第43話 元暗黒騎士は魔王を永遠の拷問にかける
「私の攻撃が通用しない……だと!?」
当たり前だろう。お前程度が俺に傷一つでも付けられると思ってたのか。
「すげぇぜェ! 黒の剣ィ!」
「あれほどの猛攻を全て防ぎ切るとは……恐ろしい男だ!」
「改めて敵にしなくてよかったのであるな。もっとも、最初から敵対するつもりなどないのであるが。我らファンだし」
「凄い……凄すぎますわ……私達は今、新たな歴史を見ていますわ!」
四天王のやつら、遠くから大声で実況しなくてもいいのに。
運動会を見て応援されてる子供みたいな気分だ。恥ずかしい。
「貴様、それほどの力をどうやって身につけたッ! 人間の限界を超えている!」
「騎士団の訓練と個人的な修行だ」
「そ、その程度で……! 貴様、嘘をついているな! この私をどこまで愚弄すれば気が済むかッッッ!」
どいつもこいつも、どうして俺の言う事を信じてくれないんだろうか。
騎士団の訓練で、人間には絶対無理な課題を押し付けられたのは事実だ。
一時間の間、騎士団の精鋭百人と戦い続けろとか、一方的に魔法の攻撃を受け続けろとか、水中に三時間沈められるとか、他にも色々あったな。
それを気合で乗り切って、毎日続けていたらこうなっただけの話だ。
あと、転生して魔力というモノに触れて、興味本位で色々遊んでいたこともある。
そのおかげか、魔力の扱いは平均より上手という自負はある。
だが本当にそれだけだ。別に特別なことをしたわけじゃない。
それでこの強さが身についたのなら、たまたま今世の俺に才能があったのかもしれない。
それで得したことより、苦労したことの方が多いくらいだ。
「くそ……当たりさえすれば……! 貴様なんぞにぃぃぃ!」
「やってみるか?」
「な、舐めているのか……!?」
舐めてるに決まっているだろう。むしろまだ強敵と認識してもらえると思ってるのか。
俺は別に、舐めプをしようとしているわけではない。
魔王があれこれとイチャモンをつけてくるから、反論出来る余地を消していっているのだ。
そうして言い訳のしようがなくなった時、こいつは本当の絶望を知ることになる。
それでも俺が味わった精神的苦痛の、ほんの一部でしかない。優しいくらいだろう。
「コケにしおって! 後悔するがいい! シャアアア!」
俺が完全に無防備でいるのをいいことに、魔王は全身の魔力を黄金の剣に集中させて切りかかってきた。
おそらく城を破壊するほどの威力。まともに受ければ肉体など跡形もなく消し飛ぶ攻撃だ。
だが関係ない。
俺にはそんな生温い攻撃は通用しない。
「我が渾身の一撃が……直撃したのに……き、効いてない……だと……!」
「コンタクトレンズを表裏逆で着けた時くらいには、痛かったぞ」
「何を言っている……?」
つまり、イラッとする程度の痛さだ。
たまに気付くこともないまま、放置するくらいの痛さ。
こいつの全力の攻撃を無防備で受けても、俺にとってはその程度のダメージなのだ。
「おのれ……! おのれ! おのぉぉぉぉれぇぇぇぇ!!!!」
何度攻撃を加えても無駄だ。
俺の体は騎士団の奴らにいじめ抜かれて、鋼のように鍛え上げられている。
その上持ち前の魔力の高さで、肉体の強固さは更に強化されている。
暗殺任務などで不意を突かれで殺されないように、常時魔力で肉体強化をしてきたおかげだ。
俺の肉体強化魔法は既に、魔法の発動を必要としないレベルになっている。
気を抜けば魔力を解いて普通の肉体に戻るだろうが、俺が気を抜くことは無い。
「あっけないな。魔王が聞いて呆れる。俺が攻撃の見本を見せてやる」
「く、クソォォ!」
遅い。
「攻撃っていうのは、常に相手を殺す目的で放つもんだ。例えば心臓を一突きでもすれば、たいていの相手は死ぬ」
「ぐ……ぐおおおお!」
クロノグラムは既に魔王の心臓を貫いている。
一般の騎士より上質な魔力を含んだ血を浴びて、この剣も喜んでいる。
