【3】帰り道のベンチ、ジュースとゴロゴロ

◇シチュエーション:小夏との帰り道。閉店した駄菓子屋さん前のベンチで並んで休憩をする。

〈SE:ひぐらしの鳴き声:ここから〉

〈SE:二人の足音、道路:ここから〉

(聴き手の右隣を歩いている。マイク位置⑮)

⑮「それにしても、偶然だね」

⑮「下校時刻が一緒になるなんて」

⑮「私はいつもこれくらいだけど、君はもっと早く帰ってるんだと思ってた」

⑮「まあ、委員会の仕事じゃ仕方がないよね」

⑮「……ん? なんで知ってるかって?」

⑮「それは……まあ、たまたまだよ」

⑮「たまたま君と同じ委員会の人から聞いて、帰りの時間同じくらいかぁ、って考えてたら、ホントにたまたま下駄箱で会っただけ」

⑮「待ったりとかは、全然してないよ……」

⑮「……もぉ変な所にばかり気が付くんだから」

(二秒ほど間を空ける)

⑮「あ、自動販売機」

⑮「あそこの駄菓子屋さんの前の自動販売機で、何か買お」

⑮「隣にベンチあるし、ちょっと休んでかない?」

〈SE:二人の足音、道路:ここまで〉

⑮「この駄菓子屋さん、もう閉店しちゃってるけど、自動販売機だけは撤去しないでいてくれるからホント助かる」

⑮「君はなに飲む?」

⑮「私は……」

〈SE:財布を空ける〉

(二秒ほど間を空ける)

⑮「私のお財布、全然お金入ってない……」

⑮「お願い、聞いてくれる……?」

⑮「お金、貸して」

(三秒ほど間を空ける)

⑮「……え、いいの? ありがと」

⑮「私、そのオレンジジュースの炭酸」

〈SE:自動販売機に硬貨を入れる〉

〈SE:自動販売機のボタンを押す〉

〈SE:飲み物がガコンと落ちてくる〉

⑮「君はなに飲む?」

〈SE:自動販売機のボタンを押す〉

〈SE:飲み物がガコンと落ちてくる〉

⑮「それ、美味しいよね」

⑮「じゃ、飲み物もあるし、ちょっと休んでこ」

(ベンチに二人で腰掛け、聴き手の左側に座る。マイク位置⑪)

〈SE:プラスチックのベンチに座る〉

〈SE:缶のプルタブを空ける+プシュと炭酸が抜ける〉

⑪「んっ……ごく、ごく、ごく……っ」

⑪「はぁ、美味し」

⑪「疲れた体に沁みるよ」

⑪「安心して」

⑪「私は受けた恩は必ず返す女だから」

⑪「ごくっ、ごくっ……ふぅ……」

⑪「あのさ、さっきからずっと思ってたんだけど」

⑪「なんか、いつもと違う感じ、しない?」

⑪「こうしてお互い制服姿で並んで帰ってるって、付き合ってるみたいだなって」

⑪「それを意識し出したら、なんか、こう、そわそわ? みたいな……」

⑪「……君の方は、そこんとこ……どうなの?」

(二秒ほど間を空ける)

⑪「もぉ、やっぱり君って反応薄い」

⑪「でも、不思議だと思わない?」

⑪「私たちって同じクラスなのに普段は全然話さないし」

⑪「まあ、この原因は主に君にあると思うけど」

⑪「私が話しかけてもなんだか素っ気ないんだもん」

⑪「もちろん、私たちはサボり同盟を結ぶ盟友」

⑪「みんなにバレたらいけない秘密を抱えてる」

⑪「君は律義だから、秘密を守ろうとしてくれてるんでしょ?」

⑪「……違うの?」

⑪「ってことは……んーもしかして、私というか異性と話すところを誰かに見られるのが恥ずかしかったり?」

(二秒ほど間を開ける)

(聴き手に左側へ近づきながら。マイク位置⑪から③へ)

〈SE:衣擦れ〉

⑪→③「へー……そうなんだ」

③「君はお年頃で、そんな君に意識させるほど、私は罪作りな女ってことだね」

(吐息)

③「…………ん…………………………………ん………………ぅ…………んん……………………ん…………………」

(聴き手から離れながら。マイク位置③から⑪へ)

