第36話 気まずい空気
あれから一週間は経っただろうか。
ゴーレムによって荒らされた町はあっという間に元通りになった。あれを一週間で元通りというのはいくらなんでも無理があると思うが、あくまでゲームなのでメタ的な発言は控えておこう。
あと、この前元・3-D全員が城に呼ばれて、改めてグロック王から謝罪された。別にグロック王は悪いことしてないのに、人の上に立つものって大変なんだなと後にみんなで話した。
他には国綱と戦ったというのもあり、全員ある程度は戦闘に慣れてきた。まだゲームオーバーになった時のことを考えると怖いが、今俺たちは魔王を倒すために戦うしかない。その「戦う」という行為を行うことが出来るようになったのは、かなり成長したといえるだろう。
そんなわけでそれぞれがソロでもクエストに行けるようになり、毎日誰かしらはクエストを受けに行っているという状況が続いたのだが…
「あ、暁。おはよ。やっぱお前早いな」
寮の出入り口から速水が出てきた。腕時計を見てみると、もうすぐ七時になるところだった。
「現世にいるときから早起きは得意だったから」
「にしても早すぎだろ」
「そういう割には速水も早いけどね」
七時にすでに起きている。高校に行くという行為を必要としないこの世界において、早起きはそこまで重要視されない。言ってしまえば毎日が土日みたいなものだ。それでもこの時間に起きているというのは、十分すごいことだ。
「まぁ、俺睡眠時間少なくても大丈夫だから」
「体に悪いからよく寝てくれ」
そんなことを話していると
「あ、二人とももう起きてたのか」
今度は双川がやってきた。
「あ、双川。おはよう」
「やっぱお前も早いな」
「まぁ、なれたもんよ。それに、今日は特に寝坊できないしな」
「だな。みんなに迷惑かけられないし」
そう。今日は絶対に寝坊できない日だ。なぜなら…
「みんなで出かけるなんて、正直する機会なかっただろうしな」
「だな。こういうところに関してだけは、このゲームに感謝だ」
「それ以外はやめてほしいけど」
元・3-D、冠木を除いたみんなで出かけて、買い物でもしようという約束をしたのである。
「二人は何が欲しい?」
「俺は服かな?」
「え?速水服ほしいんだ。意外…」
「だって、俺たち大半が制服でこの世界来たから、結構動きにくいんだよ。あまり汚したくないし」
そういえば、あまり気にしてはなかったが、一部例外を除いて全員が制服しか服を持っていないんだった。
「それで、双川は?」
「俺は砥石かな?刀のメンテナンス自分で何とかしたいし」
「刀のメンテって砥石だけで何とかなるもんなのか?」
「知らん。だからついでに店員さんにでも聞く」
双川も中学の頃は冷静さと明るさ両方を持ったTHE・モテ男みたいな感じだったのだが、この世界に来てから刀の魅力に夢中になっている。使う予定もないのに部屋にはコレクション用の刀が何本もあるらしい。俺は入ったことないから知らんが。
「それで、暁はどうするんだ?」
「え?俺?」
「ああ、俺たちに聞いといて自分だけ答えないのは少し卑怯じゃないか?」
「まぁ確かにそうだけど…別にほしいものとかないかな?」
「え?そんなことないだろ」
双川が少し驚いたような顔をして聞いた。
「だって別に服とか制服でいいし、拳で戦うから武器の手入れも何もないし、しいて言えば回復薬とかの補充かな?」
「いや、回復薬の補充って、暁確かカンストしてなかったっけ?」
「あ、そっか」
そういえばこの前、グロック王から「ささやかなもんじゃが受け取っておくれ」と言われて渡された大金で回復薬とかを補充して、その時に所持数カウントが「99」まで行くとそのアイテムはもう持てないことが判明したんだった。
「じゃあ、まじで買うものないや」
「おいまじか…」
「確かに絶対に何か買わないといけないってわけじゃないけど…」
二人とも頭を抱え始めた。
「な、なんかごめん…」
「いや、別に悪いことではないから…」
「うん、無欲なのはいいことだ…」
「頭抱えながら言わないでくれ…」
その後みんなが集合するまで、三人の間に少しだけ気まずい空気が流れるのであった。
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