始まりの始まり
───我々人類は可能性を持ち合わせている。
自然の摂理を歪め、万物を操り、見えぬものを見る“可能性”をだ。
恐ろしい事にソレは、心の底から求めた者に開花してしまう。解析不能な状況が揃い、理解できない条件が重なり、壁を超えるべく才を持った者にのみ、可能性が花開く。望んだものを、現実にするべく力が花開くのだ。
その力には、原理が存在しない。1度起動すれば、あらゆる物理法則をある程度貫通して、設定された事象が実行される。
その力には、根源が存在しない。力に目覚めた者は出処不明のエネルギーを体内に内蔵し、蓄積された謎のエネルギーがキャパシティとして機能する。
その力には、過程が存在しない。例えるなら、「炎を上げるために火花と燃料で火種を作り、酸素を燃やしながら炎を起こしていく」という過程を無視して炎を引き起こす。真空であろうとこの力で起こされた炎は燃え盛る。
求めた物によって形を変え、願ったものを叶える。
原理、根源、過程。その全てが一切合切不明なその力を、人々は「奇跡」と呼んだ。
******************
俺の名前は
身長170.3cm、体重61.5kg。筋肉はそこそこつき始めといった体型だろうか。
黒髪の少し天パっぽいくせっ毛がコンプレックス。あと、幼なじみが一人いる。モテたとことは1度としてない。顔は幼なじみからしたら中の上程度らしい。
俺は何を…ああそうか、これ、夢だ。ゆっくりと目を開いて、俺は起き上がる。
「……知らない天井だ」
真っ白な天井を見つめながら呟く。………記憶に強く残ったこのセリフは、何時しか言いたかった言葉の一つだ。
しかし何故だろうか。達成感…というよりは何故か焦燥を感じる。具体的に言うのなら、横から強烈な違和感を感じる。
「…元気そうじゃないか!少年」
──────ッ聞かれた!!!
「な〜、機嫌治してくれよ少ね〜ん」
俺の事を少年と呼ぶ女性は、パイプ椅子に座り込みユサユサと俺の事を揺らしていた。
俺は上から布団を強く被さっている。外との関わりを強く断つ意志を強固にしている象徴だ。A○フィールド、全開ってね。はは…
「な〜まだ自己紹介とか説明しなきゃ行けないこととか沢山あるんだからさ〜頼むよぉ」
茶髪のグラマラスお姉さん(?)がユサユサと俺の繭を揺らしてくる。やめてくれ、俺はもう外とは関わりたくないんだよ。
1番見られたくない所だろ。カッコつけたり、やりたい事しかやってない自分なんて。
「ね〜。マジで頼むよぉ。このままだと少年の脳に直接スキャンかけて事情聴取することになっちゃうよ〜」
物騒すぎる言葉で俺は飛び起きると、ベットの上に正座してお話を聞く事にした。
「…話ってなんすか」
「急に改まるじゃないか少年。脳スキャンそんなに嫌?」
誰だって嫌に決まってんだろうが。という返答をグッと堪えてにこやかに答える。
「説明しなきゃいけないんすよね、なんスか?」
ヒクヒクと吊り上がる頬を限界まで押さえつけて俺は問返す。ココで適当に問答をして、話が通じないと脳スキャンにぶち込まれる可能性だってゼロじゃない。なるべく友好的にこの場を通り抜けなければ。
「じゃー、まず自己紹介ね。アタシは
一ノ瀬 翼と名乗る女性は、まるでうっふーん♡とでも言いたげなポーズを取って俺にアピールをする。いや、興味無いから。確かにグラマラスな身体ではあるが…うん、アラサーからアラフォー辺りだろう。
「…ちょっとは反応してくれない?」
「………」
「傷つくなあ、もう」
…ふざけた人だ。だか、こんな様相でもあの大男を一撃で倒すフィジカルもある。この華奢な体のどこからそんな物が出ているというのか不思議でたまらない。
物思いにふけると、その様子を察したのか一ノ瀬は真面目な顔をして語り始める。
「───単刀直入に聞こうか。君、持ってる側だよね」
一瞬にして部屋の空気が凍りついた。先程までのおちゃらけた様相からは考えられない程の威圧感。それは最早殺気に近いものだ。
「ああ、嘘とかつくのは辞めた方がいいよ。ここでソレは通じないから」
……持っている、というのは無論「アレ」の事だろう。
しかし、あまり知られたくない。というか、色々事情があり、知られるとかなり厄介だ。
俺は隠すようにすっとぼける。
「持ってる…とは?」
そういうと、小声で「とぼけちゃってえ」と一ノ瀬は呟いた。
…だが、知られるのは本当にマズイ。考えろ、どうやったらここを切り抜けられる?
「ま、説明はしておこっか」
近くに座っている椅子から立ち上がると、俺のベットに沿うように歩き始めた
「所謂…超能力、かな。空飛んだり火を吹いたり。そういう人間の理屈じゃ説明出来ない力を持ってるか?って聞いたんだ」
一ノ瀬は質問を明確にしてきた。
となれば、この状況で俺が「持っている」かどうかは重要じゃない。
これを前提とした、何かについて知りたいんだ。
「………。」
「悪いけど君に黙秘権はないよ。今回は特に被害がデカかったからね」
今回は?あの大男の1件の事だろうか。となれば「あの件」はバレていないのか。
大男の1件に関わりがあると思われるより、ある程度こちらを開示したほうがリスクは低いな。
…………仕方ない、やるしかないだろう。
「───【奪え】」
俺はそう呟く。呼応する様に、一ノ瀬の革ジャンが1枚俺の手元に移った。
「わあっ!何するのさ、少年!」
一ノ瀬が顔を赤らめて叫んで飛び退く。すると、俺の手元から革ジャンが一瞬にして消失した。
手元から消失した革ジャンは、一ノ瀬が元々羽織っていたようにノータイムで戻る。
「…これが俺の力です」
「……あー、なるほど。実演してくれたわけだ」
そういう一ノ瀬の顔は、胸の前で腕をクロスさせてはドン引きと恥の混ざった複雑な面をしていた。
「何を求めてるか知りませんが、無理だと思いますよ。コレじゃ」
───さて、どうだ。このまま隠したいことは隠させて欲しい所だが…
一ノ瀬の反応を伺えば、何故かぶつぶつと独り言を話し始めた。会話の内容は聞こえないが、表情の変遷として誰かと会話をしているようには見える。
ひとしきりコロコロと表情を変えた後、俺の顔を見ると一ノ瀬は口を開いた。
「君さ、ウチに来ないか?」
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