第21話 元暗黒騎士はプロポーズする

 すっかり惨劇と化した王都の処刑場、我ながらやりすぎた。

 いやこれくらいやってもいい。

 俺やローレシアがやられたことを考えたら、まだ足りないくらいだ。


「これで当分、ユグドラ王国は手出し出来ないはずだ」


「レクス、あなたが強いと知ってはいましたがまさかここまでとは思いもしませんでした」


「そりゃそうです。こんな力、無闇に使ったら一般人を巻き込んでしまいます。扱いづらい力ですよ」


「でもそのおかげで私は助かりました。本当になんてお礼を言っていいのか……」


 元はと言えば俺を庇うために、ローレシアが処刑されることになったのだ。

 俺に彼女から礼を言われる資格はない。


「俺のせいであなたを死なせてしまったら、死ぬまで後悔することになりますから。これは俺のエゴでやったことです。ローレシア様が気にすることじゃない」


「それでも、これだけは言わせてください。助けてくれてありがとう、レクス」


 改めて感謝されると、少し照れるな。

 なにせ相手は国民のアイドルである聖女様だ。

 もっとも、今やその聖女という肩書きも失ってしまったのだが。


「私はこれからどうすればいいのでしょうか。信じていた物に裏切られて、どうすればいいのでしょう」


「それなら、俺と一緒に暮らしませんか」


「暮らすって……ええ!? そ、それってつまり、その……」


「俺の家で一緒に暮らそうってことです」


 せっかく快適な家を作ったのだ。

 部屋も余っていることだし、住人が増えるのは大歓迎だ。


「あの、それってもしかして、その……」


「どうしたんですか、顔が赤いですよ」


「それって……プロポーズってことでしょうか!」


「は……え?」


 プロポーズ、それって俺の知ってる前世の言葉と同じ意味だよな?

 つまり今の俺の言葉が、ローレシアにはプロポーズに聞こえたらしい。


 え? マジで?

 いや、待て。ローレシアは俺が既にあのデカパイ金髪美少女エルフと暮らしているのを知らない。

 失念していた。

 俺は単純に空いてる部屋があるから来ないか、という意味合いで言ったのだが……。


「ど、どうなんですかレクス! わ、私はその、そういうのはまだ早いというか……いえ、嫌じゃないですけど……むしろ全然いいと言いますか……!」


「いや、そのですねローレシア様。今のはプロポーズじゃなくて、なんと言うか……」


 さて。ここからどうやってローレシアの誤解を解こうか。

 プロポーズじゃないと言うのは簡単だ。

 だがそれでは彼女に恥をかかせてしまう。


 なんとかいい感じに言いくるめられないか?


