第6話 亜空間終焉予感

白い光に包まれ、成仏への道を歩み始めた俺は、心の中に安らぎを感じていた。過去の記憶と向き合い、それを受け入れたことで、ようやく自分自身を許し、前に進むことができると信じていた。


だが、光の中を進んでいくうちに、俺の心には不安が芽生え始めた。何かが違う。何かがまだ終わっていないような気がした。だが、その違和感を無視して、ただ歩き続けた。


光の中に浮かび上がったのは、これまでとは違う風景だった。広がるのは荒れ果てた砂漠のような場所で、遠くにはかすかな影が見える。俺はその影に向かって歩き出した。何かが俺を引き寄せているような感覚があった。


影が次第に近づくにつれ、それが人の形をしていることが分かった。だが、その姿はぼんやりとした輪郭しか持っておらず、まるで煙のように揺らめいている。


「誰だ…?」


俺が問いかけると、その影は静かに答えた。


「俺はお前だ。」


その声に、俺は息を呑んだ。目の前に立っているのは、かつての俺自身だった。幽霊として彷徨っていた頃の俺、名前も持たずに彷徨い続けていた、迷える魂の俺だ。


「俺はお前の中にずっと存在していた。お前が過去と向き合い、成仏しようと決意したその瞬間にも、俺はお前の中にいた。」


「じゃあ、俺は…まだ成仏できていないのか?」


その問いに、影は淡々と答えた。


「お前は確かに成仏に向かって進んでいる。だが、俺を置き去りにしている。俺を置き去りにして、お前だけが成仏しようとしている。」


その言葉に、俺は愕然とした。目の前にいる影は、俺の一部であり、切り離すことのできない存在だ。だが、俺は無意識のうちに彼を無視し、自分だけが成仏しようとしていたのだ。


「お前は俺を見捨てるつもりか?」


影の声に、俺の心は揺れた。俺が成仏するためには、彼を置き去りにするしかないのか? それとも、彼を受け入れるべきなのか?


「お前は俺だ。俺はお前だ。」


その言葉が、俺の心に深く突き刺さる。俺はこの影を否定していたのではないか? 彼を拒絶し、自分だけが成仏しようとしていたのではないか?


「俺は…お前を受け入れるべきなのか?」


その問いに、影は静かに頷いた。


「俺たちは一つの存在だ。お前が成仏するためには、俺を受け入れなければならない。」


俺は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。彼を受け入れることが、俺自身を完全に受け入れることだと理解した。だが、それは同時に、俺が過去の自分を完全に認めることを意味する。


「わかった。お前を受け入れる。」


俺がその言葉を口にした瞬間、影は消え、俺の中に溶け込んでいった。そして、再び周囲が光に包まれた。だが、今度はその光が穏やかで、暖かいものだった。


「これで、俺はようやく成仏できる。」


そう確信した俺は、光の中へと足を踏み入れた。もう迷いはなかった。俺は自分自身を完全に受け入れ、そして新たな旅立ちに向けて一歩を踏み出した。


光の中で、俺は最後に微笑んだ。これが終わりではなく、始まりであることを感じながら。そして、俺はその光に包まれて、静かに消えていった。







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