第40話 シャンプー

アイデアはある。交渉力のある人材を手に入れた。それならばやるしかない!


「シャンプーを作るぞ!」


『「「おぉーーっ?」」』


ノリに付き合ってくれるのは嬉しいけど、君たちよく分かってないよね?


んっ、なになに? 美容品を作るんじゃなかったのかって?


生憎、想像通りの物を作るにはニコラスさんの協力を得ても素材が手に入りませんでした。

なので、素材が手に入るまでは保留です。


しかし、シャンプーは違います。スライム水の特性を知れば知るほどに作れる事が判明したのだ!


「シャンプーって何ですか?」


「何ニャル?」


『頭を洗う洗髪剤だよ』


「油を使わずとも艶やかな髪を手に入れる事が出来る様になる」


「分かりました。すぐやりましょう。ニコルスも引きずってきます」


ニコラスさんの強制参加が決定した。

すぐに部屋を飛び出して行くノア。教会にあるニコラスさん所有の錬金工房を借りているのでアッサリ捕まるだろう。


「一体何だ!? 私は育毛剤の問い合わせが多くて忙しいのだぞ!!」


「ミヤビさんがシャンプーを作るので手伝いなさい」


「何っ、シャンプーだと!? おお、我が髪よ! さすがは髪の救済者! 我らの髪を思っての事ですね!!」


「あ〜っ、うん、そうだよ〜……」


ニコラスさんの圧に偶然だとは言えない。

実際は確実に売れそうな物を作ろうと思っただけです。美容にうるさい女性陣なら髪の手入れにも力を入れているので買ってくれると思ったのです。


「しかし、我が髪でもシャンプーは難しいのでは? 歴代勇者が挑戦したと伝わっていますが納得の行く物が出来なかったとか?」


「ということは、名前は伝わってても現存はしていないってことだよね」


「はい、そうなります」


これはお金の匂いがするね!


「では、シャンプーに必要な物を説明します」


オープンキャンパスで簡易シャンプーと香水を作らせたことの有る俺に任せなさい。


「まずは前提としてーー」


主成分となる液体は水。


次に必要なのが洗浄効果のある成分。所謂、界面活性剤と呼ばれる物だ。

役割ととしては、脱脂や泡立ち、頭皮の刺激等など使う物によって効果は違うので名言は避けさせてもらう。


最後におまけのコンディショニング剤やその他の添加物だ。分かりやすいもので香りの元になる奴とかだね。


「という事で、こちらに材料を用意しました」


・聖水

・スライム水

・キルリーフの種油


『水の用意で聖水を当たり前の様に持ってくるのを見てると私のマスターだなと思うよ』


「スライム水は界面活性剤の代わりか? 確かに錬金洗剤に使われている事が多いな」


「キルリーフの種油は他の油と違い匂いが強過ぎず、自然でほんのり甘い香りが良いですよね」


「ですが、これ程少ない物で本当にできるのですか?」


「まぁ、実際はやってみないとって所は有るけど、そもそも失敗した理由は水とコンディショニング剤の量だと思う」


成分の割合は、水が50〜70%、界面活性剤が20〜30%、その他微量といったものになる。


「イメージだけが先行して、水を全然加えないとか、香りの為にコンディショニング剤を大量に入れたとかしたんだと思う」


材料を順番も考えずに錬金鍋へと投入。

割合は聖水65%、スライム水30%、キルリーフの種油5%で挑戦だ。


「〈合成〉!」


さすがは魔法。ちょっとずつとか、順番すらも無視をする。混ざり難い物も良い感じに混ざりあっていた。

魔法処理が終了すると錬金釜の中にほんのり黄緑色をした粘度のある液体ができていた。


そういえば、名前を決めていなかった。艶のある髪に光が当たって出来る輪っかを"天使の輪"というから"天使のシャンプー"と命名しよう!


名称:シャンプー → 天使のシャンプー

レア度:5

説明:古い頭皮を取り込み消臭、髪と頭皮に生命力と潤いを与える。


「おお、素晴らしい!」


「良い匂いがここまで伝わってきます!!」


『出来たの?』


「〈鑑定〉してみ。出来た。出来たんだけど……」


『高価な物を混ぜた割には品質が中級品だね』


「分量か、素材のレア度が悪かったのかな?」


聖水:レア度3

スライム水:レア度2


「手っ取り早いのは割合調整だけど、レア度もどうにかして上げたいところだな」


「ん? スライム水のレア度が低くないですか? どんなスライム水を使いましたか?」


ニコラスさんに言われて〈アイテムボックス〉からスライム水を取り出した。


「これは私があげたやつですね。核から作った物は〈鑑定〉しましたか? どうも粘度も含めて違う様ですよ」


ニコラスさんが核から作ったスライム水を持ってきた。


名称:スライム水

レア度:4

説明:核を水に漬けて生まれた万用粘液。


「あっ、レア度が上がってる! 正規より特殊な方法で採取した方が性能上がるんだね」


なら、俺も聖水を作ってみよう。神聖魔力に水魔力を加えて生み出すだけだ。


名称:強聖水

レア度:7

説明:込められた魔力量がとても多く、通常の聖水よりも浄化能力が高い


「強聖水……」


割ったらダメ? そうですか、ダメですか。

水を加えて薄めて見るも強聖水に変わり無かった。


「割合を試す前に素材が良くなってしまった……」


取り敢えず、錬金釜にさっきと同じ割合で材料を投入。魔法を流して合成完了。


名称:天使のシャンプー

レア度:7

説明:古い頭皮を取り込み消臭、髪と頭皮に生命力と潤いを与える。


「上級品が出来たな。素材のレア度が問題だったのか?」


「パパ〜、中級品食べても良いニャル?」


「えっ、これは一応石鹸だぞ?」


「〈吸収〉スキルが有るから大丈夫!」


本当かと思いながらニコラスさんに目を向けると頷いていた。どうやら大丈夫なようだ。

スライム体の口が開いたので半分入れた。


「もぐもぐ……種の香りが後を引く様でなかなか……そして、身体中に染み渡るニャル」


「まぁ、ヴィオレの素材の一部が混じってるしね」


「ごっくん。変身!それじゃあ、むむ……」


"カッ"


「出来たニャル!」


「いや、何が!? 」


いきなりの展開についていけなかったのですがっ!?


