第3話 討伐
とは言ったものの、これどうするんだ?
ここにいる大半の人は現状をうまく呑み込めてなくて動けなくなってたり逃げたりしていて、まともに戦えそうなのは10人いるかどうかすら怪しい。いや、それだけいれば多いほうなのか?
「ちなみに速水、お前の能力は?俺は三分間攻撃とスピードアップだった」
「キランリバイブ。回復系の能力だ」
そうか、全員が戦闘向きの能力とは限らないのか。しかし速水というクラスで一番運動神経が良かった奴が戦闘向きじゃないのは厳しいな。しょうがない。あまり運動は得意な方じゃないけど俺がやるしかない。
「速水、怪我した時は治してくれ」
【
能力の発動方法は直感的に分かった。自分が強くなってるのを感じる。これならあのバカでかい奴にも勝てるかもしれない。
俺はそう思って、攻撃を仕掛けるために地面を思いっきり蹴った。
ビュン…
は?
次の瞬間、俺は思いっきりこけて体のありとあらゆるところを地面にぶつけて怪我をした。
何が起こったのかよくわからない。けど今はとにかく全身が痛い。背中を思いっきりぶつけたのだろうか、呼吸するのですらつらい。意識も遠のいてきた。
「大丈夫か?」
誰かが俺に声をかけた。もう、誰だかわからないくらい意識が…
【キランリバイブ】
すると、俺の体中の傷口が塞がり始めた。俺の体に起こってる現状から、さっきの声が速水だということをようやく理解した。
「この空間、端まで行くと反対側から出てくるようになってるっぽいんだけど、お前自分の速度制御しきれずにものすごいスピードで周ってたぞ」
まじか。いつか見たアニメの主人公みたいに、特殊な力をいきなり使いこなせたりはできないんだな…
俺はそんなことを考えながら立ち上がった。
「じゃあ、暁は固まって動けない奴らを守っといてくれ。スピードはあれでも攻撃力アップの方はなんとかなるだろ?」
「まぁ、そうだと信じたい。速水はどうするんだ?」
「ゴーレムをぶっ潰す」
速水はそう言いながら地面を強く蹴ろうとした。
「ちょまて、お前いくら運動神経いいからって能力的に無理だろ」
「お前、ゴーレムのところよく見てみろ」
そう言われて俺はゴーレムを見た。ゴーレムの周りには三人ほどいて、ゴーレムと戦っている。しかし、三人でも苦戦を強いられてるようだ。
「あのままじゃそのうち三人とも死ぬぞ」
「でも、速水も行ったところで…」
「まぁ、見てろって」
俺の発言を遮るかのように、速水は走り出した。さっきの俺の制御しきれてないスピードほどではないが、それでもとても人が出せるスピードではなかった。
「おりゃ!」
速水は、ゴーレムの前で高く飛び、顔面に蹴りを入れた。
「グオォォォォォォ」
ゴーレムがひるんだ。あの大きさの奴を、蹴り一発で…
ドンドンドン…
速水は、ゴーレムがひるんだ隙に、連撃をぶち込んでいる。ゴーレムは手も足も出ていない。
ドゴーン
ゴーレムから岩が落ちてきた。速水が攻撃してもげたのだろう。岩にもげるって表現あってるのか?
ドーン! ドーン!
地面に岩が落ちて、大きな音が鳴っている。落ちてくるまである程度時間があるとはいえ、これ当たったらひとたまりもないぞ。
「き、きゃー!」
いきなり、誰かの悲鳴が聞こえた。声のした方向を見てみると、男女五人ほどが固まっている。そしてそこめがけて岩が落ちてきている。まだギリ逃げられそうだが、全員腰を抜かして動けないようだ。
「あ、危ない!」
俺は走って五人の前まで行った。
五人の目の前に来た時には、岩はもうすぐ目の前だった。今から五人を引っ張って逃げるのは無理だな。じゃあ、壊すしかない。
【
俺は、能力を発動した。そして
ズドーン!
俺は、岩を思いっきりぶん殴った。すると、岩は粉々に砕け散った。
「痛っ…」
岩を思いっきりぶん殴ったのは初めてだが、まさかこんなに痛いとは思わなかった。殴った手を見てみると、血が出ていた。
ドーン!
いきなり、目の前で大きな音とともに、土埃が舞った。そして、そこから人影が見えた。
「ふぅ、危なかった…」
土埃から、速水が出てきた。所々、土で汚れてはいるが、ぱっと見は怪我をしていない。
「よかった…」
「助かった…」
あちらこちらから、安堵の声が聞こえてきた。
「ったく、まだこれから始まりなのに」
「まぁでも、いいんじゃない?いったんは片付いたんだし」
俺は小さく言ったつもりなのに、いつの間にか隣にいた速水には聞こえていたようだ。
「まぁ、それもそうだな」
「あ、暁、お前手怪我しただろ?出して」
暁に言われて俺は血で汚れた手を出した。
【キランリバイブ】
すると、たちまち俺の手の傷口は塞がった。
「あ、ありがとう」
ゴーン ゴーン
どこからか、鐘の鳴る音がした。
「もうチュートリアルは終了か。これからゲームスタートか」
「暁、お前このゲームの勇者にでもなってみるか?」
速水がいきなりそんなことを言ってきて、俺は驚いた。
「いきなりどうした?」
「いや、なんとなく」
「まぁ、たしかにゲームと言えば勇者か」
「RPGとか特にそうだよな」
そういえば速水、ゲーム好きなんだったな。
「さっきの事故見てただろ。俺には無理だ。速水の方が向いてるだろ」
「そうかな?でも、俺戦闘向けの能力じゃないしな」
「速水ならいけるだろ」
「いや、俺主人公ってタイプじゃないから無理だな」
「それ言ったら俺もだぞ」
「確かに」
「おいこら」
俺は速水の頭をひっぱたいた。
「わりぃわりぃ。でも、自分の人生の主人公は自分だけっていうし、全員勇者ってことでいいだろ」
「うん、まぁ、そうだな」
みんな主人公、か…
「幸せだといいな」
「ん?なんか言ったか?」
ぼそっと言ったので、うまく聞き取れなかったようだ。
「いや、なにも」
すると、突如目の前が白く光りだし、視界を奪った。直感的に場所を移動してると察した。
「さぁ、ゲームスタートだ」
キャラに合わないなと思いつつ、少しかっこつけて、俺はつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます