第40話 四字術語

「らっしゃーい」


店の中に入ると、老人の声が店内に響き渡った。

店内は暗く、ほこりと蜘蛛の巣だらけで、清潔感のかけらもなかった。


「ごめん、俺ちょっと外いるわ…」


「私も。蜘蛛はちょっと…」


何人かはこの環境に耐えられず、外に出て行った。まぁ、確かに俺も長居はしたくない。


「なぁ、暁」


双川が後ろから声をかけてきた。


「ん?どうした?」


俺がそう言いながら振り返ると。


「ほいっ」


「うわっ、びっくりした…」


双川が刀を投げ渡してきた。


「これ、売り物だよな?」


「まぁ、細かいことは気にしない。ちょっとこっち来い。あ、聖徳も来てくれ」


「え?うん。わかった…」


そうして、俺と聖徳さんは双川に言われるがまま、店の奥へ入っていった。


「ああ、やっぱりあった」


双川が急に止まった。その目の前には「お試し場」と書かれた看板と、敵を想定して作られたであろう木の板が立てられていた。


「よし、暁。やれ」


「いややれって何を…」


「刀使え」


「え~…」


俺はそう言いながら渋々抜刀した。


「さすがに万一の時のために無駄遣いしたくないから、能力は使わんぞ?」


「うい」


俺は刀を構えて木の板に近づき、目の前で刀を振り下ろした。


カッ…


刀は木の板にわずかに通った。


「うわ浅っ…」


「下手くそ…」


「うるせぇやらせといて…」


「なんか、暁普通に強いから武器持ったら最強になるんじゃね?とか思ったけど、そんなことなさそうだな」


「俺、前ピストル使った時も一発も当たらなかったし、多分武器つかうの向いてないんだと思う」


「そうか。じゃあ、聖徳。お前これ使え」


そう言いながら双川は聖徳さんに刀を投げ渡した。


「え?なにこれ?」


「店の端っこの格安コーナーに置いてあった。安いくせに質が良くてな。多分、俺の石切丸といい勝負すると思うぞ」


「へぇ…ちなみになんて刀?」


「知らん。格安コーナーのだから値札すらついてなかった」


「そう…」


聖徳さんはそう言いながら木の板の目の前に立った。


【明鏡止水】


聖徳さんは、そのまま木の板を一刀両断した。


「確かに、これ切れ味いいね…」


聖徳さんが刀身をじっくりと眺めているのを俺と双川は困惑しながら見た。


「ん?二人ともどうしたの?」


ようやく聖徳さんが俺たちが困惑してるのに気づいたようだ。


「いや、どうしたのって…」


「聖徳さんの能力って、雷とかじゃないの?」


「え?あー、そういえばみんなの前だと今まで電光石火しか出したことなかったしね…」


「え?じゃあ、本当の能力は…」


「【四字術語】。四字熟語から由来する技を扱えるらしい」


「なんか、ふんわりしてね?」


「うん、俺も思った」


俺の能力【反逆時間リベリオンタイム】や、双川の【サイクロン】はしっかりと「時間制限付きの字強化」や、「風を操る」などのように、ほとんどの者が聞いただけでなんとなくどんな能力かがわかるものを持っている。そんな中「四字熟語由来の技を使う」という説明文は、あまりわかりやすいとは言えないものだ。


「正直、私もよくわかってない」


「じゃあ、誰も分からないか」


「だな」


聖徳紫 能力:四字術語 四字熟語由来の技を使う

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