第42話 元暗黒騎士は魔王をわからせる
「到着だ。ここが異界らしいな」
「うおッ! 本当に転移したのかァ!」
「凄いですわね……転移の魔法、便利すぎますわ」
「転移魔法、実在するのだなぁ……」
魔王が転移魔法を使っていたということは、この世界に転移魔法自体は存在するということだ。
欲しければ自分たちで調べてくれ。俺の魔法は汎用性が低いし、参考にならないだろう。
「ここが異界か……地獄みたいな場所であるな」
「夜みたいに暗い癖に、月も太陽もねェ……あるのは火山とマグマだけだぜェ」
「死の大地に比べたら全然マシだ」
魔族が暮らしてる世界ってことは、人が生きていける環境ってことだからな。
数時間もいると死んでしまいそうな死の大地の方が、よっぽど地獄だぜ。
「景色よりも見るべきモノがあるだろ、ほら」
「ヌッ!」
「この気味の悪い魔力は……先程の魔王の魔力!」
「では我々の目の前にいるあの男が……!」
「魔王の真の姿であるか!」
俺達の前には険しい顔をした男が立っていた。
その外見は人間と似ている。だが決定的に違うものがあった。
額に浮かぶ第三の眼、青い肌、そして頭から生えた角。
なるほど、確かに魔王といった外見をしている。
「貴様ぁぁぁぁ……!! よくも、よくも我が人間界征服の野望を打ち砕いてくれたなぁぁぁぁ!!」
「早えよ、もう諦めたのかよ。俺がやったことって、お前の憑依先を解除しただけだぞ」
「私が人間に憑依するためにどれだけの歳月を費やしたと思っている!」
「しらねーよ、そんなこと」
「千年だ! 肉体を滅ぼされ、魂をこの世界に封印され、千年待ったのだ! それだけの時間を費やした……我が偉大なる計画を、水泡に帰すような真似を……! 貴様は絶対に許さぬ!」
出た……掛けた時間を自慢するやつ。
構想◯年とか謳い文句にしてるプロジェクトって、だいたい失敗するよな。
もちろん上手くいくパターンも少ないながらもあるけど、こいつは駄目なパターンだろうな。
「千年も掛けて、俺一人に壊されるような計画を立てる方が悪い。想定が甘い。もうちょっと、企画を練ってから出直してこい」
「な、なんだと……!?」
「だいたい、人間に憑依するってまどろっこしいやり方を選ぶ時点でセンスがない。お前、人間を憎んでるんだろ? 亜人を憎んでるんだろ? 女神を憎んでるんだろ? だったら自分の手で直接殺せよ。なに嫌いな相手になりすましてんだよ。やってることが陰湿だろうが。お前に魔王の風格なんて、欠片もねぇよ」
俺の愛するアニメ、漫画、ゲームに登場する魔王はちゃんとボスキャラとしての魅力があった。
こいつにはそれがない。ボスキャラとしてのカリスマ性が、一ミリも存在していない。
こんなの、俺が好きだった異世界ファンタジーへの冒涜だ。魔王はもっと強くて、絶望的で、余裕がなくちゃ駄目なんだ。
俺みたいなやつに計画を狂わされて、その上取り乱すなどボス失格だ。
「魔王ごっこなら一人でやっててくれ。俺達を巻き込むな。それが嫌なら今すぐ消してやる」
「ごっこだと……!? 私の壮大な計画を、魔王ごっこ呼ばわりするか小僧ッ!」
「違うなら証明してみせろ。お前が本物の魔王だって言うなら、俺なんか倒して計画を成就させてみろよ」
もっとも、フィクションの魔王は計画を成功させることは少ない。
だいたい直前になって勇者に止められるものだ。
だから俺も、こいつの計画を成就させる気は微塵もない。
「ふん……いいだろう! そこまで言うなら見せてやろう……! この魔王ウルニールの恐ろしき真の力を……!」
はいマイナスポイント。
自分で自分のことを恐ろしいとか言うな。余計に陳腐に見えるだろ。
「いいのか、黒の剣よ! やつはおそらく、異界に戻ったことでフルパワーになっているぞ!」
「憑依先である人間の肉体から解放されて、魔族の力を十全に振るえるはずですわよ!」
「お前らは下がっていてくれ。巻き込む気はない」
