第35話 元暗黒騎士はスカウトされるが断る
「四天王のみんなに大事な話がある」
「どうしたのだ一体。俺達から話があるならともかく、そちらから話なんて」
「お前らが言ってたデカい魔力反応のことだが、俺のせいかもしれない……」
「え……どういうことかしら。詳しくお話ししてくださいませんこと?」
「話せば長くなるんだが、つまりだな。俺の魔法攻撃でこの赫い雲が発生したんだ。もしかしたらその時の魔力が感知されたのかもしれない」
「この異常気象を発生させたのが、人間の仕業だというのか? 信じられぬな……」
「だが黒の剣だぜ? 天変地異の一つや二つ、起こせてもおかしくねえだろ!」
「先ほどの戦闘でも、まだ本気を出していないようだったな。本気を出せば確かに、それくらいのことは可能かもしれん」
あれ、意外と驚かれない。まあややこしいことにならないなら、俺は全然いいのだが。
「ちなみにどういう理由で、あんな大規模な魔法を使ったんですの? もしや凶暴な魔物が……!?」
「バカ、決まってんだろうがウィーネイル! グランド・ヴァイス・ドラゴンとの対決だろ!」
「ああ、そういうことでしたのね。確かに、伝説のドラゴンを倒すにはそれくらいしないと駄目でしょうとも」
「我も生で見たかったな……その戦闘。もっと早く、黒き剣の行方を探っていれば……」
いや、グランド・ヴァイス・ドラゴンはそんなに手こずらなかったんだけど。
頭をぶん殴ればすぐ死んだし。アリアスの協力もあって、ビックリするくらい手応えが無かったんだよな。
「ドラゴン相手じゃないんだけどな」
「ということは、更なる強敵がいたんだな! どんなヤツだ!」
「……いよう」
「あん? 声が小さくて聞こえねえぜ、黒の剣」
「何を相手にしたのか聞かせてくれ!」
「だから、その……太陽を、怖そうと……したというか」
は、恥ずかしい! 自分でやったことだが、どうして俺はあんな馬鹿げたことをやったんだ!
太陽を魔法でぶっ壊すなんて、無理に決まってるだろ! 厨二マインドが拗れた結果がこれか……!
「す、すげぇ……」
「は?」
「すげぇぇぇぇぇぜぇぇぇぇぇ!!!!」
「かっこいいのう! 興奮するのう!」
「なんということですの! あの最強の暗黒騎士、黒き剣がこの死の大地で、太陽を撃ち落とすだなんて……こんなの神話ですわ!」
「馬鹿げた話だ……と言いたいところだが、あの黒の剣のやることだ。あり得んことではない。むしろ実現可能と考えるのが妥当だろう」
「いや、別に成功してないんだが……」
「その結果、こうやって赤い雲の結界を張って、死の大地を自らの領地として君臨することを示しているんですのね! ああ、これぞ英雄! 私たちは今、神話を見てますわ!」
「なるほど。神の威光である太陽を拒むことで、この世界の運命に立ち向かうとの意思表示か。やることがド派手だな」
「かっこいいいいいいぜええええ! イカしてやがる! これだよ、これが最強の暗黒騎士、黒き剣って感じだよなぁああ!」
なんでこいつらは俺のやらかしで感動しているんだろうか。
話をちゃんと聞いていたのか? いや聞いてるな。聞いてる上で曲解してるんだ。
「というか、結界ってなんだ? 俺、別にそんなの使った覚えないぞ」
「あら、またまたご冗談が上手ですのね。こんな巨大な結界を張っておいて、知らないなんて言わせませんわ」
「いや、本当に知らないんだが」
「死の大地に足を踏み入れた瞬間、誰かに見られてるような感覚があったぜ! おまけに大気の魔力が濃くて、普通の人間だとすぐぶっ倒れちまう!」
「監視と弱体化の呪いを兼ね備えた見事な結界だ! まさに死の大地の名に相応しい結界だな。恐ろしささえ覚えるぞ!」
「我らが亜人だから影響は少ないが、ユグドラの人間が足を踏み入れようものなら瞬時に干からびるだろう。なるほど、ユグドラから追放された意趣返しとしては面白いのう」
この赫い雲にそんな効果があったのか……。
もしかしてアリアスやレジスタンスのみんなが体調良さそうなのって、この結界の影響なのか?