もっともこいつにとって一番のご馳走は、持ち主である俺の血なわけだが。
こんな三下魔王程度では、クロノグラムの腹を満たすことは難しいらしい。
「意外としぶといな。心臓は確かに潰したはずなんだが」
「私の肉体には心臓が四つある……! 一つくらい潰された程度で、どうということは……ゴバァッッ!?」
「さっきから言ってるだろ。自分で重要な情報をペラペラと喋るな。もう四つ目の心臓も潰した。今度は何だ? 再生でもするか?」
「ぐがぁ……! わ、私をここまで追い詰める人間がいるとは……! かの大戦でも心臓を潰された経験は二度しか無いというのに……それが、こんな人間などに……!」
また情報を漏らしてやがる。何度指摘しても治らないモノだな。
過去に心臓が二つ潰されて、今は心臓が四つある。
つまりこいつの心臓は元々六つあるか、二つに減っていた心臓を再生させたか。
こんな会話だけでも、これだけ情報が得られる。
魔王っていうのは、自分語りが大好きなんだろうか。
俺だったら絶対、個人情報を知らないヤツに漏らしたりしないけどな。
まぁこれは前世のネットリテラシーが身についているおかげかも知れないが。
「こ、こうなったら奥の手を使うしかあるまい……く、悔しいが……どうやら貴様の力は本物のようだ……!」
「へぇ、奥の手があるのか。だったらさっさと出し切れよ。言っておくが、お前が何をしようと、次で終わらせる。もうお前のお遊戯に付き合うのに辟易した」
「今のうちに喚いておけ……! 見せてやろう! これが貴様らユグドラの民に植え付けた、我が神秘の力だ!」
魔王は全身を広げて、周囲から魔力を取り込んでいく。
その体にはローレシアに刻まれていた
聖痕に邪悪な魔力が集まっていくのを感じる。
「ユグドラの民に刻まれた聖痕はぁぁぁ! 本来女神の加護を受けるためのもの! しかし私が細工をして、邪神の力を施すように改変したのだ!」
「邪神、なるほどユグドラの教えの根幹にあるのは女神信仰じゃなくて、邪神信仰だったわけだ。どうりで国民全員の民度が低いわけだ」
「そして貴様が消してくれた我が同胞たちの体に刻まれた聖痕は、まだ死体に残っている! 貴様が慈悲を与えて肉体ごと消し飛ばさなかったおかげだ!」
別に慈悲を与えたつもりはない。
ローレシアの願いで、安らかな死を与えるにはあの技が適していただけだ。
国民の肉体が跡形もなく消し飛んだら、ローレシアが悲しむからな。
「今こそ聖痕の力を一つにィィィィ! おおおおォォォォ!!!! 人間界からとめどない魔力が、我が肉体に流れてくるぞ! ふふ、フハハハハ!!!!」
ありがちな魔王の第二形態だ。
見てみろ、パワーアップはしてるんだろうけど、肉体がどんどん化け物みたいになっていく。
パワー系の見た目になると、魔王って風格も薄くなるよな。
元々こいつにそんな風格はないのだが。
「さぁ……これがお待ちかねの、私のフルパワーだ!! 泣いて許しを請うがいい! 魔王の逆鱗に触れたことを後悔することになるだろう!!」
「後悔はもうしてる。どうしてこんなヤツに関わってしまったんだろうってな」
「フフフフ……さしもの貴様も、私のパワーアップに驚いたようだな……」
「呆れたんだ」
「……何?」
どうやら魔王にさんすうを教えてやらないといけないようだ。
子供でも理解できる簡単なことに、こいつは気付いてないらしい。
「お前が吸収した聖痕の力は、さっきまであの大勢の魔族に宿っていたんだよな」
「そうだ! あれこそ邪神の力の片鱗だ! 貴様らが信奉する女神の力など、恐るるに足らず!」
「じゃあ聞くが、その大勢の魔王を一撃で消し去ったのは、誰だったか覚えてるか?」
「……?」
「本気のお前と、大勢の魔族の力。それが合わさったところで、俺に勝てる道理なんて無いと言ってるんだよ」
