第39話 奴隷2

奴隷契約は無事に終わり、彼女らを連れて伯爵邸へと戻った。


「皆様はこちらの建物を使って下さい」


執事さんに案内されたのは屋敷の裏手にある使用人宿舎。想定より奴隷の人数が多い事で急遽この建物に変更された。


外部から来る人間たち用に用意している建物らしい。


「内部の部屋割りとしては、一人部屋というのは片手で数えれる程しか無く、原則2〜3人部屋になっております。また、騎士たちの為に10人は入れる大部屋なども御座います」


さて、どんな風に割り振るべきか?


分かりやすいのは種族訳だな。同じグループで固まっていた方が安心するだろう。


人族は3人、エルフは3人、鬼人族が1人、宝石族が2人だから……。


「部屋割りは種族にするよ。人とエルフは三人部屋を、鬼人族と宝石族はそれぞれ二人部屋を使ってくれ」


「私は一人だってのに。良いのかい?」


「これから次第かな? 追加でが一人増えるかもしれない。一緒の部屋は嫌かな?」


「特に気にしないさ。主様に任せるよ」


「分かった。とりあえず、今日の所は解散でしっかり休んでね。説明は明日行う予定だから。それと必要なものは執事さんに伝えて下さい」


執事さんにはある程度のお金を渡すと伯爵邸の遊戯室で寛いでいる筈の"火竜の牙"の面々に会いに行った。


「おう、ミヤビ。良い女はいたか?」


部屋には昼間から酒をあおるダルクだけがいた。


「ノアのゴーサインが出た人はいたよ」


「えっ、マジで? 冗談のつもりだったのに……」


「それよりミリーは何処? 一緒に呑んでるんじゃなかった? 彼女に聞きたい事が有るんだけど場所知らない?」


「ミリー? ミリーならそこの裏で酔い潰れてる」


「えっ、何処よ? ソファー?」


ダルクが指差したソファーの後ろに行くと酔っ払ったミリーが背もたれと床の隙間に埋もれていた。

猫は狭い所が好きだが、猫獣人も一緒なのか?

そういえば、猫じゃらしに反応していた事を思い出した。


「とりあえず、起こすか。〈キュア〉。起きろ、ミリー!」


「にゃ〜……ハッ!ミヤビ!? まさか、夜這い!? 私の魅惑ボディに籠絡されたにゃ!? ダメにゃ!ミヤビにはノアがいるにゃ!」


『「ブフッ!!」』


「………」


あれかなぁ? 寝ていた所を起こしたから夜這いに来たと勘違いしてるのかなぁ?


とりあえず、酩酊は治したけど脱水が心配なので水を飲ませよう。


「〈アクアボール〉」


「ゴボゴボッ!?」


彼女の口元を小さな水球が覆う。全てを飲むまでそれは消えません。


「ゴクゴク……よし、飲み干した! シャーーッ!ミヤビは鬼だにゃ、鬼畜だにゃ!!」


「目が覚めた? そして、俺の話を聞く気になった? 奴隷絡みで結構重要な話なんだけど」


「ん? 奴隷商でお前さんが捕まった以外に何かあったか?」


「えっ、なにその面白イベント。私、知らないにゃ」


「そういえば、そん時も酔いつぶれて寝落ちしてたなお前」


「はいはい、その話は後々。俺は話さないから、周りから聞いてくれ」


「分かったにゃ」


「俺が酒のネタに話してやるよ」


「さて、話は戻って奴隷商での話。そこでとある獣人に会いました」


「「ふむふむ」」


「分類は狐。銀色の毛並みが美しい娘でスキルとかも優秀だったよ」


「狐獣人か。会った事ないが、獣人の中で最も魔法が得意だと聞くな」


「そもそも数が少ないにゃ。獣人は魔法が苦手だから重宝されて表に出ずらいというのも有るにゃ。それでその娘の事で気になる事でも有ったにゃ」


「彼女の部族名は……アルボル」


「っ!?」


それは獣人の言葉で『木』を意味し、ミリーの称号で知った彼女の部族名だった。

ミリーの反応で何かを察したダルクが彼女の肩を押さえる。それを見た俺は話を続けた。


「名前はエリス。部族長の娘だ」


「助けに行かにゃいと!」


そう言って立ち上がり直ぐにでも走り出しそうなミリーを今度は羽交い締めにした。


「まぁ、待て。まだ続きが有るんだろ?」


「奴隷落ちした理由はクエスト失敗による賠償金らしいが……裏が有りそうだ。ここだけの話にして欲しいけど、俺は他人の称号が見る事ができる。例えば殺人、詐欺師。有名所だとドラゴンキラーだね」


「……それであの子に何が見えたにゃ?」


「冤罪」


「離してダルク!直ぐにでもエリスを助けに行くにゃ!!」


「馬鹿言え!当然行って対応して貰えるものか!!それに金はどうするだ? 最近装備を更新したばかりであまりないだろ?」


「ギルドで借りるか、伯爵様にお願いするにゃ!」


「おいおい、下手したらお前まで奴隷落ちする流れじゃねぇか……!」


「はい、そこで俺から提案です! 支配人に頼み込んでキープしてもらってるから、今すぐ引き取りに行こうと思うんだ。でも、どう考えても厄介事の匂いしかしないんだよね。できれば、少しの間で良いからその子の護衛してくれる人が欲しいーー」