最初から四天王は見学の予定だったはずだしな。
これは俺と魔王の戦いだ。存在そのものが俺に不快感を与えてくる魔王と、ヤツの大事な計画を壊した憎い俺との一騎打ちだ。
散々俺の異世界エロエロハッピーイチャイチャスローライフの夢を邪魔してくれた礼──あ、違う。俺の恩人である陛下を利用してくれたお礼を、返さないといけない。
「最初に言っておくぞ。お前は絶対に許さんからな」
「許さないからどうだというのだ! 異端者である黒き剣よ、今ここで! 魔王である私の手により死ぬがいい!」
魔王ウルニールは虚空に手をかざすと、そこから武器が現れた。
派手な金色に様々な装飾が施された、禍々しい形の剣だ。攻撃力高そう。
いいな、その演出。俺もダークマターで真似させてもらおう。
収納魔法とかアイテムボックスとか、そういう感じで再現出来ないだろうか。
今度やってみるか。
「この剣はかつての大戦で、獣人王ケモノレクスの心臓を貫いた魔剣だ。かの大英雄を殺した一品である」
「お前の神話とか、現代人は興味ないんだよ。昔話しか自慢できることが無いのか?」
「ふ……ふふ! では貴様に、この剣の切れ味を味わわせてやろう!」
ガキィィィ!!!!
剣と剣がぶつかり合う音が響く。俺は愛剣クロノグラムで迎え撃つ。
なるほど、確かにいい剣のようだ。強敵を獲物として欲する我が愛剣、クロノグラムが喜んでいる。
もっとも強いのは武器の方で、持ち主はそうでもない。
「どうした? 今のが本気の一撃か」
「まさか! ここからが本番だ! ぬおおおお!」
金色の剣が音速を超えて、無数の連打が打ち込まれる。
俺はその全てを、クロノグラムで受けた。躱すのではなく、受け流すでもなく、真正面から受け止めた。
そうすることで、ヤツの全力が俺には全く届かないことを知らしめるのだ。
「これが限界か?」
「まだだ! まだ私の力はこんなものではない!」
魔王の攻撃は勢いを増す。
剣を振る音は置き去りにして、目で見ることは叶わないスピードへ到達している。
だがそれら全てを俺は受け止める。
こいつの攻撃は全て無意味だと分からせる。そのためだけに取っている行動だ。
「もう終わりか?」
「あり得ぬ……いや、まだだ……! 我が力は長き時を得て無窮へと至り、その力は神の領域へと達した! 人間ごときに防げるはずがないのだァー!」
ほぼ同時に数百もの攻撃を仕掛けてくる。
こんな芸当、確かに人間では防げるはずもない。
だが関係ない。俺は不可能だろうと実現してみせる。
ダークマターがどうとか、そういう話ではない。
転生したからには、絶対に叶えたい夢。それを実現するために、俺はあらゆる努力をしてきた。
厳しい修行だって、職場でのいじめだって、耐え抜いてきた。
出来ないと思われることを実現する。要するに俺は、そういう人間なのだ。
つまりダークマターは、俺の人間性の発露とも言えるスキルだろう。
だから、人間には防ぎようのない攻撃でも、俺は全てを受け止める。
剣一本で、一瞬にして数百もの連撃を受けてみせる。
俺達の攻防は衝撃波を発生させ、既に周りはクレーターが出来ていた。
まぁ攻防というか、俺が一方的に防御してるだけだ。
魔王は攻撃にすらなっていない。俺が完全に防御してみせるせいで、無駄な行動になっている。
そう。俺がやっているのは簡単に言えば遅延行為。
RPGで言うと、相手の攻撃をゼロにする防御コマンドで、延々とターンを返している状態だ。
意味のない行動。時間と体力を無駄にするだけ。それこそが俺の目的。
己の力の無さに絶望させ、虚無感を与える。
これが俺流の分からせというやつだ。
「ば、馬鹿な……き、貴様……本当に人間なのか……?」
「正真正銘、普通の人間だとも。魔王様、お前はそんな人間一人さえ殺せない、ちっぽけな存在なのさ」
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