第22話 元暗黒騎士は王都を去る
「そういえばレクス、どうやって王都までやってきたんですか?」
「ああ、そうだった。ローレシア様にはまだ見せてませんでしたね」
俺がこうやってローレシアの処刑を寸前で止められたのは、移動手段を確保したからだ。
当然ダークマターで生成した。
この世界に無い、死の大地から王都まで一気に行けるモノを生成した。
「上を見てくれ」
「聖女様、あれが私たちの乗ってきたモノよ。名前はなんて言ったかしら」
「飛空挺だ。空を自由に飛べる乗り物だよ」
「大きい……あんな大きな船が空を飛ぶんですか? 不思議です」
「それが俺のスキルだからな。この世界に無いモノを生成するスキル、【ダークマター】で生成した」
もっとも、前世のゲームで知った架空の乗り物なのだが。
無知な俺は飛行船の先祖みたいなモノと思っていたが、実在しないモノと知ったのは大人になってからだ。
いやだって、ゲームで当たり前のように出てくるから実在してたのかなって……。
「そういえばレクス、聖女様にスキルのことを言ってもよかったの? 秘密だったんじゃなかったのかしら」
「これから一緒に暮らす相手に秘密は無しだ。それにローレシア様は俺の秘密を誰かに漏らすような人じゃないさ」
「知らなかったです。レクスにこんな凄いスキルがあったなんて……。それよりも、飛空挺という空飛ぶ船が大きすぎて混乱してます!」
「な? いい子だろ」
「純粋すぎて心配になるわ。現に騙されて処刑されそうになったんだし」
「騙すヤツが悪い。そいつらは全員ぶっ飛ばした。これでその話はお終いだ。さぁ、帰ろう。俺たちの家に」
「そうね。帰りましょうか」
俺は二人を抱えて飛空挺まで跳躍する。飛空挺の中にはレジスタンスのメンバーであるフェリスがいた。
「お疲れ様。さすが黒き剣、化け物だったの」
「それは褒め言葉として受け取っていいんだよな?」
「うん。凄かった。ユグドラ王国の主戦力を一人で消し去った。あんなの、私たちじゃ無理。かっこいいの」
ケモ耳美少女に褒められると、なぜか心がほっこりする。ケモ耳からしか得られない栄養素があるに違いない。
そのピョコピョコしてる耳を触りたいが、片翼のダンにバレたら殺されそうだ。
人の女に手を出しやがって、みたいな感じで。
「そういえばダンの方はうまく行ったのか? 俺達の襲撃の裏で騎士団の各拠点を襲撃する予定だったはずだが」
「ウチの兄貴はダメ。黒き剣の仕事が早かったのに、まだ敵と戦ってる」
「へぇ、そりゃダンに悪いことをしたかな。早く終わらせすぎたみたいだ……ん?」
「どうしたの?」
今、兄貴って言った? 会話の流れを思いだそう。俺はダンの様子はどうだと聞いた。するとフェリスは兄貴はダメと言った。
つまり…………
「ダンとフェリスは兄妹なのか?」
「あれ、言ってなかった? あの戦闘狂のバカ兄貴と血が繋がってるとか、恥ずかしいよね」
「でもダンは鳥人系の見た目で、フェリスは猫系だ。系統が違うじゃないか」
「うちの両親がネフィティ族とミーア族だからね。兄貴は父親のネフィティ族の血を、私は母親のミーア族の血を濃く受け継いでるの」
「なるほど……そういうもんなのか」
獣人の結婚にも色々あるんだな。よく見るのは部族のための政略結婚とかだが果たして。
いや前世でも国際結婚している会社の先輩とかいたな。別に不思議なことじゃないのかもしれない。
「あ、バカ兄貴が帰ってきた」
ダンは飛空挺まで飛んで追いつくと、甲板で疲れたのか倒れ込んでいた。
身体中から血と焦げた肉の匂いがする。大暴れしたのだろう。
「お疲れさん。そっちはだいぶ派手にやったみたいだな」
「ふん、お前には負けるさ。さすがは最強の暗黒騎士と言ったところか。俺が襲撃してすぐ、騎士団の連中が大騒ぎしていたぞ。王都が消滅したってな」