〈SE:衣擦れ〉

③→⑪「まあ、いいけどね」

⑪「なにはともあれ、今こうして話してるわけだし」

⑪「それで、今日はどうだった?」

⑪「うまくサボれた?」

⑪「私は、今日は全然サボれなかった」

⑪「部活だって今日は走りっぱなし、てか大会近いし」

⑪「だから、今日は帰り道で君に会えてよかった」

⑪「そのおかげで、今こうしてサボれてるわけだから」

⑪「まあ、厳密には、部活が終わってるからただ一休みかもだけど」

⑪「でも、それは考えようでしょ」

⑪「そもそも私たちは善良な学生」

⑪「そして、私たちの学校は登下校中の買い食いが禁止されてる」

⑪「まあ、誰も守ってる人はいないけど」

⑪「とはいえ、帰り道で飲み物を買ったってことは、私たちも学校の規則を破ったってことで」

⑪「今の状況は、私たちが学生であることをサボっている、そうとも言える」

⑪「ちょっと屁理屈っぽいかもしれないけど」

⑪「まあ、サボるってゆーのはそれだけ可能性を秘めた言葉ってことで」

⑪「ごく……ごくっ……」

⑪「そういえば、私一つ試してみたいことがあるんだった」

⑪「ん……? 別に君に危害を加えたりはしないよ」

⑪「むしろ、リラックスできること」

(聴き手左側に近づきながら囁く。マイク位置⑪から③へ)

〈SE:衣擦れ〉

⑪→③「試してみる気、ない?」

(聴き手から離れる。マイク位置⑪)

〈SE:衣擦れ〉

⑪「……ん、君は断らないと分かってて訊いたんだ」

⑪「ところで、ネコは好き?」

⑪「ネコの鳴き声とか仕草とかには人の気持ちを落ちつける効果があるんだって」

⑪「アニマルセラピーでもよく使われるくらい」

⑪「特にご機嫌のネコがゴロゴロって喉を鳴らす低音にはすごいリラックス効果がある」

⑪「そこでなんだけど、君には少し実験台になってもらいたいんだ」

⑪「もちろん、ここにネコはいない」

⑪「だけど、私も喉を鳴らすことはできる」

⑪「どお?」

(聴き手左側に近づきながら囁く。マイク位置⑪から③へ)

〈SE:衣擦れ〉

⑪→③「付き合ってほしいにゃぁ~」

(聴き手から離れる。マイク位置⑪)

〈SE:衣擦れ〉

⑪「……ん、その反応は、いいって意味だよね」

⑪「じゃあ、さっそくやろっ」

⑪「まずは、一口飲んで……」

(聴き手左側に近づいて囁く。マイク位置③)

〈SE:衣擦れ〉

③「ごくっ……ごくっ……」

(聴き手の左側から右側へ回り込みながら。マイク位置③から⑦へ)

〈SE:衣擦れ〉

③→⑦「次はこっち~」

⑦「……ごくっ……ごくっ……ごくっ、はぁ……」

⑦「リラックスできてる?」

⑦「次はもっとネコみたいに連続でやってみよっか」

⑦「そっちの方が効果あるかもしれないし」

⑦「ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ……んふぅ……」

(聴き手の右側から後ろを経由し左側に回り込みながら。マイク位置⑦から③へ)

〈SE:衣擦れ〉

⑦→③「そうそう、身体の力を抜いて、リラックスだにゃん」

③「にぁ~ん」

③「ご主人様ぁ」

③「大好きだにぁ~ん」

③「なんちゃって」

③「ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ……んはぁ……」

(聴き手の左側から後ろを経由し右側に回り込みながら。マイク位置③から⑦へ)

〈SE:衣擦れ〉

⑦「楽しくなってきちゃった」

⑦「もしかして私、ネコに向いてる?」

⑦「どうせネコになるなら、優し飼い主さんに飼われたいなぁ」

⑦「ごくっ、ごくっ、ごくっ……んふっ……」

⑦「君みたいな飼い主がいいかも」

⑦「君が私の飼い主だったら優しくしてくれるでしょ」

(聴き手の右側から前を経由し左側に回り込みながら。マイク位置⑦から③へ)

