第36話 魔法生物

夜になって帰ったきたシリウスさんが、夕食の場で子爵たちの事を話してくれた。


「予定通り、子爵たちの裁判は長引きそうだ。裏取りも有るからオークションが終わるまでは王都いる予定ことになる。屋敷は好きに使ってくれ。それからミヤビ。前に話してた交渉力のある人材の件だが、奴隷商への紹介状を用意するからこの機会に見に行ってはどうだい? 今なら良い人材が集まっていると思うよ」


日本としては忌避感が有るけどこちらでは普通の事だし、口減らしで売られる事もある様だ。


そんな中、竜王国において奴隷の扱いはしっかりしている。法律で色々と明記されており、奴隷商人への監査や顧客の報告義務などが有るそうだ。


せっかく用意してくれたのだから、見に行ってみようと思う。


「それからミヤビ。個人的に相談がある。後で少し時間をくれないか?」


食事の後に個室へと移動して、シリウスさんの相談を受ける。


「キャロンを第一夫人に据えようと思う。元々、彼女の方が家柄も良いしね」


それなのになぜ彼女が第二夫人なのかというと病気を患い子供の出来ない身体になったのが理由だそうだ。


「君の治療でどうにかならないかな?」


「見ないと状況は分からないですけど、した事無いので上手くいかない可能性も有りますよ?」


「それでも構わない。この話はノア君にもして貰って大丈夫だ。治療には彼女の付き添いも必要だろ?」


ノアに話しても良いとの事で彼女へ説明すると諸手を挙げて賛成してくれた。


「やりましょう。愛する人の子どもが出来ないのは悲し過ぎます」


ノアの協力を得て、治療を行う事にした。

キャロンさんの寝室へと向かい、治療しやすい様にベットの上で下着姿になって貰う。


色即是空。色即是空。俺にはミューとノアがいる。人妻の色気がヤバッ!!


ハッ、まさかこれを事前に知って搾り取ったのか!? 我慢出来る様にと!?


ミューたちの事だから有り得ないことも無い。


「〈鑑定〉。身体の状態は健康。やっぱり問題は子宮周辺かな? 年相応の機能低下が見られるな。それから……ああ、なるほど。本当に病気の後遺症で卵巣が機能停止してる。でも、このくらいなら今のノアでも治せる。お願いしてもいいかな?ダメなら自分がするよ」


鑑定で見た卵巣の位置を教えて彼女に手を当てさせる。


「光の魔力も込めながら回復魔法を唱えて」


「〈エクストラヒール〉!」


「……うん、成功。回復と同時に活性化したから今ならデキやすくなってるよ。という事で頑張って〈精力強化エネルギーブースト〉」


心配でドアの前にいたシリウスさんにも魔法を掛けて、俺たちはそそくさと退散した。

今から二人の時間だ。邪魔するべきでない。


そして、ノアが限界を迎えそうだ。協力してもらう為の報酬に短パン履いて子供プレイすると言ったのが間違いだったかもしれない。




翌朝。

頬のコケたシリウスさんと肌がツヤツヤなキャロンさんが朝食にきた。


「……君も大変だったんだな」


多分、傍から見た俺たちも同じなのだろう。

それからキャロンさんを鑑定すると妊娠中となっていたので彼に伝えると屋敷中がお祭り騒ぎとなった。どうやら使用人たちは彼女こそが第一夫人だと心で思っていたようだ。


「ありがとう。ありがとうございます」


「君に頼んで良かったよ!」


2人は涙を流して喜んだ。

ノアがこっちを見ている。まだミューとも作ってないからダメだからね!


その後、安全に産まれて来れる様に向こうから『妊娠出産の本』を送って貰えないかをミューに相談したらその日の内に『妊活の本』と一緒に送られてきた。


コレは作ろうってこと? 作って良いってこと?


