第21話 人々
薬屋の位置は所々に地図が置いてあったのですぐに分かった。
さっきの武器屋とは違い、屋台のような形で経営している。
「それで、薬って何買うんだ?」
「そうだな…回復薬が主になると思う。というか回復薬以外ってなんかあるのか?」
「ああ。これ読め」
そう言いながら双川は俺にパンフレットを渡してきた。パンフレットの表紙には、「ツルカメドラッグ」と書かれている。今、俺たちの目の前にある薬屋の名前だ。
「え?お前これどこで手に入れた?」
「そこらへんに他の店の人一緒に置いてあったぞ」
マジか。周り見てなかったのか俺…
少しへこみながら俺はパンフレットを開いた。
当然回復薬はあるようだが、今気になるのは他の薬だ。正直、興味がある。
そう思って俺はパンフレットの隅々に目を通した。
攻撃力の上がるアタックアップ。防御力の上がるタンクアップ。スピードの上がるファストアップ。主にこの三種類があるようだ。
「なるほどね…」
「どう?決まったか?」
「そうだな。アタックアップ、タンクアップ、ファストアップはみんなに一個ずつ配れるようにして、残った金で回復薬買うわ」
そう言って俺は薬屋の店員のところまで行った。
「ったく、ほんといい奴だなあいつ」
双川は、小さな声でつぶやいた。
「おまたせ」
俺は買い物を終え、双川のところに戻った。
「よっ…あれ?買った物どうしたんだ?」
双川は、俺が手ぶらで戻ってきたことに違和感を感じたのか、聞いてきた。
「ああ、バックパックに入れといた」
この世界の俺たちはバックパックと呼ばれる亜空間のようなところにアクセスすることができ、そこに色々なアイテムをしまっておけるようになっている。ゲームとかでバカでかいアイテム持ってるはずなのに手ぶらで歩き出す主人公も亜空間に接続できたのかなと考えると少し面白い。
「そうか。じゃあ、これからどうする?」
「そうだな…」
これからどうしようか考えてるその時
カンカンカンカンカンカンカン!
あたりに鐘の音が鳴り響いた。
「何だこの音?」
鐘の音を聞いた村の人たちは、悲鳴を上げながら遠くへ走って行ってる。
「よくわかんないけど、よくないことが起こってるぽいな」
すると
グウォォォォン!
ものすごい羽音が上空から聞こえてきた。
「なぁ暁、あれなんだ?」
双川が指を指したところには、巨大なクワガタムシがいた。おそらく、俺の顔ぐらいの大きさはあるだろう。
「わからん。でも、間違いなく害はあるだろうな」
「だな」
そう言いながら双川は石切丸を抜刀した。
「こいつに最初に斬られるのはお前か。バカデカクワガタ」
そう言って双川がクワガタに向かって飛びかかろうとしたとき
ヒュン!
一本の矢がクワガタを貫き、クワガタはそのまま消えてしまった。
「上空にいる奴を刀で斬れるわけないだろ馬鹿が」
建物の屋根から神白が大きな声で言ってきた。隣には九十九さんもいる。
「俺にテストの合計点勝ったことないくせに」
「でも国語はいつも俺の勝ちだっただろ」
それなりに頭のいい二人の言い合いが始まった。そんなに勉強のできない俺はとても会話に入れそうにない。
「純人。今そんなことしてる場合じゃないでしょ?」
「ああ、確かにそうだな」
九十九さんがなんとか止めてくれた。
「人々はみんなあっちに逃げたし逆方向行けばなんかあるだろ」
「え?人々?」
双川がなぜか反応した。
「え?俺なんか変なこと言ったか?」
「いや、村の人たちのことを人々っていうんだって思って」
「確かに。村の人々とかならまだわかるけど人々単体は珍しいな」
「国語の教科書の文章みたい」
三人から変わってると思われたようだ。
「あーもう今そんなのどうでもいいから。行くぞ!」
俺は赤くなった顔を隠すように下を向きながら言って走り出した。
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