第10話 過去の自分

「お前、確か他の奴らとともに別室にいたはずだが。そういえばこの藤村とかいうやつが出てから部屋の見張りがどっか行ったんだったな。おそらく、お前以外も出てるんだろう」


国綱め、勘が鋭い。


「わざわざこんな隠し部屋みたいなところに三人連れ出して、一体何がしたいんだ」


俺は怖さで震えてるのを抑えて大きな声で言った。


「残念だが、答える義理はない」


そう言いながら偉そうな三人が襲い掛かってきた。俺は間一髪のところでそれらをかわせた。

三人をよく見てみるとそれぞれ、剣、槍、ナイフを持っている。室内、しかも天井が特別高いわけではないのに槍かとは思うが、こっちとしてはありがたい。国綱の方を見ていたが、刀を抜いておらず、戦う意思すら見えない。あいつが参戦してたら秒でやられてたな。

しかし、国綱がいなくても1vs3。しかもまだ俺は能力をうまく使いこなせない。圧倒的に不利だ。しかし、助けを呼んでも誰も来なそうだし、青山は起きそうにないし俺一人でやるしかない。幸いにも、捨て身で一直線に攻撃するのは辛うじてだができる。


反逆時間リベリオンタイム


俺は槍を持った奴に一直線に突撃した。しかし


「素早いが、単純だな」


すんなりかわされ、俺は壁に激突した。


「くそっ、俺今日だけで何回壁にぶつかるんだよ」


反逆時間リベリオンタイムには三分間の制限がある。数打ちゃ当たる戦法は現実的ではない。


【命令】


「動くな!」


街遊さんの声が聞こえた。能力を使ったのだろう。しかし、あれ命中率悪いからな。大丈夫か?


ザシュッ


すると、後ろから鋭い斬撃音が聞こえた。振り向くと、そこには刀をしまおうとしている国綱がいた。


「悪いがそこの三人は手を出すな。次やったら、お前ら自身を斬る」


命中率以前の問題か。しかし、これで完全に俺一人でやらなきゃいけなくなった。しかも三人の命が国綱に握られてることを考えると、残り時間で逃げることもできない。


「何ボケっとしてんだこのガキが!」


ザシュッ


ナイフを持った奴の攻撃を俺はもろに食らってしまった。腹部を斬られてる。俺は、その場で倒れこんでしまった。

やらかした。目を離した一瞬をやられた。血が止まらない。傷が深いみたいだ。俺、死ぬのかな?まだ、この世界で何もできていない。何もできずに死ぬなんて俺、嫌だよ。俺の物語、こんな新しい冒険が始まる直前で終わるのかよ。

ああ、視界がぼやけてきた。もう終わりだな。ごめんみんな。役に立てなくて。


そうして俺は、目を閉じた。


【命令】


「動け!」


俺はその声を聞いて、目を覚ました。今のは、街遊さんの能力か?


「お前、手を出すなと言ったはずだ」


目では見えないが、国綱からものすごい殺意が飛んでるのが分かる。まずい、やられる…


ガキーン


すると、刀が何か固いものにぶつかる音がした。刀は確実に国綱のもののはずだ。硬いものってなんだ?

俺は、なんとか立ち上がって、みんなの方を向いた。そこには、刀を街遊さんに向けて振り下ろした国綱と、その間に入って刀を腕で受けとめている四宮さんがいた。よく見ると、四宮さんが少し、灰色っぽく見える。


「この硬さ、人の硬さじゃない。なんだこれは」


国綱が、冷静に聞いた。


「私の能力【ストーンプロテクト】は、自身を能力発動中動けなくする代わり、食らうダメージすべてを一にすることができる。あなたがどんだけ強くても、私にはほとんど効かない」


まじかよ。耐久最強じゃん。


「そうか、なら、壊れるまで何度でも斬る」


そう言いながら国綱は刀を振り上げた。いくらダメージを一にするとは言え、まだ全員レベルは低いはずだ。HPはどんなに高くてもせいぜい50だろう。すぐにやられてしまう。すると、




国綱が、音もなくよろけた。まるで、誰かに押されたように。


「やっぱ俺、この能力好きだわ」


藤村が、誰もいなかったはずの空間から現れながら言った。


「姿が見えなかったらどんなに強い奴でも倒しようがないもんね」


消音隠密サイレントハイド


藤村が、また姿を消した。


「暁!」


また後ろから声が聞こえた。振り向くと、そこには気絶していたはずの青山がいた。


「青山⁉気失ってたはずじゃ…」


「気失う直前に聴力上げて、目覚めやすくした。暁、この国綱とかいうやつは俺たち四人で何とかする。お前はそこの三人を頼む」


「え?でも、俺まだ能力うまく…」


「大丈夫だ。能力自体は強い」


「でも…」


正直言って、怖い。さっき、死の直前を経験したから、これまで以上に死ぬのが怖い。


「暁、中三の運動会のクラス対抗リレー覚えてるか?」


「え?まぁ、覚えてるけど…」


いきなり昔の話をされて、俺は一瞬驚いた。


「あの時お前本番でずっこけて、一位だったのに一気に最下位まで落ちたよな」


ああ、そんなことあったな。結局あの後速水がアンカーで全員ぬいたから一位になって、速水の伝説がまた一つ作られたけど。


「あの時速水がいなかったら、多分ビリだったよな」


「いや、確かに速水がすごかったのもあるけど、それだけじゃないと思う」


「え?」


「あの時お前、すぐに起き上がって、諦めず全力で走り切っただろ?練習の時に転んだ奴らは、そのあと諦めてダラダラと走ってたし、本番の時に転んだ他クラスの奴もそうだった。でも、お前は違った。終わった後、俺、お前になんで諦めなかったのか聞いたよな?」


「ああ、そんなことあったな」


「確かにあの時点でもう勝てないとは思ったし、あの頑張りに価値はなかったと思う。けど、あそこで諦めたら、これまで頑張ってきた俺に失礼だし、怒られそうだったから」


ああ、そうだったな。だからあの時、俺は走れたんだった。


「それがあって、あの時勝てたんだよ。それで、今はどうだ?」


「え?今?」


「ここで無理だってあきらめた時、過去のお前はどう思う?」


「…そうだな」


ここで諦めたらみんなを助けたいと思った時の俺は、あの時能力を使いこなせないと知っていながら戦った俺は、あの時、無価値だと知っていながら頑張って走った俺はなんていうんだろう。


「俺に怒られるのは嫌だな」


「そうだろ」


「分かった。国綱は頼んだ。あの三人は俺がやる」


「ああ、頼んだぞ」


反逆時間リベリオンタイム

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