「お前の活躍の場を奪って悪かったな。でも今回は俺も譲れない理由があったんだ。ユグドラ王国に大打撃を与えたってことで大目に見てくれ」
「まさか、むしろ礼を言うくらいだ。お前はレジスタンスに力を貸してくれた。そして俺じゃ絶対に勝てない騎士団長と大司教を葬った。なんと礼を言っていいやら」
「あいつらも口だけで大したことなかった。お前が戦ったら、案外勝てたかもしれないぞ」
「冗談だろう? あいつらの実力はSランク冒険者と同等と言われている。一人だけならともかく、二人を相手にするとさすがに勝てん」
へぇ、騎士団長と大司教ってそんなに強かったのか。とてもそうは思えなかったがなぁ。
というかSランク冒険者がどれくらい強いのかが分からない。団長たちと同じ強さって聞くと、途端に弱そうに思えるから風評被害だろ。
「まぁ、お互い勝てたんだ。今日は祝杯と行こう」
「祝杯か……そうか、勝ったんだな俺たちは」
ダンは噛み締めるように勝利の余韻を味わう。長年虐げられてきたユグドラの上層部を葬ったのだ。
これからは亜人の立場が変わるかもしれない。俺としては元々亜人に偏見が無いから、もっと色々な亜人と会ってみたいな。
「しかし、いざ勝利したといっても民衆の亜人に対する風当たりの強さは変わらんだろう」
「俺の指名手配や、ローレシアの偽聖女ってデマを信じるような民度だからな。あいつらはこれからも自分に都合のいい、ユグドラの教えを信じるんだろうよ」
なんかユグドラの国民って、前世で見覚えがあるんだよな。
あの狂信者的な感じは、ネットでよく見るタイプの人間だ。
自分の目にした情報が真実で、それで相手を傷つけていい免罪符を得たと思っているようなやつ。
それと本物の宗教が合体してもうめちゃくちゃだよ。あいつらの頭の中を覗いたらこっちが発狂しそうだ。
そんな国民がいるところに、ダンたちレジスタンスもわざわざ戻ろうとはしないだろう。これからも死の大地で生活していくのだろうか。
いや、彼らは死の大地を隠れ蓑にしていただけで、本格的に暮らしていくつもりはなかったはずだ。
もしかすると、これから別の地に行ってしまうかもしれない。
「なぁ、レジスタンスのみんなが行くところが無いなら、死の大地で村を作らないか?」
「冗談だろう。あんなところで村など作れない。俺達獣人はともかく、お前ら人間やエルフはすぐ死んでしまう」
「そこは俺のスキルでどうにかするさ。それと約束してただろ。レジスタンスに協力したら食糧のことを教えてくれるって。みんなでやったら、案外村とか作れるかもしれない。そうは思わないか?」
「確かに……この飛空挺とやらを作ったお前のスキルがあれば、どうにか出来るかもしれない。例えば、不毛の地でも育つ作物を作るというのは可能か?」
「それだけだと何とも言えないな。だけど農業の知識とかあるヤツがいたら、そいつに教えてもらって知識と想像力を高めれば、いけるかもしれない」
「わかった。確か農業をしたことのあるメンバーがいたはずだ。調べておこう」
「ってことは、村作りに協力してくれるのか?」
「レジスタンスのみんなも、地下のアジトで暮らすことに限界を感じていた。今回の礼を返せるなら喜んで協力する」
「助かる……これから忙しくなるぞ。村人も確保して、いよいよスローライフの本格的なスタートの予感がするな!」
なんかいつも、これから忙しくなるって言ってる気がするな。実際忙しいのだが、俺の思ってるスローライフが中々実現出来ない。
今度こそ、本格的にスローライフをやりたいものだ。余計なアクシデントが起きないことを祈ろう。
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