1章 Be strong and of a good courage
「例外案件」発生
「ほらこっち!早くしないと佐伯に怒られちゃうよ!」
「ち、ちょっとまって下さ…!」
作戦室を目指して俺たちは廊下を駆け抜ける。
地上階に対してあまりにも大きい地下室は、能力者が容易には出られないようにするための工夫だ。
急いでいる時に関しては煩わしいことこの上ないが。
「佐伯は怒ったら怖いんだよ!はーやーくー!」
そう言って加速する一ノ瀬。その速度は一般人が見れば目を見張り、陸上の世界大会に招待してしまうほどだろう。
前までの俺だったらついていけて居なかった。そう、前の俺ならね。
──────今は、 違う。
心臓から全身へ、熱を
身体から一瞬紫電が飛び散り、それが内から迸る熱へと変換された。
掴んだッ、これが身体強化だ!
「シィッ…!」
俺は息を吐き出し、同時に1歩を踏みこんで後ろに蹴り出した。
瞬間、爆発的な加速が産まれ、地面を蹴る音が来るよりも疾く俺は前へと押し出される。
圧倒的な速度を持って前へと加速し、直線の通路を飛び抜けた。
「へぁ」
そのまま無駄に長い通路をコンマ以下の秒でブッ飛び、停止すること無く顔面から壁に激突する。
「い゛っ…!!!」
鼻先から顔面にかけて、押し潰され続けるような痛みが走った。
痛い事には痛いが、この程度の痛覚で済んでいるのは恐らく身体強化の恩恵だろう。
込めたエネルギーによって肉体強度も上がる…というのは知見にはなった。
授業料は高くついたが…
「少ね〜ん!だいじょぶかあ〜!?」
一ノ瀬が心配そうに駆け寄ってくる。
クソぉ、アイツらが節々で「制御」という言葉を使っていたのを忘れていた。
細やかな制御は後々身につけるもので、ソレが難しいという話だと言うのに、頭から抜け落ちていた。
今の俺は、流せる適正値を全開で馬鹿みたいに垂れ流すか0かの二択しか出来ない。
スタートラインの、『一般人より強い程度の薄ら強化』をコレから身につけないとな…
「それにしても少年……ッすごい飛び方…んッふふ!…すごい飛び方してたね…!ぶはっ!」
一ノ瀬は俺の痴態を見て爆笑している。隠せてねぇからな。お前。
痛みに悶えながら立ち上がると、鼻血がブシィッと勢いよく飛び出した。
「ブハッ、ギャグ漫画かよ!!もうダメ!ッはははははははッ!!」
それを見た一ノ瀬は爆笑して笑い転げる。
何がツボに入ったのだろうか。何が可笑しい!と叫びそうになる俺の心を沈めて、とりあえず作戦質へと向かおうとしたその時である。
「何をしているんだ?一ノ瀬」
威圧感のある、声がした。
俺は嫌な予感がして、振り返らずにその場からスルッと逃げる。
「えぇ?だってさあ、少年がね?身体強化ミスって真っ直ぐブッ飛んだの!」
「ほうほう。して?」
一ノ瀬!笑ってないでいいから!笑ってないでいいから気付け!
後ろだ!後ろーーーッ!!
「それでさ!壁にバーンってぶつかって、鼻血がブシーッて!もうダメ、アハハハハハ!!!」
「そうかあ、私には何が面白いか解らないなあ」
「えぇ、解らないの!?可哀、想…………」
一ノ瀬が振り返り、ようやく気づく。
そこには恐らく走ってきていたであろう佐伯が、物凄い顔をしながら一ノ瀬を見下ろしていた。
一ノ瀬の顔が固まり、青ざめていく。
「どうした、面白いんじゃないのか?一ノ瀬」
「アッハハ…なんでもないで〜す」
制・裁!!!
