【4】夜の縁側、耳かきと見えない花火

◇シチュエーション:田舎の夏の夜。小夏の祖父母の家。二人は縁側で花火大会が始まるのを待っている。

〈SE:田舎の夏、夜の虫の声:ここから〉

〈SE:開く襖〉

(襖を開けた小夏が恥ずかしそうに聴き手の後ろから現れる。マイク位置⑬より遠く)

⑬より遠く「……お待たせ~」

〈SE:近づく足音、畳:ここから〉

⑬「ごめんね、私のおばあちゃんの家なのにぽつんと一人、縁側で待たせて」

〈SE:近づく足音、畳:ここまで〉

〈SE:縁側に座る〉

⑮「おばあちゃんとおじいちゃん、お祭りの会場で花火見るんだって」

⑮「あの二人、ずっと熱々だから」

⑮「おまけに、健康でパワフル」

(ぎこちなさそうに)

⑮「……夕立が降ったから涼しくなってよかったね」

⑮「まあ、そのおかげで花火は三十分遅れみたいだけど……」

(三秒ほど間を開ける)

⑮「あ、その……やっぱり気になる……?」

⑮「なんで家の中なのに水着なのか……」

⑮「さっきの夕立で服濡れちゃって、着替えもあんまり持ってきてないから、それで……」

⑮「……んっ……もうっ、じろじろ見ないで」

⑮「私だって、恥ずかしい……っ」

⑮「よりにもよって、黄色のビキニ……それもなんてゆーの、バンドゥタイプってやつ?」

⑮「肩紐が無くて、胸に巻くようなタイプ……」

⑮「今さら肩紐で部活のユニフォームの日焼けが隠せるとは思えないけど、やっぱり、はずい……」

⑮「変じゃ、ない?」

(二秒ほど間を開ける)

⑮「ホント……?」

⑮「だって、腕も脚も体の付け根まで日焼けしてるし、お腹も焼けてる」

⑮「ビキニからはみ出てる胸の辺りとパンツのライン、あと背中の肩甲骨の辺りだけくっきり白い肌なんて……」

「変だと、思わない?」

(二秒ほど間を開ける)

⑮「……君が、変じゃないと思うなら、まあ、いっか……」

⑮「でも、そうだよね」

⑮「日焼けの跡があるってことは、私が部活頑張ってるってことだし」

⑮「考えてみたらなにも恥ずかしくないのかも」

⑮「そう、日焼けも魅力のひとつ」

⑮「むしろ、君には刺激が強すぎた?」

⑮「……ん、もう……なんでそこは反応薄いの?」

(五秒ほど間を空ける)

⑮「……まあ、いいや」

⑮「花火までどうする?」

⑮「せっかくのサボり同盟の合宿なのに」

⑮「え? 聞いてないって顔だね」

(聴き手に近づきながら肩を寄せる。マイク位置⑮から⑦へ)

⑮→⑦「だって……」

⑦「他にどんな理由をつければいいの?」

⑦「君を誘うのに……」

(二秒ほど間を空ける)

(聴き手から離れる。マイク位置⑮)

⑮「ははっ……なに言ってるんだろ……」

⑮「私、おかしなこと言ってる……あっ、もしかしたら熱中症かも」

⑮「気を付けなきゃ……」

(五秒ほど間を空ける)

⑮「そうだ」

⑮「私、君とやりたいことがあったんだ」

⑮「私たちずっと二人でサボってるのに、まだ肝心なことやってない」

⑮「それはね、耳かき」

⑮「とゆーわけで、これから耳かきをしてあげる」

⑮「あ、私の腕侮ってる?」

⑮「任せて、こう見えても繊細な作業は大得意」

⑮「ちょっと待ってて、ちゃんと竹の耳かき持ってきたから」

⑮「掻きだすために先がくるって曲がってて、反対側に白いふわふわがついてるやつ」

(聴き手から離れ、置いてある旅行鞄へ向かう。マイク位置⑭より遠く)

〈SE:遠ざかる足音、畳〉

〈SE:旅行鞄を漁る〉

⑭より遠く「あ、あったあった」

(耳かきを鞄から見つけ聴き手に近づき、再び隣同士で座る。マイク位置⑮)

〈SE:近づく足音、畳〉

〈SE:縁側に座る〉

⑮「お待たせ」

⑮「なに……? 怖いの?」

⑮「だいじょぶ、初めては優しくしてあげるから」

⑮「はい、そのまま横に倒れて私の太腿に頭を載せて」

(聴き手、身体を倒し腿に頭を載せる。小夏の声は上から降ってくる。マイク位置⑪)