というか、四天王って亜人だったのか?
「亜人って、そんなの全然知らなかったぞ」
「俺は伝説の魔獣イフリートの血を引く魔人の一族だ。魔物と人間のハーフとでも思ってくれればいい」
なるほど、それで火帝か。イフリートといえば炎の魔物って印象だが、この世界にもいるんだな。
その血を引くということは、確かに炎使いとしてはかなりの腕前なわけだ。
「私は水の魔獣ウンディーネの血を引いてますわ。もっとも、魔獣としての特性はあまりありませんけれどね」
ウンディーネの子孫! そういうのもあるのか……!
そういえば確かに、美しい外見をしている。
前世の知識だと水のモンスターって女性的な体の物が多い印象がある。
外見の美しさはそれが由来なのか。
「俺は土の巨人タイタンの血を引いてるぜぇ! 体が普通の人間より頑丈だし、土魔法とは相性がすごぶるいいのが自慢だオラァ!」
巨人族の血を引く人間か。確かにあの怪力は脅威だった。
おまけに人間サイズで動くから、巨人よりも素早く動ける。
この岩帝とかいう男、育てればかなりの逸材になりそうなヤツだ。
「我はまぁ、なんだ。あまり誇る者でもないのだがのう……」
風帝はあまり自分の身の上を話したがらない。
まぁ誰だって語りたくない過去の一つや二つくらいあるだろう。
「このおっさん、先祖代々サキュバスに吸われてる一族なんだぜ! 昔は風魔法使いの名家だったのに、今ではサキュバスの幻術の方が得意になっちまってる! ギャハハ!」
「お、おい! あまりからかうでない!」
「しかもこのおっさん自身はサキュバスに襲われるのをこの歳まで待ってるんだぜ! おかげでいい歳こいて童貞だ!」
風帝エーヴィル、お前の気持ちは分かる。
俺も田舎で美少女とエロエロイチャイチャスローライフを目指している身だ。
その夢を笑いはしない。むしろ俺もサキュバスに襲われたい。
俺達は同志だ。心の兄弟だ。応援している。頑張ってほしい。
「ってことはあれか。四天王は全員、半魔物みたいなもんか?」
「半魔物って呼び方はあまり好みじゃありませんわ。私たちは自分のことを魔人と呼んでますの」
「魔人か。なるほど、魔獣の力を持つ人間。いいじゃないか、カッコよくて」
俺もそういう特殊な境遇に転生したかった。
こちとらただの孤児だぞ。しかも今はクビになった元暗黒騎士だ。
肩書がちょっと、いやかなり名前負けしているじゃないか。羨ましい。
「だから俺達からしても、亜人の味方をしてる黒き剣は憧れの対象だぜ! マジ尊敬してるって感じだァ!」
「亜人排斥を掲げてるユグドラの中で、亜人を守る正義の暗黒騎士。己の正義を貫く影の救世主。こんなの応援せぬわけにはいかぬからな」
なんかアリアスの時と同じようなことを言われてるな。
俺は別に信念を持っているわけじゃないんだが。
周りのみんながどんどん俺へのイメージをデカくしてる気がする。
「それだけあなたの活躍が、私達にとって救いだったのよダーリン」
横に座っているアリアスが嬉しそうに笑う。
まぁ、喜ばれる分にはいいか。悪い気はしない。
実際、ユグドラのやり方には疑問を持っていたわけだしな。
「そういえば、アリアスやみんなは亜人だから結界が悪影響を与えないからいいけど、ローレシアは大丈夫か? 体調に変化はないか?」
「え? 全然平気ですよ? むしろ体調がいい気がします」
どういうことだ? まかさローレシアも亜人なのだろうか。
それはそれで俺はウェルカムなのだが、この前裸を見た時は、どこからどう見ても人間だった。
スキルのおかげか? それとも俺の作った結界だから、俺の身内には悪影響が無い?
