第38話 ジャージ

「ねぇ、こっちとこっちどっちがいいかな?」


「右じゃない?」


「左かな?」


「もう両方買えば?」


「よし、そうする!」


この世界に来たばかりだった時よりも、みんなの表情が豊かになってきた気がする。


「おーい、速水!次行くぞ~」


「あ、悪い。俺もう少し探したいから先行っててくれ」


「うい、わかった」


そうして俺と共に行動していた人たちは別のところに行き、一人になった。


「さてと、これどっちにしようかね…」


俺はそう言いながら二着のジャージを手に持った。普段戦いに行くときは動きやすいからという理由でジャージを着ているのだが、この世界に来てから来ているジャージは偶然持っていた体育用のジャージだ。正直、左胸に「速水」と書いてあるのは少し嫌だ。


「まぁ、こっちでいいか」


直感でジャージを選んでみんなの後を追おうとしたとき、端っこの方に誰かがいるのが目に入った。


「あれ?白星?」


そこには、この町のパンフレットを読んでいる白星さんがいた。


「あ、速水さん」


白星は、俺を見つけると、パンフレットをしまった。

さん付けは中学の時から変わってないなと思いながら、俺は白星さんに近づいた。


「もう、買いたいものかったの?」


「いや、まだ。何買えばいいのか分からないから…」


「そうか…」


本人には何か買う意思があるようだけど、何買えばいいのかわからないって感じか…暁みたいに制服でよくね族だったら少し心配だったが、そうじゃないのは少し安心だ。しかし、何を買うべきかってことだよな。こういうファッション系は一ノ谷か不和色が得意なんだが…呼んでみるか?

俺はそう思ってスマホを取り出したが、画面には圏外と書かれている。

そういえば、この前零唐が、「スマホが通じるのって俺がこの寮にアンテナ立ててるからだから、一定以上離れると通じなくなるぞ」とか言ってたな…


「じゃあ、俺一緒に探そうか?」


「え?いいの?」


「うん、俺もう買うものきまってるし。じゃ、行くぞ」


俺はそう言って歩き出し、その後ろに白星がついてきた。


「それで、どんなのがいいとかあるのか?」


「一応、動きやすいのがいいかなとは…」


「なるほど。じゃあ、ジャージか」


そう言いながら俺たちはすぐそこのジャージの置いてあるところまで行った。


「ここだな。ここらへんで好きなのを…っても選べないか。一緒に探すぞ」


「あ、ありがとう…」


「…なつかしっ」


俺は小さな声でそうつぶやいた。


「え?懐かしいって何が?」


こいつ、耳がいい…


「いや、俺妹いたんだけど、その時のこと思い出して…」


「あ、そうなんだ…」


白星さんは、何か気まずそうに答えた。何か俺、変なこと言ったか?

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