2章 You shall not covet your neighbour's
歯車が動き始める
学校に登校し、教室のドアを潜る。
「…おざーす…」
一応、包帯でグルグル巻きにされた左手をアピールしつつ教室に入ると教室にいる生徒全員が振り向いた。
「…お、おはよう」
声を出した瞬間、ワッと歓声が上がって生徒が集まってくる。
「腕どうしたの?」
「事故にでもあった?」
「事件に巻き込まれたってホント?」
「風間くん大丈夫?」
そんなに仲良くない奴らも話しかけてきて、割と気まずい。
3週間ほど空けたのだ。心配もするというものか。しかしまあ疲れるな…
そう考えていると、全員と俺の間に綾乃が入ってきた。
「風間は病院上がりなんだ。慣らしの期間もあるから、いっぺんに質問するのはやめろ」
そういうと、ザワザワと周囲にいる人間たちは散っていった。
「助かった、綾乃」
「気にすんな。チケットの礼だ」
チケット…ああ、ARIAの1件か。そういえばそんなこともあったような気がする。
もうひと月前だぞ、よく覚えていたなアイツ。
「ARIAのやつか。いつだっけ?ライブ」
「来週末だよ。お前がくれたチケットなんだから覚えとけっての!」
そう言ってルンルン気分で綾乃は俺のバッグを持った。
「病院上がりでシンドいだろ?持ってやるよ」
心遣いは嬉しいが、ちょっとキモイ。
しかも巻いている包帯はダミーで健康体だし、回復が早くて元気ピンピン…とも言えない。
仕方なくバッグを預けると、俺は席に座った。
「課題とかは大丈夫か?テストとかは?」
「あー…多分大丈夫」
そう言うと、俺の顔を覗き込んだ綾乃が不思議そうな顔をした。
「……なんか、変わった?」
「は?」
変わった…と言われれば、確かに濃い経験をしてきたから顔つきが変わったのかもしれない。
だとしたら険しくなってそうで少し嫌だな。
「なんか、こう…疲れて見える」
「ソレはソレで嫌だな…?」
「え、何が?」
綾乃の疑問に答えようと思った瞬間、学校のチャイムがなった。担任が入ってきて、SHRが始まり今日の伝達事項が伝えられていく。
それが終わると授業に入り、1限目、2限目と進んでいく。
3限目に差し掛かろうとしたその時、職員室からの放送が鳴り響いた。
『1年4組、風間 優斗。職員室に来るように』
何かと思って急いでいくと、職員室には先生が青い顔をして電話を持っていた。
「今変わります!風間君、あなたにお電話」
そう言われて手に取ると、俺は電話を耳に当てる。すると、電話の向こうからは聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『佐伯だ。単刀直入に言おう。付近で例外案件が発生した』
「…!?」
俺は驚いて言葉を失う。それを気にせず、佐伯は電話越しに話し続けた。
『同時多発型で、人員が足りていない。すまないが出動してくれ。現場はそこから近くにある、牧場の持ち場だ』
俺は電話を持って職員室から飛び出すと、教室にあったジャージに手をかけてトイレに飛び込む。
「内容聞いて良いすか?」
『すまないが、そんな時間はない。現地に行って直接聞いてくれ』
「分かりました。位置は?」
『2-4-13だ。急げよ』
「了解!」
俺はジャージに着替え終わると、トイレを飛び出して教室に入る。
「綾乃!悪いけどコレ職員室に返しとして!」
「は!?」
そう言って電話の子機を投げると、俺は外に向かって走り出す。
そうして、例外対策部としての風間 優斗の一日が始まるのだ。
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