第53話 そして、再び異世界へ
里帰りをしてから色々な所を周って3日目が経ち、最終日の夜は家族と過ごす事にした。
翌朝にはまた異世界に帰れると思うとワクワクすると同時に少し寂しさが残る。まぁ、これが拍車をかけている気がするけど。
「「「「「………」」」」」
団欒の象徴たる鍋ですね。
テーブルでぐつぐつと煮える鍋は、どうして無言で見てしまうか?
「……よし、完成よ。食べてよし!」
「「「「「いただきますっ!」」」」」
母の合図で和やかな雰囲気は一変し、戦場を思わせる空気へと早変わり。
「豚肉っ!!」
「鶏肉っ!!」
「魚肉っ!!」
「「蟹ぃいいっ!!」」
目的のメインを誰よりも早く、そして多く掻っ攫う為に箸が鍋に殺到する。
しかし、肉種を増やしておいたので、ある程度分散する事に成功した様だ。危うく、ノアの前だというのに醜い争いが発生するところだったね。
「はい、ノアの分」
「ありがとうございます」
ノアの分をよそって手渡した。こっちは2人で仲良く静かな食事をするとしよう。
「ええっ!? 普通に目についたから取ったけど蟹だけどぉぉっ!? ってか、美味っっ!? これどうしたの!?」
「……雅の提供よ」
言い淀む母。その器には魚肉と野菜がメインでその他の肉は一切入っていない。
「へぇ〜っ、お兄が奮発したんだ! 凄く肉厚で太いし、節が無い一本モノ!これ高かったんじゃないの?」
おっ、いい目の付け所だ。異世界に行けない家族の為に、色々仕込んだ甲斐があったものよ。
「大丈夫。魚以外の肉は全部俺の手で捕ってきたものだから」
「ん? でも、豚や鶏ならまだしも蟹は……」
「…………」
俺は一人黙々と魚肉を食べている母親を見た。
普通に食べれるし、美味しいのに……と思いながら豚肉を食べる。うん、脂が乗って美味いな。ノアも慣れ親しんでいるので抵抗はない様だ。
「「「「………(まさか?)」」」」
俺の視線に何かを察したのか、皆の箸が止まった。父や兄妹は冷や汗をかき始める。
「ねぇ、息子君。単刀直入に聞くよ。この用意した食材は何かな?」
俺は待ってましたとばかりに光魔法を使い、映像付きで説明を始めた。
「この豚肉は異世界定番のオーク肉、鶏は偶然森で見付けたヒクイドリ、蟹は……アーマースパイダーです」
「スパイダー?」
「蜘蛛?」
「イエス」
蟹の様な甲羅に覆われた巨大な蜘蛛を表示した。
「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」」
「「ーーーっ!?」」
妹たちから悲鳴が上がり、父たちは絶句していた。
「なんて物を食べさせるのよ!!」
「お兄の人でなしぃぃ!!」
「でも、美味いでしょ?」
「「凄く美味しいです!!」」
文句を言いながらもアーマースパイダーの脚へと再度手を伸ばし貪り始める。途中からは異世界ライフを経験してると盛り上がって堪能し始めた所は、流石は俺の妹たちだ。おいしいものに罪がないことを分かっている。
「アーマースパイダーって食べれたんですね……。しかも美味しい」
「茹でると硬度が変化するみたいなんだ」
「知りませんでした……。新発見では? 帰ったら、冒険者ギルドに報告した方が良いですよ? 報酬が出るかもしれません」
ノアから帰ったら冒険者ギルドに報告する事を薦められた。食料確保の手段は金になる事をすっかりと忘れていた。帰ったら皆も交えて試食会でも開くとしよう。
その後、天野岩戸の如く、頑なに箸を伸ばさなかった母も妹たちの反応で食べてみるとその味に感動し震えていた。母にはどれだけストックが有るかを見せているで追加を要求されたのは言うまでもない。
翌朝。
「取り敢えず、部屋を使っても良いけど机に設置した魔法陣だけは壊さないこと!」
「「了解です〜」」
連絡手段の1つとして手紙を神界を経由して送る魔法陣を設置したので、俺のお部屋を占領し趣味部屋にしている妹たちにはしっかりと言い聞かせた。
「ノアちゃん、もっと居てもいいのよ?」
「ごめんなさい。お義母様。ニュンフェ様を差し置いて長居するのはちょっと……次は2人で来ますのでその時に」
「そう、残念ね。分かったわ。次は3人で楽しみましょう。これはお土産よ。皆で見てね」
紙袋を手渡す母親。中身を確認するとノアは大事そうに抱え込んだ。
「ありがとうございます。ニュンフェ様と楽しみます」
ニューだけでなく、ノアも母親と相性が良い様で直ぐに仲良くなった。滅多に会うことはできないが、嫁姑問題がないのは俺としては助かる所だね。
「ミヤビ。身体に気を付けるんだよ? あと、奥さんを増やすのは程々にしなさい。郷に入っては郷に従えというが、環境が違えばそもそもの考え方から違うので知らない内に乖離が生まれる事もある。何っ、こまめに話し合ってさえいれば、そうそう問題は起こらない。大丈夫だろう、たぶん」
自信のなさそうな父親の応援を受けて、別れの挨拶を済ませた。
ノアを送還すると俺は自宅の2階へと上がる。自室に転移門を出して地球の神界に移動し、閻魔にお礼を伝えてからミューの待つ異世界【ウラノミューズ】の神界へと移動した。
「さてとミューに会いにーー」
「待っていたぞ、義弟よ!さぁ、闘おう!!」
「新しい魔法を作った。実験に付き合って」
帰って早々、またアレスとイシスに捕まった。
「いや、俺は今帰ったばかりですけど!? ミューに帰還の挨拶も必要でしょ?」
「そこら辺は送還で帰ってきたノアがしてるから大丈夫な筈だ!」
「時間も私がいつも通り歪めているから安心していい」
ぜんぜん安心出来ねぇ〜っ!?
