第37話 パーカー
「町だ―!」
即見さんが大きな声で叫んだ。
「即見、うるさい」
「はーい、ごめんなさい」
速攻でみんなに怒られたが、大きな声で叫びたくなる気持ちもわかるほどの規模だ。
「それにしても、こんな大きな町があったなんてな…」
「ああ、前俺が刀を買ったところとは比べ物にならない」
速水や双川もこの町の規模の大きさに少し驚いているようだ。
…ん?待てよ?町?
「なぁ、みんな」
「ん?どうした?」
俺がみんなを呼び止めると、一斉にこっちを見てきた。
「ここって町だよな」
「そうだぞ。てかさっきからその話を…」
「でも、一応ここってはじめ【村】だよね?」
「あ…」
「確かに…」
みんなも気づいたようだ。なんで村の中に町があるんだ?…
「そういえば、町長でも村長でもなく、グロック【王】だし…」
「うわほんとだ…」
「なんか、設定がばがばじゃね?」
「なんか、ムカついてきた」
佐久間は口を尖らせながら言った。小説家として物語を作るのを夢見ている彼にとっては、ある意味地雷だったのかもしれない。
「ま、まぁ、細かいことは気にしないでいいんじゃない?せっかく遊びに来たんだし」
街遊さんがそう言ってなんとか全体の空気を保った。
「そんじゃ、最初どこ行く?」
「武器屋」
「楽器屋」
「ジャンクショップ」
「それはそれぞれ個人で行ってくれ」
「じゃあ、服屋行かない?みんな制服しかないって嘆いてたし」
聖徳さんがそういい、俺たちはまず服屋に行くことになった。
「いらっしゃいませ~」
やってきたのは、すぐ近くにあった洋服屋さんだ。二階建てになっており、老若男女全員向けた服を置いている。
「しかし、俺別に服とかに興味ないしな…」
全員がちりじりになって、俺が一人になったタイミングでそうつぶやいた。
これまでファッションに興味を持ったことがないわけではないが、俺の中でのお洒落のレパートリーがパーカー+ジーパンしかなく、正直ファッションには苦手意識が高い。別にこの世界では制服だけでもいい気はするが、少し楽な服の一着でも持っておいた方がいいのかもしれない。
俺はそう思いながら、パーカーの置いてあるところに向かった。我ながら、結局パーカーかよとは思った。
「あれ?九十九さん?」
パーカーの置いてあるところに行くと、九十九さんがいた。九十九さんはこっちに気づくと、軽く頭を下げた。
「あれ?神白は?」
「神白は双川と一緒にいるよ。多分今二階じゃないかな?」
「へぇ、珍しいね。神白と別行動なんて」
二人が付き合いだしたのは卒業式の時なので、付き合いだしてからの二人を俺はそこまで見ていたわけではないが、それでもどちらかに会うと必ずどちらかがいて、本当にお互いのことが好きなんだなと分かる感じだった。なので二人が別行動をしてるのは、驚きとともに何かあったのではないかと不安にもなった。
「あまりお互い一緒にいすぎると、友達がどっか行っちゃうから」
確かに、その通りだ。二人とも、そこまで考えてるのか…
「それで、暁もパーカー探してるの?」
「あ、うん」
「じゃあ、あっちの方言った方がいいよ。あそこ柄ついてないの置いてあるから」
「そうなの?ありがとう。じゃ」
俺はそう言って九十九さんが指さした方向に向かった。そういえば、卒業後に何人かで遊びに行ったとき、俺が柄物をあまり好まないっていう話題になったな。その時たしか九十九さんと神白もいたはずだからその時のことを覚えていたのだろう。
今度は現世で、みんなと買い物に行きたいな…
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