第37話 奴隷
シリウスさんの紹介状を持ち、伯爵家の馬車で奴隷商へとやって来た。
馬車で行ったのは普通に行こうものなら相手をして貰えず、して貰えたとしても足元を見られるからだそうだ。
「いらっしゃいませ。当館にようこそ」
馬車が止まると護衛を連れた身なりの良い男性が出てきた。
彼は俺たちの聖職衣を見て、値踏みするような視線を向けた。
「彼女たちの要望に沿う奴隷を紹介してくれ」
視線を遮る様にシリウスさんが付いた騎士が間に立ち、俺たちに代わって男性に対処する。
「お嬢様方の奴隷ですね。詳しくはお部屋でお伺いしましょう。ささっ、中にどうぞ」
男性の案内で奴隷商へと足を踏み入れた。
話に聞いてた通り、中は明るく小綺麗な部屋に檻が置かれ、見目麗しい男女が入っている。
奥には幾つか部屋が有り、その最奥に案内された。
部屋にはT字のステージとソファーが置かれていた。ステージ上には横並びに1〜5番と書かれた台が置かれ、そこからソファーの前まで伸びていた。
「紹介状はお持ちですか?」
騎士に手渡すと彼を経由して奴隷商人の手に渡される。
「拝見させて頂きます。ふむ……なるほど。交渉力のある人材を?」
紹介状を閉じて思考すると男性は口を開いた。
「要望に添える者はそこそこおります。他に何か求めますか? 家事? 愛玩? 知識奴隷なんかも取り扱っております。それとも戦闘用ですか? 果ては犯罪奴隷をお求めで?」
「求めるなら読み書き出来る方または出来た方が良いです。その代わり、種族や元の身分は問いませんし、どんな状態の者でも大丈夫です。例えば手足の欠損ですらね。その者には私の補佐を望みます」
「失礼ながらご予算を伺っても?」
俺は1枚のコインをテーブルに置いた。それは大きな金貨に星が描かれている。
「……分かりました。順番にお連れしましょう」
男性が奥に戻ってから数人の気配がやって来る。
「お待たせしました。さあ、入りなさい」
男性の声で奴隷たちが部屋へと入ってくる。
「ーーーっ!?」
入ってきたのは全て女性たちだった。その姿に反応し、ノアに抓られた。
彼女たちは下着を付けておらず、シースルーだけを着ているの。透けて見える全身が凄くエロい。
「純潔の証を見せなさい」
「「「「………」」」」
どうして、ステージの側にソファーが有るのか理解した。彼女たちは俺の前で股を開き、純潔の証がよく見えるに開いてみせた。
顔が真っ赤になる。知らない人の側で視姦を強いられるってどんなプレイだ!
「ミ・ヤ・ビ・さん?」
「ひっ!? かっ、〈鑑定〉!」
隣で吹き荒れるブリザードで正気に戻った。
彼女たちの状態を鑑定すると人族で健康だと分かった。正規なだけあってしっかりしている様だ。それに加えて皆が四則計算できる様だ。
「彼女たちは愛玩用で有りながら家事と読み書きができ、交渉もこなせるでしょう。感度に関して触って頂いても構いません」
「いっ、いえ、大丈夫です」
隣が怖ないので遠慮します。
「皆さん、能力が高いですね。奴隷になった経緯を聞いても?」
「皆一様に家族の借金が原因となります。更に詳しく言うと1番は準男爵家の没落、2番は商会での事業失敗、3番と4番は家族の薬代、5番はクエスト失敗の賠償金になります」
確かに5番の人はそこそこ引き締まった身体をしていた。それなのに愛玩用なのが不思議だ。
「1番の方の没落とはどういった理由ですか?」
「災害により税を数年納められなかったと聞いてます。それまでは何も問題ない貴族だったとも」
「ノアの希望はある? 1番と2番はキープしようと思うけど?」
「やはり、5番ですね。戦闘用でなく愛玩用なのも気になりますが、今後の為にも少しは戦闘力を持っていて欲しいですから」
「それでは一度下げて、残りを連れてきます。次からは役割も種族もバラバラになります。また、特殊条件付きも案内致します」
そう言って連れて来られたのは、1番エルフ、2番鬼人、3番獣人、4番宝石族、5番魔族の女性だった。健康状態はやはり問題なし。
「要望に添えるのは以上になります」
「あれ、そういえば男性は?」
「必要ですかな?」
「いえ、必要有りません。ミヤビさんも良いですよね?」
「あっ、うん。はい」
ノアが却下したので女性から選ぶしかないようだ。
「先程の特殊条件とはどんなものですか?」
「特殊条件とは、奴隷の提示する条件を満たす事で契約内容と金額が変更されます。そして、条件提示者は1番、2番、4番の3名になります。その条件はーー」
1番、4番は最高位の治療を対象に施すことを条件に、金額は仲介手数料と奴隷商での生活費のみ。
肝心の対象とは、1番がエルフ特有の疫病で倒れた同族、4番は希少種故に違法な奴隷商に捕まり、隙を付いて逃れる際に盾となって重症を負った妹だ。
どちらも枢機卿レベルが使う〈エクストラヒール〉が必要なそうだ。うん、俺たちなら使えますね。
2番の鬼人は高位冒険者をしており、クエスト時に死霊から力を封じる呪い掛けられたのでそれを解く事が条件だった。
呪いがタトゥーの様に身体を蝕んでいる。これ以上進行すると死ぬ恐れがあるそうだ。
そんな三人の条件を達成した暁には、愛玩用から戦闘用まで何でもこなし、その命すらも捧げるつもりだという。
「その他の2人に関しては、3番がクエスト失敗の賠償金、5番が魔法実験の被害に対する賠償金となります」
5番の女性はないな。スタイルは良いけど、マッドサイエンティストな気配がする。
あと……俺に魅了の魔法使ったよね? 魔力封じが発動してないよ!?