それってあれですよね? 修行時に使われたリアル版精神と時の部屋!!
また、あの地獄を経験しろと言うのか、コイツらは!?
「ねぇ、嘘だよね!? 嘘だと言って!!」
2人は問答無用で俺を引きづって行く。
「嘘じゃない」
「今回は2人がかりで相手しよう」
あっ、俺とイシスで相手するですね。良かった一人じゃなくて……。一人だとボコられ過ぎて、また心が折れる所だった。ほっと胸を撫で降ろす。
しかし、アレスは許してくれない。過去最大級の爆弾を放り込んできた。
「何か勘違いしてるようだが、俺とイシスがミヤビを相手するんだ」
「鬼っ! 悪魔っ!! 俺を殺す気かっ!!」
「鬼ではなく、神だ」
「しってるわ!そういう事じゃねぇよ!!」
とはいえ、神様二人を相手に逃げられる訳もなく、俺は強制連行されて二対一の地獄ブートキャンプが再開した。
…………しくしく、お陰で基礎レベルは上がらないものの、魔法は各種MAXになり、新たなスキルも多数獲得したよ。更には世界初のオリジナル魔法まで生まれましたわ。
「紋章魔法……?」
紋章魔法は、紋章を出す事で指定された魔法が決められた魔力で発動するものだ。
神様が相手だと、どんなに早く動いても魔法を発動する時間を稼げないので発動、即効果を求めて魔法陣を改良していたら生まれた。
「なるほど……ここがこうなって……ふふっ、面白い」
魔法狂いのイシスは紋章魔法に釘付けとなった。検証とブラッシュアップを彼女に任せた事でなんとかお帰りなった。残るは戦闘狂の神様を残すのみだ。
「俺の神器がぁぁぁぁっ!?」
「てへぺろ」
アレスとの模擬戦の果て、プルトタイプ故か、酷使が故かは分からないが神器が壊れてしまった。
「まあ、そう気を落とすなって! 恐らく素材が悪かったんだって。初めて俺に傷を付けた報酬に俺の神気で宿った"ゴルドタイト"をやるよ」
「ゴルドタイト?」
「神気で変質したアダマンタイトの事だ。ドワーフ共が安直に付けたな。アレなら破壊属性のスキルや武器でもそうそう壊れやしねぇよ」
他人の神気で変質した奴を使って自分の神器を作って良いのか?と思いながらもブリギッテさんの所に持っていった。
「問題無いぞ。重要なのは誰が神器の形にしたかだな。むしろ、宿った神気の種類が多い物を使った方が、多様な性質を引き継いだ良い物になる。それこそが一から創る時の特権だな。しかし……これ程までに複数の神気が宿った素材は珍しいのう」
アレスは本気で申し訳ないと思ったのか、俺に加護をくれてる神様たちを回り、更に強化されたゴルドタイトを持ってきた。
流石に俺一人の手では扱えない素材の為、ブリギッテさんと相槌をして貰いながら再度神器作り直した。
「……もう、コレでも良くない?」
「いやいや、ここで諦めてどうする? 素材を融合させて特性を継承し、更に神々の神気を注いで貰う事で出力が上がる果ての無い神器なんだぞ! こんな神器は他に見た事も聞いた事もない!!」
完成した物はその他の神器よりも一線を画したヤバいものに進化を遂げた様だ。
「完成したみたいだな!試すぞ!!」
どこで聞きつけたのか完成直後にやって来たアレス。再び始まる地獄のブートキャンプの予感。でも、この神器なら今度こそ勝てるかもしれない。
「紋章魔法の検証とブラッシュアップが終わった。あとは実践検証のみ」
「神器の性能を間近で見たいからアタシも混ざらせて貰うよ」
帰ってきたイシスとブリギッテさんの参戦により地獄は悪化した。
三対一とか無いです。これはいじめと言っても差し支えないのでは??
「神様たちの馬鹿ぁああっ!!」
「あははっ、見ろよ!俺の腕が飛んだぞ!!」
「紋章魔法でくっつける。うん、やっぱり回復にも使えるんだ。超優秀!」
「まだ発展途中とはいえ、三対ーで拮抗するとは素晴らしい!! もっとじゃあ、もっと見せよ!!」
結局、ミューたちと再開出来たのは体感時間で一年後。それだというのに現実では6時間ほどしか経っていないんだってさ。
「「お帰りなさい!」」
「うぁ〜〜ん、ただいまぁぁ!!」
「「あらあら……」」
出迎えと同時に抱擁されて、子供の様に泣いたのは仕方が無いと思います。
その後、逃げる様に神界をあとにした。
男の聖女はダメですか? 茉小夜 @omeyon
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