「任せるにゃ、私たちがするにゃ!」


「俺がリーダーなんだけどなぁ……。まあ、あいつらも理解してくれるか。というか、こうなる事が分かってて振りやがったな」


「何のことやら?」


という事で、本日三度目の奴隷商です。

何やら少し騒ぎになってるご様子。支配人の男性と貴族風の男性が言い合いをしていた。


「あの娘が売れたとはどういう事だ!?」


「これでも商売ですので、即決で支払われたならば売るのは当然で御座います」


「だから、手形で支払ったではないか!私はゴルゴダ伯爵家の次期当主だぞ!我が伯爵家は信用に値しないというのか?!」


「残念ながら以前滞納した際、なかなか支払われなかった事が御座います。その為、貴方様の家は現金払いしか対応して御座いません」


「だから、手付金をーー」


「その定めを超えております。また、お客様は他の奴隷と合わせて一括で購入されました。貴方様にそれがお出来で?」


「〜〜〜っ!!」


支配人に言い負かされて、貴族風の男は唇を噛み締めた。


「クソがっ!では、買った者を教えろ!私が直々に交渉する!!」


「生憎、お客様のことをお教えする事は出来ません。それに彼にはちょっとした恩義が有りますからね」


支配人はこちらに気付いたのか、目配せを送ってきた。


「……2人共、裏に回るよ。貴族は支配人が引き付けてくれるみたいだ」


「キープじゃねぇのかよ」


「少額の手付で買うか分からないよりは信用出来るでしょ?」


最悪、普通に雇っても良いかなと思った。魔法が得意なら新しい方法によるキルリーフ狩りを任せられるしね。


"コンコンコンッ"


裏口をノックすると奴隷の首輪をした男性が顔を出した。

支配人のコロンに貰った証文を見せると頷きながら中へ入る様に促された。


"ガチャガチャガチャッ"


中に入ると裏口は外からも内からも通れない様に厳重に鍵を掛けられた。


「ふ〜っ、これで良し。話は聞いている。アンタらはエリスを迎えに来んだろ?」


「うん、そうだよ」


「エリスは!エリスは何処にーーにぎゃ!?」


「静かにしろ、だぁあほ。貴族の兄ちゃんがまだ外に居るんだぞ。それに従者が裏に回ってたら聞かれるかもしれないじゃないか」


ダルクのチョップが焦るミリーの頭を叩いて静かにさせた。


「騒いですみません。ミリーはエリスと同じ部族なもので」


「なるほど。だから、焦っているのか。分かった。直ぐに案内しよう」


奴隷の男性と奴隷商のプライベートルームへ立ち入る。


「彼女はここにいる。エリス、入るぞ」


彼は返事が返ってくる前に部屋へと入った。


「ちょっと、ケビン。返事も無く入るってどうなの?」


「ここは奴隷商だ。外の常識は捨てな。お前さんの主が迎えに来たぞ」


「あら、本当にーーえっ? ミリー!?」


「エリス!本当にエリスにゃ!!」


「えっ? ええっ?」


「困惑してる所悪いがさっさと奴隷契約して逃げろ。お前さんを求めてあの小僧が表にきてる」


「げっ! 全く執拗いったらないわね……」


「ミヤビ様。契約は俺が執り行う。内容は他の子たちと一緒で良いだよな?」


「私が言うのも何だけど本当に良いの? あんなに緩くて」


「うん。仕事のサポートをして欲しいからね。君たちの意思は尊重するつもりだよ」


「エリス……コロンさんみたいに良い人そうで良かったな。他の子たちと一緒に頑張れ」


男性はエリスの頭をゴシゴシと撫でた。


「証についてだが、エリスの身を守る為にも見える物が良い。だから、周囲が一目で奴隷だと分かる様に首輪を用意した。支配人からコレを使えって預かっている。アレだけ大量購入してくれたからオマケだとよ」


見せられたのは金属系の黒いチョーカーだった。それを俺がエリスに付ける事で契約は完了となる。

彼女は首元を開いて見せて、俺はその白くて細い首に黒いチョーカーを取り付けた。


「んんっ……」


エリスが契約の反動で艶やかな声を上げた。


「これで奴隷契約はミヤビ様に移った。奴はそう簡単に手を出せなくなる。それじゃあ、裏口を開けるぞ。気を付けて逃げろよ?」


「いや、難しいかもしれない。既に周囲を取り囲まれているよ」


「なんだって!?」


魔力感知で奴隷商の周囲を伺うと周囲に隠れ潜む者たちがいた。詳しく見るとゴルゴダ伯爵家護衛と書かれていた。


「不味いじゃないか! アイツはいつ乱入してもおかしくないぞ。どうやって逃がす?! うちは商いの都合上、出口は二つしかねぇよ!」


「大丈夫だよ。もしも手段は用意してきたから。ミュウ、おいで」


『お仕事タイーームッ!』


「「妖精!?」」


ミュウの登場に二人は目を白黒させていた。

静かな内に彼女を連れ去ろう。


『あとは打ち合わせ通りで良いんだよね?』


「ああ、俺がエリスを連れて行くからミュウはミリーを頼むよ。という事で悪い、ダルク。1人で帰って。お願い……」


喰らえ、必殺うるうる下目使い!


「その下から目線止めて!? 勘違いしそうになるから!? ……はぁ、分かった。お前たち気を付けて帰れよ」


「じゃあ、あとはお願いね」


『「〈転移〉」』


2人を連れて俺たちは無事に伯爵邸へと帰還した。


「「…………」」


ミリーとエリスが現実を受け止められなくて再起不能になったので、執事に頼んで二人部屋に投げ込み養生させた。


その後、帰ってきたダルクに〈転移〉について問い詰められたが、習得不可だと伝えたら残念そうにしていたよ。

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