〈SE:衣擦れ〉

⑪「私の太もも寝心地悪くない……?」

⑪「私って陸上部でしかも短距離だから結構脚に筋肉ついちゃってるし、そのせいで太いし……」

⑪「普通の子みたいに柔らかくないかもだけど……」

(二秒ほど間を空ける)

⑪「……ん、もう、余計なこと考えないで」

⑪「ほら、まずは左耳から」

⑪「安心して体の力を抜いて」

⑪「触るよ」

〈SE:耳に触れられる:ここから〉

⑪「君って、綺麗な耳の形してる」

⑪「んふっ、くすぐったいよね」

⑪「でも、人の肌に触れるのって結構気持ちいい」

⑪「肌の感触というか、体温というか……」

⑪「なんか私、君と同じでスケベな人みたい……」

〈SE:耳に触れられる:ここまで〉

⑪「はい、もう忘れて」

⑪「まずは浅いところからいくよ」

⑪「ゆっくり、入れるからね」

(聴き手の左耳を耳かきする)

〈SE:左耳、浅い耳かき:ここから〉

(吐息)

⑪「……ん……………んっ………っ……ん…………ぁー………ぅっ…………ん……………」

⑪「やっぱり竹耳かきって、綺麗になるね」

⑪「…………んっ……………君も気持ちいい……? …………んっ……んー………んぅ……………ん……………やってみると……なかなか難しい………………ぅ………………ん………………んん………………」

〈SE:左耳、浅い耳かき:ここまで〉

⑪「浅いところは、こんなもんかな」

⑪「次は、ちょっと深めに」

⑪「もし痛かったりしたら言ってね」

〈SE:左耳、深い耳かき:ここから〉

⑪「んっ…………ふぅ…………んんっ…………ん………………ん……………ん………うぅ……………ぅ………………ぅん……………」

⑪「なんか、こうしてると君の頭をよしよししたくなってくる………こう、ほっこりする気持ちっていうか………」

〈SE:左耳、深い耳かき:ここまで〉

〈SE:髪を撫でる:ここから〉

⑪「……よしよし、よしよし……」

⑪「まるで君が赤ちゃんになったみたい……」

〈SE:髪を撫でる:ここまで〉

⑪「子ども扱い、嫌だった……?」

⑪「耳かきの続き、するね」

〈SE:左耳、深い耳かき:ここから〉

⑪「…………んっ……………………んっ……んー………んぅ……………………ぅん……ん………………ぅ……ん…………ん………………んん………………」

⑪「…………今だけは……頭の中を空っぽにしていいんだよ………………全部、全部、真っ白になって消えていって……耳かきと私の声だけが、頭の中に響いてる……」

(聴き手の左側にぐっと近づき囁く。マイク位置③)

③「今は、それだけを考えてくれたら嬉しい……」

(聴き手から離れる。マイク位置⑪)

⑪「んふふっ…………ん…………… …………んー………ん……………………ぅん……ん………………ぅ……ん…………ぁー………ん………………んん………ん~………ぅ………………んぅん………………ん………………」

〈SE:左耳、深い耳かき:ここまで〉

⑪「……うん、綺麗になった」

⑪「仕上げに――」

(聴き手の左側に近づき息を吹きかける。マイク位置③)

③「ふぅー……」

③「あ、ビクッてした……」

③「……気持ちいいの?」

③「ふぅーっ…………ふぅーっ」

③「左耳は、これでいい感じ」

(聴き手から離れる。マイク位置⑪)

⑪「大人しくできて偉いね」

⑪「ふふっ、はい次は反対、右側の耳を向けて」

(聴き手、頭の位置を反対にして右耳を小夏に向ける。マイク位置⑮)

〈SE:衣擦れ〉

⑮「ん……っ、分かってたけど、君の目の前に私のおへそが来ちゃうよね……」

⑮「ちょっと恥ずい……」

⑮「こんなに近くでお腹を見られるなんて、たぶん初めて……」

⑮「おへその形には自身があるけど……ちょうどいいくらいの縦長で、ある程度深さもあって、友達にだって部活のときに綺麗だって言われるし……」

⑮「……んーっ、もぉ、見ないで……目つむって」

⑮「今は、耳かきの時間なんだから……」

〈SE:耳に触れられる:ここから〉

⑮「それじゃ、気を取り直して」

⑮「コホン」

⑮「お客様、今度は右耳を綺麗にさせていただきます」

⑮「さっきは子ども扱いで、次はお客さん扱い」

⑮「私のキャラ、ブレブレだね」

〈SE:耳に触れられる:ここまで〉

(聴き手の右耳を耳かきする)