*********************
「班ごとに報告しろ!急ぎだ!」
作戦室の中には10人ほどが集まり整列していた。内部では点呼が行われ、佐伯へと報告されていく
「風間、君は今回牧場班だ、1番奥の方の列にある」
佐伯にそう言われ、部屋の奥へ目をやると牧場が先頭に立ち、後ろに見覚えのない人が1人立っていた
早歩きでそこまで行くと、見覚えのない人の後ろに並ぶ。すると、前の人が振り返り俺に挨拶を交わした。
「よろしくね、風間くん」
綺麗な人だ。黒髪ロングでクールビューティって感じの女性がこちらを見て微笑む。
「よ、よろしくお願いします…」
ちょっとドギマギしてしまった。いやはや、男の体というのは災難なものだ。
「あ、どこ行っとったん。心配したで?」
いつの間にか現れた牧場が話しかけてくる。俺は慌てて緩んだ顔を整えて返答した
「ああ、トイレに行ったら一ノ瀬さんに絡まれて…」
「は?ノセさんが男子トイレに?はァ…もっとマシな言い訳考えてこい」
そうなりますよね。すみませんでした。
「牧場班!揃っていないのか!?」
佐伯が声を上げた。それに対してノータイムで牧場は返答する。
「揃ってます!」
佐伯は振り向うと、後ろにあったホワイトボードを6つの丸を書いた。
そのまま再度前へ向き直り、声を上げる。
「ではこれより作戦を説明する!」
そう言う彼の声に対し、全員の空気が一気に引き締まった。
「今回は探索任務、難度は三だ!」
難度、というのは作戦の困難具合を上の人間が状況を見て適当に設定している。
一〜十までが存在し、これらは上が現場にも行かずに決めた余りにも適当なもの。
適正戦力の数として設定されている側面もあり、難度以上の人数を派遣する事は処罰の対象となる。
余りに適当に設定されているのに、処罰は厳重のため守らざるを得ないが、宛にならないという本当にどうしようもない誰得なもの。
「静岡、八王子、山梨、北海道、広島、大阪の6箇所に同時発生した孔について諸君らには探索してもらう」
ホワイトボードに書かれた円の中に、佐伯は何かを書き込むと、マジックペンを置いた。
「配分はこうだ。配置を確認し、装備を整えたら私が立ち会いの元、一ノ瀬に飛ばしてもらうように。」
そう言うと、10数名以上の全員が一斉に声を上げた。
「「「「「「「了解!!!」」」」」」
「では解散!」
そう言うと小走りで全員が出ていく。俺はホワイトボードを確認すると、そこには班の名前が書いてあった。
俺たちの配分は…あった、八王子か。
「風間ァ、何してんのや!行くで!」
「っ、はい!」
俺は呼ばれて牧場に着いていく。そして、そのまま作戦室から出ていった。
「装備っちゅうてもお前は持ってへんからな。その服動きやすいか?」
そう言われて俺は身なりを確認する。上下、学校指定の長いジャージで、動きやすいと言えば動きやすい。
「大丈夫です!」
「そうか、
もう一人の女性が牧場に呼ばれる。彼女の見た目は、休日に外をランニングする意識高い系のソレだ。
「行けます、問題ありません」
まあ、あの人らも動きやすいからそんな格好しているのだろう。
「そうか、ほな問題ないな。いつもの通り後方待機で、いつもの仕事や。やばなったらノセさんに連絡入れること」
「了解」
宮下、と呼ばれた女性は何か凄く重宝されているようだ。すごい能力を持っているのだろうか。
「風間、今回は探索やから俺と一緒に来い。だが危なくなったら宮下ン所まで下がれ」
「了解ッス」
「せや、これ耳につけとけ。通信デバイスや。そう簡単に外れんし、抑えるだけで班と喋れる」
そう言われて渡されたイヤホンのようなものを耳につける。
ピロリン!と音がして、『牧場班ノ グループニ 参加シマシタ』と機械音声が響いた。
「ほな、風間はここで待ってろ。装備を整えたらここに再集合や。ええな?」
「「了解!!」」
そうして、2人は互いに更衣室に走っていった。
******************
「えーと…宮下ちゃんは身軽なのは解るんだけど、少年の装備はソレでいいの?」
作戦室で一ノ瀬は問いかける。牧場は警察らしいフル装備を揃え、宮下は肩掛けタイプのバッグをつけている。
対して俺は学校指定の蛍光色の入ったラインがクソ目立つジャージを上下来ているだけだ。
「ノセさん。危なくなったら即下げるんで、心配せんでください」
「ホントに?少年、危なくなったら下がるんだよ?」
一ノ瀬はマジの心配をする顔で俺の事を見つめる。親か、あんたは。
「…わかりました」
「挨拶はすんだか?現場に待機している警官からまだかと連絡が来たのだが…」
佐伯は困った顔をして俺達に話しかける。この人も色々大変なんだな…。
と、ここで俺は入った日に思い至った。
先程から彼女の姿が見えない。まさか彼女も班に所属して、戦場に飛ばされたのか…!?
俺は心配になり、佐伯に問いかける
「あ、あの、沙也加ちゃんって…」
すると、数秒不思議そうな顔をしたあと、思い至ったように佐伯は説明した
「安心しろ、彼女は任務には参加しない」
俺はホッと息をつく。安心してしまった。
その様子をみた佐伯は一ノ瀬に合図を送る。
「じゃ、飛ばすよ。ビックリすると思うけど頑張ってね、少年!」
「へ?」
「行ってらっしゃい、ちゃんと帰ってきてね!!」
目の前の景色が、一瞬にして入れ替わった。作戦室から青空と地面の境界線に、一瞬にして切り替わる。
雲がスレスレの、八王子の上空に俺達は転送されたのだ。
「うわああああああああああ!!!」
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