ヴィオレが嚥下した後、急に女の子モードになって両手を握り力を込めると閃光が発生した。


「だから、出来たニャル。シャンプーを出せる様になったニャル」


「「えっ、マジで?」」


魔法生物ってそんなことできるの?

ニコラスさんを見ると全力で首を横に振っていた。


しかし、ヴィオレが差し出した手を見ると先程食べたのと同じ様な液体が溜まっていた。


名称:ヴィオレのシャンプー

レア度:7

説明:天使のシャンプーがバイオレットによって精製された。効果は良質な物と変わらない。


「中級品が上級品にランクアップしてる!?」


「ヴィオレちゃん凄い!よく頑張りました!」


『本当に凄いよ〜!抽出と薬物生成のスキルが増えてる!!』


どうやらヴィオレが成長?したようだ。


「なら、上級品を食べさせたら……」


普通に考えたら上級から最上級だと思うけど、違う結果になりそうで怖い。


「上級品も食べて良いニャル?!」


「……はい、あ〜ん」


「あ〜ん、パクッ」


だって、目をキラキラさせながらこっちを見るヴィオレにノーとは言い辛かったんだもん!


「そういえば、さっき食べた時はスライム体で今は女の子ですよ?」


「うん? そうだけど?」


ノアはヴィオレを見て、ある事に気付いたようだ。


「……何処からシャンプーを出すんでしょうか?」


「そりゃあ、勿論さっきみたいに手ーー」


「下の口? から出るニャル」


「ノア、ミュウ!ゴォーー!!」


させぬ。させぬぞ!

俺の声でノアはヴィオレを脇に挟んで猛スピードで走り去った。保険でミュウも付けたから間違いが起きる事はない筈だ。


「さて、待ってる間に貴族用として上級品を増やしますかね」


「いりますか? お風呂は普及しておらず、持っているのは貴族たちか儲けている商人たちが主ですよ。中級品だけで十分な気がします。一般用はそれを希釈した物ではダメなのですか?」


「中級品は普通に手に入る素材をそのまま〈合成〉するだけだから初級錬金術師にも出来るでしょ? きっと早い段階で材料がバレるよ。そしたら他の店も売りに出すかもしれない」


「それを防ぐ為に特許が有るのですが……」


「あっ、特許なんてあったんだ」


異世界モノでよく聞くけど、実際はないと思い込んでた。


「有りますよ。商会ギルドで行っています。レシピの購入と販売時にマージンが入ってきます」


「じゃあ、中級品は特許申請して、上級品は秘密にしよう。強聖水なんて教会関係者でも、まず入手できないからね」


「それが良いと思います。それでは私はエドガーの所にいって特許手続きをーー」


「うちの2人を連れて行ってくれないかな?」


「確か交渉力のある奴隷を買われたのでしたか?」


「うん、やりたい事が多いしね。ニコラスさんも育毛剤で暇じゃないでしょ?」


「そうですね。では、顔繋ぎくらいはさせて貰いますよ。私の髪の為にもね」


「宜しくお願いします」


三人がなかなか戻ってこないので、奴隷たちを呼びに行った。


後で知った事だが、出来たばかりのシャンプーを試す為にシスターたちとお風呂に入っていたそうだ。ステラさんも噂を聞き付け当然の様に参加していたらしい。


「うふふっ、凄いです。これはオイル要らずですね」


上級品なだけあって、ノアたちの髪は美しくサラッサラッとなり、天使の輪も浮かんでいた。


教会に戻るといつ販売するのかと問い詰められたので、なるべく早く販売すると約束させられた。


更にお風呂が無くても売れるとシスターたちからの後押しを頂いた。お風呂に入れなくても頭を洗うからだそうだ。言われてみればそりゃそうだと思った。


「「ただいま帰りました」」


「「「「お帰りなさいまーー」」」」


帰った挨拶をしたら、ノアの髪を見たメイドさんたちに取り囲まれました。


「ノア様!その髪はどうされたのですか!?」


「朝の時点ではそこまで変化が無かった筈ですよね?」


「一体、何があったのですか!?」


そんな風に問い詰められてしまった。ここでも女性陣の圧力は強かった。


「何事ですか騒々しい!」


騒ぎを聞き付け奥様登場。そこからの流れはメイドと一緒でした。


「ノア様!その艶やかな髪はどうされたのですか!?」


「ミヤビさんが作った薬液を使いました!正直、最高の髪触りです!(ふさっ…)」


皆が誉め称えるものだからノアは胸を張って俺を自慢した。


「「「「「………」」」」」


「ぴっ!?」


今なら視線で人を殺せるんじゃないかと思わせる程に怖いです。


「ミヤビ様。私たちにも頂けますよね?」


「今すぐ作らせて貰います!!」


俺は急いで教会に戻って、上級シャンプーを作りまくった。

途中、スライムの核が切れたので採取にいったりしてたら奴隷の皆との約束の時間なんて吹き飛んでしまったぜ。

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