まぁ体調が問題ないのならいいか。
「あ、でもそういえば
「え? どれどれ、ちょっと見せてみろ」
「あっ……駄目です旦那様っ……! み、みんなが見てます……!」
言っておくが、俺は決してやましいことをしていない。
嫁の体調が変わったとのことで、容態を確認しているだけだ。
うおぉ……相変わらずローレシアのお腹は綺麗に引き締まってるな。
均等の取れたボディで、芸術性を感じる。
「……なんか、
「え、本当ですか? ど、どんな感じに変わってますか?」
「なんか……赤と黒の模様があるような……」
この模様って、俺の戦闘用マスクとクロノグラムの形に似ていないか?
気のせいというには、いささか似過ぎている。
もしかして俺のスキルで、ローレシアに刻まれたユグドラの聖痕を上書きしたんだろうか。
「この聖痕が時々疼くんです。旦那様への想いが強くなった時に、その……ジワァと温かくなるんですよね……あ、私ったら恥ずかしいことをっ!」
「う、うん。よく分からんが悪影響が無いなら問題なさそうだな! 気にしないでくれ」
それにしても、清楚な女の子にタトゥーがあると、NTRモノの本みたいでなんかイケナイ気持ちになるのはなぜだろう。
委員長が夏休み明けに悪い男に引っかかってるかのような、アレの雰囲気を感じる。
その場合、悪い男ってのは俺のことになるわけだが。
「とにかく俺が無意識に作った結界が、この村のみんなに悪影響が無いみたいでよかった」
自分も知らないうちに自分のミスで他人を巻き込むのは、絶対に嫌だからな。
「しかし黒の剣がここまで勢力を集めてるとは思わなかったぞ」
「どういうことだ? 炎帝」
「だってこの村は、ユグドラとの戦争に備えるための拠点だろう? まだ人数は少ないが、これからドンドンデカくなっていく予定はあるんだよな」
「戦争? なんだそれは。初耳だぞ」
「まさか知らないのか? 今、ユグドラ王国では戦争を起こす予定があるらしい」
「本当か? またどうしてそんなことを。この前の俺の襲撃で、ユグドラの戦力はかなり減ったはずだぞ。そんな状態で戦争だなんて、陛下は一体何を考えてるんだ」
「我らもそれが不思議なのだ。まさか今の状態で戦争をしてくるほど馬鹿げているとは思えん。しかし確かに戦争の準備をしているとの情報が入ってきているのだ」
陛下は確かに思想が隔っていた。しかしそれでも、俺に優しくしてくれた。
性根の曲がったユグドラ国民の中では、かなりまとも寄りの人間だったはずだ。
「旦那様、いやレクス。私も陛下と会話をしましたが、確かに以前の陛下とは別人としか思えない様子でした。別人としか思えません」
「陛下に何が起きたんだ? 歴史上では権力者が老いて判断力が落ちたせいで、国がめちゃくちゃになるっていうのはよく聞くが、まさかソレか?」
いや、陛下は健康そのものだった。急に人が変わったにしても、急過ぎる。
「そこで黒の剣、俺達に協力してくれないか? 一緒にユグドラの怪しい動きを止めようじゃないか」
「近年のユグドラは自国のみならず、他国の亜人に対しても排斥行為をしていますわ。同じ亜人として、決して見過ごすわけにはいきません」
「一緒に戦おうぜ! 黒の剣よォォォォ!!!!」
「お主がいれば百人力だ。ぜひ協力してほしい」
なるほど、俺の家に入ってまで話をしたのは、これが目的か。
確かにこれは俺の出番かもしれない。陛下に何が起きたのか気になるしな。
だが、俺にはやらなければならないことがある。
「村づくりが忙しいから、断る!」
「「「「ええ〜〜〜〜!?!?!?!?」」」」
すまんな。明日も朝イチで赫い雲を出さなきゃいけないんだ。
村人のみんなが暑さで倒れるからな。
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