「特殊条件の子たちは確定で残りは帰そうと思うけど良い?」
そう言うと5番の女性は目を開いて驚いていた。残念ながらレジストしました。
「ええ、私達なら彼女たちの要望に応えられるでしょう」
「それじゃあ、最初の子たちからも選ばないとね」
男性に連れられて奥に帰る5番の女性の悔しそうな顔が印象的だった。
女性が戻った所で男性を呼び、魅了魔法が使える事をこっそり伝えると笑顔が一瞬凍り付いて戻った。
「ありがとうございます。確認致します」
再び、男性は奥に戻るとキープしていた最初の子たちがやって来た。
「貴族、商人、冒険者」
「どれも私達には必要な人材ですね。ですが、資金の事を考えると……」
事前にシリウスさんから聞いた相場だと、オークションでもない限り、最高評価の人物でも星金貨で買ってお釣りがくる。
しかし、彼女たちの能力を考えるに三人所か、二人も買うことは出来ない。
「確認しました。どうやら抜け技を知っていたようで、こちらの落ち度になります。この子たちの値段を勉強させて頂く事でどうかお納め下さい」
提示された金額は、一人あたり200万ドラコ(円)。
「買います!」
必要なサポート役をゲット!
星金貨(500万)と大金貨2枚(100万)を現金で渡し、彼女たちを購入した。
「他の三人については、最も簡単な鬼人族の貴方から初めようか」
「おいおい、嬢ちゃん。簡単って言っても司教様が治せないレベルだぞ?」
「〈鑑定〉。まぁ、〈キュア〉じゃ治せないよ。身体に根深く魔力が巻き付いている。これを治すには〈ディスペル〉が必要だ。ほらね」
「えっ? ええっ!?」
彼女の身体を蝕んでいた呪いが浮き上がり、砂のように崩れて消滅していった。
「あっ、ああっ!? 力がっ、力が漲る!!」
後に残った雪を思わせる様な白い玉の肌。彼女が力を込めると流れる血潮が淡い紅をその身に与えた。
「それじゃあ、どんどん行こうか」
案内して貰い店の奥にある個人スペースの彼女たちの個室へと向かった。
一番部屋が近かったのと容態が安定していない事からエルフさんの治療を優先することになった。
彼女の部屋には2人の男女が寝かされていた。
「今度は私がやります。同じニュンフェ様を信仰する者として」
「えっ? それなら尚更俺がやった方が良くない?」
そういえば、エルフはミューが生み出したとされる種族だった。
「大丈夫です。これなら私でも十分対応できますので。〈エクストラヒール〉」
先程まで苦しそうにしていた彼らの吐息が穏やかなものへと変わった。
「〈鑑定〉。うん、完治してる。完治はしてるだけどねぇ……」
「何か問題がありましたか?」
エルフ特有の病と聞いていたが、実際に鑑定して見た彼らの病は遺伝子障害。原因は近親相姦によるものだった。
「ーーーっ!?」
説明を聞いた彼女は青ざめていた。
無理もない。ファンタジー特有の引き込もエルフは、この世界では現実なのだ。
エルフ特有と言うからには結構なレベルで広がっているのだろう。
「〈エクストラヒール〉は対処療法は出来るけど、一番簡単で良い方法は他種族の血を加えること。それか血縁からかなり遠いエルフを選ぶしかない」
これは俺たちが口を出せる問題では無いので保留にするしか無かった。
次に向かったのは宝石族の部屋は、エルフの部屋に比べて身の回りの物が揃っていた。
「ここだけの話、彼女たちは身体の一部を宝石に変える能力を持っています。ここの家具も仲介費用を彼女がその身で払いました」
部屋にあるベットに寝かされいるのが、血濡れた包帯の塊で彼女の妹だったものだ。
少女の焦点は天井を見て動かない。片目は潰れ、右手と左足が壊死によって腐り、進行しない様に切り落とされている。少女は生きてるのが不思議な位に傷付いていた。
「っ!? これは〈エクストラヒール〉でも……ミヤビさん。お願いします。貴方しか救えないと思います」
「うん。いっちょ頑張りますか!」
彼女の状態に同情したのもあるが、それ以上に良く頑張ったと褒めてやりたい。頬を叩き気合いを入れる。
まずは彼女の魂を修復しないといけない。深刻なダメージは魂にまで影響していたのだ。
魂は肉体からズレ始めており、形は欠損した人型を取っていた。これを治さないと例え手足が生えたとしても動かす事はできない。
「〈ソウルリペア〉」
直接、魂に触れる魔法なだけあって感情が流れてくる。怒り。悲しみ。恐怖。怯え。絶望。負の感情が強い。
色々な感情は奔流となって抵抗し、中々魔法が通らない。
「ミヤビさん!?」
魂の抵抗により杖を握る手の指先の毛細血管が破れて血が飛び散ったが止める気はない。
大丈夫だ。君を傷付ける者はもういない。お姉さんが待っているよ。
……優しく諭すが中々に強情なようだ。これには流石の俺も頭にきた。
絶望してないで前見ろや! 確かに辛かっただろうが、お前を待ってる奴が、姉がいるだろうがっ!!そんな彼女を置いていくのか!? お前を治す為に全てを投げ出す覚悟をしてんだぞ!!
「我が杖【星海杖・メルティースカイ】よ。今まで貯めたありったけの魔力を今すぐ寄越しな!〈
膨大な魔力という名の力技で、少女の魂を無理やり修復した。
「〈
ズレた魂は肉体へと戻り、失われた手足が元に戻った。
それを見届けた俺は魔力枯渇で意識を失った。
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