第28話 暗黒騎士は村づくりを始める
空が赫く染まった。今日も清々しい朝だ。
いや見た目的には禍々しいのだが。直射日光を避けれるのは最高だからな。
「これは一体どうしたことだ」
「レジスタンスのリーダー、片翼のダンじゃないか。どうしたんだ、こんなところまで」
「先日の礼をしようと思ってな。ほら、約束の食糧だ」
おお、ありがたい。死の大地で手に入る食糧は貴重だ。今後の生活に関わるからな。
今日までずっと、ダークマターで前世のコンビニ飯を作って誤魔化してきた。
いい加減、自分達で自給自足の生活をしたい。
「それより黒き剣、この空はお前の仕業か? 王都でも似たような光景を見たが」
「太陽が暑いから、強制的に魔力の雲を作ったら涼しくなるんじゃないかと思ってな」
本当は太陽にイラついて必殺技を放っただけとは言えない。
「なるほど、確かに効果的な方法だ。現にこうやって、日中に外で活動出来てるしな」
「そ、そうだろう。これから毎日、俺が赫い雲を作る係だ」
「この地方の天候を変えてしまう魔法など、お前以外使えないだろう。俺達獣人も暑さに多少強いとは言っても、限度がある。ありがたいぞ」
暑さのストレスでやった、八つ当たり行為とはとても言えないな。
「それでダン、貰った食糧だがどうやって手に入れたんだ? 出来れば自分達で育てるようにしたいんだが」
「それなら簡単だ。地下にたくさん生えていた。どうやら暗いところで育つ野菜らしい」
「ほぅ……ということは、日光は必要ないってことか?」
「そうだろうな。だからこの赫い禍々しい雲で日照不足になっても、無事育つだろう」
「禍々しいは余計じゃないか……?」
かっこいいだろ? 片翼のダンなんてかっこいい二つ名を持っているダンなら分かってくれるはずだ。
「いや、恐ろしく不気味に見える。死の大地に相応しい空模様になったとしか思えん」
そうか〜。かっこいいと思うんだけどなぁ、赫い雲。
こんなの前世の中高生キッズが見たら、次の日から真似するぞ。
「食糧の件はこれで終わりだ。次に農業に詳しい仲間がいるって話だったが、残念ながら小さな畑で野菜を育てただけで、本格的に農業をしたわけじゃないらしい」
「そうか、いや全然いいんだ。少しでも協力してくれるなら助かる」
人ではいくらあっても足りない。前世の転職市場もそうだった。
俺のブラック企業でしか働いたことのない職歴でも、割と高待遇で採用してくれる企業が多かった。人手が足りないと、多少経験の浅い人材でも欲しがるものらしい。
今の俺がまさにそうだ。手伝ってくれさえすれば、経験の有無は気にしない。
なんか途端にクソブラック会社の採用担当みたいになってきたな。
ああはならないようにしよう。
「それじゃ、村づくりをするためにまずはみんなの家を建てるか」
◆◆◆
俺は常々思っていた。ご近所付き合いって面倒だよねと。
だがいざ一人暮らしを始めると、そもそもご近所さんと顔を合わせることすらない。
それはそれで寂しい。人間はなんだかんだ、誰か話せる人がいないと寂しく思うものだ。
「俺の家の周り、つまりこの辺り一帯を村にしよう」
「それって俺達レジスタンスも、村に住んでいいってことか?」
レジスタンスの一員、狼耳の獣人が言った。
「もちろん。レジスタンスのみんなには世話になったからな。ずっと地下暮らしはキツいだろ? だからもしよかったら、これから作る村に住んでくれないか?」
「いいのか? やったぜ!」
「ようやくまともな床で寝れるね〜。石の上に寝なくていいんだ!」
それは、さぞ大変な生活を今まで送っていたようで……。
「しかしどうする? 家を作ろうにも、まともな資材も無いぞ。あるのは荒れた地だけだ」
「作る」
「だからどうやって……」
「俺のスキルで作る」
「は?」