〈SE:衣擦れ〉

③「一緒に日向ぼっこして、首とかお腹と撫でてもらって、それから……」

③「夜はもちろん、一緒に眠る」

③「……ごくっ、ごくっ……」

③「夏は暑いかもだけど、冬は温かいよ」

③「抱き合って寝れば、起きるのが嫌になっちゃう」

③「寝坊しちゃうのは困るけど」

③「部活の朝練行けなくなっちゃうし」

③「でもネコだから、どっちにしろ部活はできないか」

③「ごくごくっ、ごくっ……ごくっ……ごくっ、……ん、ふぅ……」

③「全部、飲んじゃった」

(聴き手から離れ、再びベンチに腰掛ける。マイク位置⑪)

〈SE:衣擦れ〉

⑪「リラックス具合はどう?」

⑪「アニマルセラピー、とまではいかなくても、ちゃんと癒された?」

⑪「私の方は、そんなにリラックスって感じじゃなかった」

⑪「考えてみれば、ネコはリラックスしてるから喉を鳴らすんであって、わざと喉を鳴らしたところで自分がリラックスできるわけないよね」

⑪「これは失敗」

⑪「二人でサボるつもりが、君だけをサボらせちゃった」

⑪「大きな誤算」

⑪「それに、動いたから暑くなってきた」

⑪「ちょっと脱いじゃうね」

〈SE:衣擦れ〉

⑪「なにその顔」

⑪「脱ぐって言ったって、すっぽんぽんにはならないよ」

⑪「人通りはないけど、一応ここ外だし」

⑪「君って、やっぱりちょっとスケベさんだ」

⑪「脱ぐのは着てる制服じゃないよ」

⑪「制服の下に着てる部活のユニフォーム」

⑪「この前見てるでしょ」

⑪「セパレートの、黒い布地のあれ」

⑪「いつもは部活終わりに部室で脱いで制服に着替えるんだけど、今日は部活がちょっと長引いたせいでその時間がなかったから」

⑪「下校時間だからって、追い出されるように部室を出てきたの」

⑪「だから下に着てるユニフォームだけ、ここで脱いじゃう」

⑪「大丈夫、私、制服着たままユニフォーム脱ぐのが特技だから」

(聴き手左側に近づきながら。マイク位置⑪から③へ)

〈SE:衣擦れ〉

⑪→③「安心して」

③「脱がしてほしいにゃ~ん、なんて言わないから」

(聴き手から離れる。マイク位置⑪)

〈SE:衣擦れ:ここから〉

⑪「まずは上を……」

⑪「んっ、しょ……ここから腕を抜いて、あっ……ヤバい……んぁっ、よっ……あっ、だいじょぶそ……両腕抜けたから、あとはリボンを解いて、ブレザーの胸元を開けてから頭を抜けば……」

⑪「……ねぇ、なんで黙ってるの?」

⑪「私がなんか変なことでもした?」

⑪「私は……んっ、……ただ制服の下に着てるものを脱いでるだけなのに……んぁっ……君がそういうやらしぃー目で見るから、んしょ……こっちまでそういう気分に、んんっ……よしっ、脱げた……そういう気分になってきちゃう」

〈SE:衣擦れ:ここまで〉

(聴き手左側に近づく。マイク位置③)

③「自重しなさい」

(聴き手から離れる。マイク位置⑪)

(小声:ここから)

⑪「……私の前以外ではね」

(小声:ここまで)

⑪「……ん? なんでもないよ」

⑪「はい、次は下」

⑪「下の方が簡単、普通にズボンと同じように脱ぐだけだし」

⑪「ただスカートがめくれるから、顔逸らしてて」

(聴き手顔を逸らすので声は後ろ側から。マイク位置⑫)

〈SE:衣擦れ:ここから〉

⑫「腰を浮かせて、んっ……あとは脚を通して降ろしていって、ローファーには触れないように足を抜けば……んっ、よっしょっ……」

〈SE:服の衣擦れ音:ここまで〉

⑫「ほら脱げた」

⑫「完璧な脱衣」

⑫「ごめん、こっち向いていいよ」

(聴き手、顔を戻す。小夏は再び聴き手左側に。マイク位置⑪)

⑪「ふぅ、これでちょっと涼しくなった」

⑪「ジュースも飲んだことだし、こじつけでサボった割にはいいサボりだったね」

⑪「これも、君と一緒にいるからこそ」

⑪「さ、そろそろ行こうよ」

〈SE:プラスチックのベンチを立つ〉

⑪「まだ帰り道は続くから、別れるところまではよろしくね」

〈SE:ひぐらしの鳴き声:ここまで〉 

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