「調子に乗るんじゃあないぞ、若造。貴様が悠長にしていたおかげで、私は真のフルパワーになることが出来た。先程の傷も治癒することが出来た。私には数百万もの聖痕の力が宿っているのだ」
「それがどうした」
ここまで説明しても、足し算すら分からないようだ。
だったらもう、説明するのも無駄だろう。
「最強の技で来い。絶対に敵を殺し切る、必殺技を放ってみろ」
「貴様はただでは許しはせん……殺した後、我が手足となりこき使ってやろう。手始めにあの聖女とエルフを殺し、そして亜人たちを殺させてやる。貴様自身の手でな!」
また陰湿めいた計画を立ててるな。
やることがせこい、せこ魔王だ。
しかも実現不可能な絵空事を思い浮かべて笑ってやがる。
もう救いようがない。
「この異界の地全てを消し飛ばすほどの莫大な魔力、それをこの黄金剣に集約させた我が最強の奥義!!!! 喰らうがいいッッ!!」
天地が荒れ、大気が震えている。
確かに途方もない魔力だ。単純な魔力量なら俺を優に超えている。
「死ねッ! ヘル・ジャッジメント・ディアボロス!!」
魔王の剣が振り下ろされると共に、どす黒い魔力の奔流が襲いかかってくる。
たぶんこれは、生物を殺すのに特化した技だ。
生命力を奪い、莫大な魔力の攻撃を与え、強化した肉体で強靭な一撃を与える。
ロマン技としては悪くない。
だが、そんなことは関係なく、俺はやつの攻撃を無に帰す。
クロノグラムと魔法剣の二刀流で。やつの必殺技を切り裂いた。
「そ、そんな……馬鹿な……! 私の最強の一撃が……!」
「必殺技で来いと言ったはずだ。反撃の隙を与える技は、必殺技とは言わない」
「あ……ああ……!」
「俺が手本を見せてやる。必殺技とは、こうやるんだ!」
クロノグラムを起動させる。柄から生えた棘が俺の肉体に刺さり、血と魔力を吸い上げていく。
一方で左手に構えた魔力の剣もまた、俺の魔力を吸い上げて煌々と光を増す。
二つの剣を交差させ、俺は体内と大気に満ちた魔力を操作する。
異界が赤雷に包まれる。この赤雷は俺の魔力、俺の領域だ。
この世界に赤雷が満ちたということは、世界全てが俺の領域と化した。
もはや魔王は俺の攻撃から逃れる術はない。
必殺技。
必ず殺す技というのは、威力だけに非ず。
必ず当てる。必ず殺す。相手が生き残る可能性を絶対に残さない、必中必殺の一撃でなければ意味がない。
「そういえばお前は再生するんだったな。じゃあ多少は耐えられるかもしれないが、かえって苦痛かもしれないな。だが自業自得だ」
「クソォ! このどす黒い、気味の悪い魔力! この魔力こそ真の邪悪の証拠! お前は、お前は一体何者なのだァァァァ!」
気味が悪いのはお前の魔力だ。
俺の魔力は性根が暗いから、そんな感じになっているだけ。
一緒にするな。
「クロノグラムよ、赤雷を放て。魔力の剣──マギスグラムよ、時空を開け……ダークマター・カオス・インフィニティ!」
無と無限、その狭間に敵を閉じ込め永遠の苦しみを与える。
相手が死ぬ直前に回復させ、意識を失うならば赤雷の痛みで正気に戻す。
それを永遠とも言える回数繰り返す。
そして相手の精神が完全に限界を迎えてなお、この攻撃は繰り返される。
肉体と魂が消滅しきるまで、この攻撃は終わらない。
この技のいいところは、範囲攻撃であること。
赤雷に触れた相手はこの技から逃げられない。
もちろん四天王は対象から外してある。
魔力の剣──たった今マギスグラムと名付けた二本目の剣。
アリアスと一緒にドラゴンを狩った時に生成した剣だが、こいつも今回は出番があった。
こいつには魔法効果を増大させる力を与えている。その力で時空をいじらせてもらった。
現実では数秒の出来事だが、攻撃を受けた者にとってはとてつもない時間に感じられるように調整させてもらった。
「現実時間にして十秒。お前にとっては、復活にかけた千年よりも長いかもな」
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