村作りには住人の居住地が欠かせない。寝るところが無いと何も始まらないからな。
異世界スローライフといえばレトロな感じの家が定番だ。これをダークマターで作る。
普通の家ならこの世界に存在するから、スキルで生成することはできない。
しかしそこに、俺の家のような設備を導入するとすればどうだろう。
この世界の家の見た目で、かつこの世界には絶対に存在していない家の完成だ。
エアコンは俺の家にあるから、生成出来ないのではないか。
そう疑問に思ったが、すぐにそんな考えは捨てた。
日本の酒が何個も作れているのだ。俺の中で違うモノと認識出来るのなら、生成出来る。
俺のダークマターはチートスキルだ。不可能はない。
「まずは土地を綺麗にしよう。みんな、避けてくれ」
「お、おい何をするつもりだ? なんで急に剣を構えるんだ?」
「こんなボロボロの地面じゃ、家を建てても不安しかない。まずはまっさらにしなきゃな」
俺はクロノグラムを握り、構えを取る。
レジスタンスのメンバー達はただならぬ雰囲気を感じ取り、遠くへ避難した。
「おおおおぉぉぉぉらあああぁぁぁぁ!!!!」
クロノグラムを地面に向けて力強くフルスイング。すると周囲に衝撃が走り、地面は抉れ、真っ平らで綺麗な地面が現れた。
「す。すげえことしてるな。あの暗黒騎士」
褒めるなよ、照れる。
「いざ、【ダークマター】発動! みんなが快適に暮らせる家を生み出せ!」
スキルを発動した瞬間、精神に尋常じゃない負荷がかかる。
やはり架空のモノを生成すると、かなり負担がかかるらしい。
うへぇ……気分悪くなってきた……。
気を失いそうだ……。むしろ気絶した方がマシなくらいキツい。
「おお!? 荒廃した地に、みるみる家が建ってくるぞ!?」
「これは奇跡か……? こんなことが現実に起こるのか」
「すげぇ! 見ろよ、立派な家がいっぱいあるぞ!」
レジスタンスの反応が嬉しい反面、精神の負荷が重くてそれどころではない。
もう俺の仕事終わったし、家に帰っていいかな。だるい。
「片翼のダン、あとは任せた。ついでに『なんでも育つ魔法の畑』も生成しておいたから、野菜の種でも蒔いてくれ。水をあげればたぶん育つから……。そういう風に作ったから……」
「あ、ああ……。それは構わないが、大丈夫か? 顔色がすぐれないようだが」
「こんだけ大仕事をやったんだ……疲れた……リーダーのお前が指示してあげてくれ……俺は寝る……」
「まだ朝だぞ? いや、これほどのことを成し遂げたのだから、素直にすごいが……まだ朝だぞ?」
二回言わなくていい。二度寝したっていいじゃないか。別に働いてるわけじゃないんだし。
それにやるべきことはやった。何もしてない癖に寝るならともかく、仕事をしたんだから休ませてほしい。
はぁ……なぜ俺は勝手に落ち込んでるんだろうな。
このスキルのデメリットを考えたやつ誰だよ。女神か? マジで一回、説教をしたい。
駄目だ、こんなことを考えてるのはかなり精神を汚染されてる。寝た方がいいな。
「じゃあ、そういうことで……みんな頑張ってくれよ……」
俺はノロノロと家に帰っていくのだった。
スローライフの基盤を整えて、本来はワクワクするはずなのに。こんな気分になったのはどうしてだろう。
さっきまではウキウキだったんだけどな。このスキルはやはり、使いづらすぎる。デメリットが重い。
「帰って酒でも飲もう……」
いや、それよりもアリアスとローレシア、二人に癒してもらうのはどうだろう。
具体的には添い寝でいい。添い寝してくれるだけでいい。『耳元で今日も一日頑張ったね』『えらい、えらい』と囁いてくれるだけでいい。
それだけで俺は癒される。帰っていっぱい癒されよう。そうしよう。
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