「やっと終わったのねレクス。さっきの途方もない魔力、あなたの攻撃なのよね」


 おい、デカパイエルフ。最悪なタイミングで合流してくるんじゃない。

 今俺は非常にやばい状況なんだ。

 そんなところにお前が来たら、事態がややこしくなるだろう。


 あれ、なんで俺は浮気がバレた彼氏みたいな気分を味わってるんだろう。


「レクス? その方はどなたですか?」


 ローレシア、さっきと目つきが違うのは気のせいだろうか。

 気のせいであって欲しい。

 うん、気のせいだ。ローレシアは疲れているから、そんな目つきになるんだろう。


「初めまして聖女様。私はアリアス・シーゲルシュタイン。【女神の加護】を授かったエルフです」


「女神様の加護をですか……」


 おい、デカパイ。そこの顔がいいデカパイ。

 女神の教えを布教してるローレシアに対して、女神の加護とかいうチートスキルで女神マウントを取るな。

 ローレシアが自分のアイデンティティが無くなっていくような顔をしてるじゃないか。


 というか、アリアスもアリアスでローレシアに対する態度が変だ。

 口調は丁寧だが、どことなく二人の間にただならぬ空気が流れているような。


「あの、アリアスさん。レクスとはどういったご関係なのですか?」


「一緒に夜を共にした仲よ」


「おい、お前おい。語弊がある言い方をするな」


「本当なのですかレクス!」


「いや、ローレシア様……。こいつの言ってることは嘘というか、いや嘘じゃないんだが……」


「あの夜はとても熱かったわ。二人で同じベッドに寝て、一緒に目覚めたものね」


「そ、そんな! 本当ですかレクス!」


 嘘ですよ。そう言いたかった。

 だが思い返すと、あの日は久々のビールで酔って体が熱かったし、朝起きたら同じ布団で寝ていたのも事実だ。

 参ったな、否定出来る部分がない。


「そ、それじゃあお二人はその……そういう仲ということでしょうか……?」


「私とレクス、二人で一緒の家で暮らしてるのよ」


「ええっ!? レ、レクス! それじゃあさっきのプロポーズは何だったのですか? もしかして私をからかってたんですか!?」


「いや、それはですね。そもそもあれはプロポーズじゃなくて、何と言うか……」


 マズイ。この状況は非常にマズイ。

 何がマズイって、俺が最悪の二股野郎みたいになっている。


 嫌だ嫌だ、俺はハーレムを築きたいけど、浮気野郎にはなりたくない!

 前世の俺ならこんな感じで喚いていただろう。


 だが今の俺は違う。

 俺の心の中には、大きな夢がある。

 そのためには、多少の困難など乗り越えてみせる。


「まぁ、プロポーズみたいなものですね」


「ええ……嬉しいです……! わ、私もレクスのことをずっと……好きでしたから」


 やっぱりな。薄々感じてはいた。

 なんでこんな優しくて可愛い聖女様が、俺なんかに話しかけてくれるんだろう。

 もしかして俺に惚れてるのではと思っていた。


 ただ、暗黒騎士と聖女様。お尋ね者の俺とローレシアでは釣り合わない。

 だから無意識にその考えを捨てていた。


 だが今は同じ立場となった。

 それなら素直に言おう。俺はかわいい子が大好きだと。


 横で気まずそうにしているアリアスの方を向く。


「もちろんアリアスのことも好きだ。これからも一緒に暮らしてほしい」


「ちょ、ちょっとあなた何言ってるの! そ、そんなこといきなり言われたってビックリするわよ!」


「一緒に暮らすようになって、アリアスの魅力は十分伝わった。正直、どこにも行ってほしくない」


「で、でもあなたには聖女様がいるじゃない。こんな危険な場所まで無茶して助けに来るほど、大事に思ってるんでしょう?」


「ああ。ローレシア様も大好きだ」


 どっちも好きなら、どっちも一緒に暮らせばいいじゃない。

 別に重婚が禁止されている世界じゃないんだし。

 いやユグドラだと禁止だったか? まぁいいか、こんな国の法律なんか知るか。


「俺たちはもう、ユグドラに縛られることはないんだ。だから、これからは好きなように生きていく。だから恋愛だって自由なはずだ」


 ユグドラ王国はともかく、この世界は一夫多妻が許されている国も多いと聞く。

 金銭面の理由で、貴族くらいしかやってないらしいが、禁止されているわけじゃない。

 女神様はきっと何も禁止になんかしていない。つまりハーレムはオーケーということだ。


「二人とも、俺と一緒に暮らしてくれないか。どっちかだけなんて、選べないし選びたくもない。それくらい二人とも、俺にとって大事なんだ」


「なんか納得いかないわね」


 アリアスが不満そうに言う。


「別にエルフの中にも妻を複数持つ家庭はあったわ。だから私は文句ないわ」


「そうか。ありがとうアリアス」


「でもね!」


 アリアスが俺の顔に指を突きつけてくる。

 細くて柔らかい指先が俺の頬をツンツンする。


「あなたにとって私が一番って思わせてやるんだから! ふんっ!」


「わ、私も負けません! レクスのことを想う気持ちは一番ですから!」


「ローレシア様、アリアス……」


 どうやら異世界の文化に助けられた形だが、納得してもらえたようだ。


 田舎でスローライフを送っている今、俺のことが好きな女性が二人いて、なぜ諦めることが出来ようか。

 むしろ二人とも幸せにするのが、男の甲斐性ってやつではないだろうか。


 そう、前世でよく見たやつだ。

 異世界でスローライフをして、チートスキルで満喫する。その中にはかわいいヒロインが複数いて、ハーレムを形成している。

 俺はその夢を叶えるチャンスを手にしたのだ。


 乗るしかないだろ、この転生ハーレムの波に。


「これからよろしく、二人とも」


「こちらこそよろしくね、ダーリン」


「よ、よろしくお願いします……」


 よっしゃあああああああ!!!!!!!

 金髪デカパイエルフと清楚系聖女様ヒロインだあああああああ!!!!!!!!

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