嵐の前の静けさ
俺はとにかく、休憩終わりに身振り手振りで話し始める。
内容はARIAとぶつかった時の事についてだ。
この話をすると、牧場は俺の右手を見て懐疑的な顔をした。
「ほォ〜ん。で?その模様ってのは何処にあるん?」
「ほら、ここっスよ!」
俺は掌を大きく開いて牧場に見せつける。その掌には黒色で描かれた幾何学模様が刻まれていた。
しかし─────────────
「…もしかしてジョーク?笑えへんで?」
牧場には、見えていないようだった。
俺の中での疑念が確信へと変わる。
……やっぱり、コレは『奇跡』だ。身体への影響がない以上、何某かの条件があるタイプのもの。
「ジョークじゃないですって。信じてくださいよ」
そうやって言っても、牧場は困った顔をして頭を振るだけ。
牧場はドカッと腰を下ろして地面へと座り込む。俺を捉える瞳は哀れなものを見る目だった。
「はァ…あんなぁ、俺らは人員足りてへんのや。何でもかんでも出せるわけちゃうんよ。それに君は能力使い始めてまだそこいらやろ?」
「いや………!まあ…そうっすけど…」
「…それやったら、ARIAと対面した感動で能力が成長した可用性だってあるやんか」
なんという無茶苦茶な成長。だが、それを言われると否定が出来ない。今ここで「違います!」と言えるほどの材料はないのだ。
「例外対策部として、疑う気持ちを持つんは大事や。せやけどな、なんでもなんでも疑ったらアカンで?」
「で…でも…」
少しでも反抗しようとして、俺は口を開く。だが、その言葉を突っぱねるかのような愉しが牧場の口からは出た。
「そもそもな。俺らは先んじて動けるような部署じゃないんや」
………え?『対策部』なのに?という言葉を口に出しそうになった。
「俺らは切り札。存在自体が上にとっての『対策』なんよ。んでもって使わない事が1番の選択肢でもある」
そう言う牧場の顔は、恨めしいと何かを憎むようなものだった。
後手になる自分たちの活動で過去になにかがあったのかもしれない。
「まぁそういう訳やから勝手に動く事は許されんのや。疑わしきは罰せよってのは分かるがな」
「………そうですか」
「そんな顔すんなよ。変な模様に痺れねぇ…一応上に報告は上げとくで」
「…!ありがとうございます!」
俺は地面に炸裂させる勢いで頭を下げた。そんな事でもない、と言いたげな顔で手をヒラヒラさせると牧場は立ち上がる。
「…ま、訓練再開や。兎にも角にも、早めに身体強化できるようならんと話にならんで」
「はい!」
休憩後の訓練は、頭に攻撃が集中していた。
********************
相も変わらず薄暗い隊長室。その中で、佐伯と牧場がソファーで向き合い語らっていた。
「…どうだね、彼の様相は」
「どうもこうも、
牧場は上を向き、フゥ、と息を吐く。牧場は上を向いた状態で語り始めた。
「能力はクソザコ、身体強化は出来ない!ま〜どうやったらこんな奴があの大男から逃げたんか不思議でしゃあないわ」
呆れた牧場の様子を見て、佐伯は軽く笑う。
「そう言わずに。彼も頑張っているんだ」
牧場はその言葉を聞いて飛び上がった。その目には憤怒が宿っている。
「ほな何で監視しろなんて言うたんや」
牧場に取って、高校生の一挙一動を見逃さず監視しろ…などという司令が出るのはポリシーに反するものだった。
「俺は、誰かがそういう扱いされるんが1番嫌いって言うたよな?」
人は人らしく。彼の正義感はそこから来ていた。
「能力者であろうと人たれ」と自らの信念を貫く異常者でもある。
故に、警察…及び国から怪物を檻に閉じこめるような扱いをされている現状に大きな不満を抱えていた。
そんな中での大して強くもない学生に対する監視命令など、彼の怒髪天を着くに十分な行為である。
「…君は勘違いをしているな」
「は?」
佐伯は立ち上がる。190cmはある躯体から放たれる威圧感がより1層強くなった。
「君は私に。そして私は、上層部に従わなくてはならない」
そのまま佐伯はデスクの方まで歩いていく。そして、振り返ると腰を机の上に下ろした。
「それは覆らない事実だよ。昔は違ったがね」
その言葉を聞いた途端、牧場の怒りは沸点へと達した。勢いそのまま大声を上げながら立ち上がる。
「ほな昔と同じように─────」
それを遮ったのは、佐伯の大声だった。
「今は今だ!!」
机から降りて立ち上がる。そして、牧場の目の前まで歩くと、怒りを奥底に仕舞いながらも溢れ出した声で話し始めた」
「いつまでも昔の話をするなよ、牧場。お前は過去に縋ることしか出来ないのか?」
佐伯は牧場の肩に手を置くと、強く力を込める。
「お前は
その言葉を聞いた途端、牧場の目からは光が失われた。彼の頭には失望感と喪失感が溢れかえる。
その横を佐伯は歩きながら抜けた。
「どんなに真似して似非臭い関西弁をしても、お前じゃアイツにはなれないぞ」
ドアに手をかけた佐伯がそうつぶやく。そして、部屋の外へ出ようとしながら、続け様に話した。
「私には、我々のやり方というものがある。従って貰わなきゃ困るんだよ。牧場くん」
そう言い残すと、彼は隊長室から去っていった。
「……………」
牧場は薄暗闇に取り残された中、過去のことを思い出していた。
『気張りや、牧場。……あとは任せんで』
目尻から、大粒の涙が1滴だけ零れ落ちる。それは後悔から来るものだった。
「やっぱり俺には無理ですよ。
牧場は1人、鼻を鳴らした。
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