はい……」
こうして俺は、暫定村長となった。
責任という言葉の重みを、少し実感した。そんな会議だった。
まぁ、いい加減覚悟を決める時ってことだろう。
俺に出来る範囲で、村長をやってみるか。
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