〈SE:右耳、浅い耳かき:ここから〉

⑮「……んっ……………ん………っ…………ぅ………っ…………ん……ふ………ん…………ふぅ…………」

⑮「でも、私のキャラがブレブレでも……」

⑮「私たちが、サボり同盟を結ぶ仲間ってことは変わらない」

⑮「そこは、大事なところだよね」

⑮「……だから私たちは、こんなところで二人っきりで、花火が始まるのを待ってる」

⑮「仲間……今は、まだ……そういう関係でもいいのかな……」

⑮「……………っ………ふ………ぁ……ん………っ…………ふ………っ…………ん……ふ………ふ………ふぅ………ぁ……………ん………………ん………………」

〈SE:右耳、浅い耳かき:ここまで〉

⑮「そろそろ、深いところにいくね」

⑮「呼吸は自然に、リラックスして」

(聴き手の右側に近づく。マイク位置⑦)

⑦「君の気持ちいいとこ、触ってあげる……」

(聴き手から離れる。マイク位置⑮)

〈SE:右耳、深い耳かき:ここから〉

⑮「…………んっー………ふ……ぁ……………………ん…………んー………ふぅ………あ……………ぅん……ん………………ぅ……ん…………ふ……ぅ……」

⑮「…………んっー………ふ……ぁ………………………っ………ふ………ぁ……ん………っ…………ふ………っ…………ん……ふ………ふ………ふぅ………………あぁ……………ん………ぅ…………あ……………ぅん……ん………………ぅ……ん…………ふ……ぅ………………」

〈SE:右耳、深い耳かき:ここまで〉

⑮「……これでオッケー」

⑮「はい、仕上げ」

(聴き手の右側に近づき息を吹きかける。マイク位置⑦)

⑦「……ふっ、ふぅ~」

⑦「……んっ、ふふ、やっぱり可愛い」

⑦「ふー……ふ……っ、ふぅ~…………」

(聴き手の右側から離れる。マイク位置⑮)

⑮「これで完璧」

⑮「どお? 気持ちよかった?」

⑮「もしかして、ハマっちゃったりして……?」

⑮「ん、ふふっ……」

⑮「さっ、耳かきも終わったことだし――」

〈SE:遠くで打ち上る花火〉

⑮「ちょうどよく始まった」

⑮「タイミングぴったり」

⑮「ほら、いつまで私の膝枕で寝てるの?」

⑮「起きて」

(聴き手が上体を起こす。マイク位置⑮)

〈SE:衣擦れ音〉

〈SE:遠くで打ち上る花火:ここから〉

⑮「ん……? ちょっと待って」

⑮「こんなに花火の音がするのに、どこにも花火が見えないってことは……」

⑮「そもそもこの縁側からは花火見えない……?」

(落胆して聴き手の肩に頭を載せる。マイク位置⑦)

⑦「な~んだ……」

⑦「だからおばあちゃんたち、お祭りに行ったんだ」

⑦「二人で待ってた私たちがバカみたい……」

(不貞腐れて後ろに上体を倒しながら。マイク位置⑦から⑭)

〈SE:後ろに上体を倒す〉

⑦→⑭「あーあ……」

⑭「せっかく花火が見えると思って楽しみにしてたのに、音だけしか楽しめないなんて……」

(二秒ほど間を空ける)

⑭「……でも、もしかしたらこっちの方が私たちらしいのかも」

⑭「だって……お祭りをサボって、二人でここにいるわけだから」

⑭「そう考えたら、悪くないかも」

⑭「ほら君も、花火は見えないんだから座ってないで寝転んで」

(聴き手が上体を倒し小夏と並んで寝転ぶ。マイク位置⑦)

〈SE:衣擦れ音〉

(眠そうな声で)

⑦「疲れてるのかな……寝転んだらなんか眠くなってきた」

⑦「だいじょぶ、君が隣にいるのに寝ちゃったりしないよ……」

⑦「今夜は……寝かせない……」

⑦「ちょっと目をつむるだけだから、安心して……」

(聴き手の隣で寝息を立てて眠ってしまう)

⑦「…………すぅ……ふ…………すっ…………ふぅ…………んん…………すぅ……ふ…………すっ…………ふぅ…………ん…………すぅ……ふ………………すっ…………ふぅ………………すぅ…………ふぅ…………すっ…………ふぅ……ん………………すぅ……ふ…………すっ…………ふぅ…………」

⑦「……んっ……私、寝ちゃってた……? んんぅ……はぁ………ん? ……君も寝ちゃった…………?」

⑦「お願い、寝てるってことにして……」

⑦「これは独り言……」

(囁き声で)

⑦「……また一緒に来ようね」

⑦「次は同盟とか仲間とかそうゆーのは無しで」

⑦「……もっと、特別な関係になって」

〈SE:遠くで打ち上る花火:ここまで〉

〈SE:田舎の夏、夜の虫の声:ここまで〉 

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