考えると頭が混乱してきたので〈アイテムボックス〉に収納した。


それから時間が掛かりながらも翻訳してシリウスさんたちに渡すと大変喜ばれた。


「やっと時間が作れたのでやろう」


シリウスさんが本を複製して良いかと聞いてきたので許可するとこれが騒ぎになった。向こうで実際に起こった事だが、昔は良いとされた物が実はダメだったというモノだ。

内容が内容なだけに、ニコラスさんたち経由で教会に丸投げした。ついでに清潔の大切さも布教して欲しい。


「まずは核を作りますか」


核の作成にはマスターとなる者の一部が必要になる。特に魔力を含んだ物が良いので血液を使う事にした。


「ノアとミュウも血を分けて」


マスターを複数設定する場合は、込められた魔力量に応じて命令の優先順位が決められる。


「分かりました。お願いします」


ノアの血管に水で出来た細い針を刺して採血し、俺の血が入ったビーカーに加えた。


『私は血が無いから唾液…いや、今回は別のを用意するよ。ちょっと待っててね』


ミュウがビーカーを持って何処かに行った。

数分して戻ってきたミュウは火照っていた。


一体何をしてきたのだろうか?

ビーカーの液体の色が少し薄くなってるから透明度のある液体を入れたのは確かだ。


「この匂いはまさか?……ミュウさんにお話が有ります。ミヤビさんはまだ始めないで下さい」


何かに気付いたノアがミュウを連れて行き、俺に聞こえない様に話し合う。


「私にもビーカーを貸して下さい」


ノアもビーカーを持って部屋を出て行った。

戻ってきた時には同じように火照り、胸元を伝う水玉が艶やかさを増していた。


「2人とも何をしてきたの?」


「うふふっ、秘密です」『秘密です』


二人だけで分かり合ってるみたいで悔しい。〈鑑定〉を使えば一目瞭然だが、それでは負けた気がする。


「むむむ……」


「ほらほら、核を作りましょう」


『早く固めないと魔力が抜けちゃうよ』


仕方ないので作業を再開させた。

地面に置いた魔法陣の中央へ液体の入ったビーカーを置く。


「魔法陣の励起を確認。〈結晶球化コアライズ〉」


液体がビーカーから浮いて球状化する。それが少しずつ透明度を上げて縮小して行き、コロンッとビーカーに落ちた。


「おっ、出来たみたいだ」


「あとはこれに何をするんですか?」


「核に属性魔力を注ぎ込んでから使い魔契約すると内部魔力で肉体を生み出すみたいだ。また、形は不定形でマスターの意志で変えれるみたいだよ」


使い魔と言えば黒猫。でも、元々は某スライムを目指していたんだよなと思ったからか、生み出された魔法生物は変な形をしていた。


「猫なの? スライムなの?」


「多分、スライム?」


猫耳の生えたおまんじゅ型の黒いスライムがぴょんぴょん跳ねていた。


「黒猫にはなれないの?」


『にゃ〜〜っ、なれますニャル』


『「「しゃ、喋った!?」」』


ノアが撫でると黒猫になって喋りだした。


「パパの魔力とママたちの愛がアチキに知性をくれたニャル。色々変身出来るニャル。イメージを伝えるニャル」


想像するだけで伝わるのか、魔法生物は兎や鳥、犬。果てはミュウに似た妖精と色々変身して見せた。


名称:なし

種族:魔法生物(亜神・ニャルラトホテプ)

スキル:変身、状態異常無効化、強酸、吸収、影移動


邪神が生まれちゃったんですけど!?

2人とも何を混ぜたの!?


「凄いです!」


『もっともっとやって!!』


鑑定結果に驚く俺に気付かず、二人は魔法生物との邂逅を楽しんでいた。


仲良し姉妹みたいだな……。


そう思ったからか、魔法生物は二人の容姿の中間くらいの女の子へと姿を変えた。


しかもそれを見て、俺が某星人を思い出したものだから、さぁ大変。


「いつもニコニコ。這い寄るこーー」


「はーい、ダメダメ!それはアウト!!」


言わせないよ。流石にコンプラに引っ掛かると思うから。ポージングも決めなくていい。


せめてやるならアレンジを加えような。な。お願いだから!


「名前!そうだ名前を決めよう!!」


話題を逸らすにはこれしかない!


「まずは特徴を整理しよう。人型では銀髪に赤紫の瞳で褐色肌、獣型では黒毛に赤紫の瞳が共通している。あと何故か一人称は"あちき"で語尾が"ニャル"だ」


語尾はニャルラトホテプから来てるのかな?

一人称と統一して"ありんす"じゃないんだね。


「なら、瞳の色から取るのが無難そうですね」


『じゃあ、候補1。花からヴァイオレット』


「それなら私は……候補2。石からガーネット」


『ミヤビは?』


おいおい、考えていた選択肢をもう全部言われてしまったぞ。

こうなったら、日本名で行くしかないかな?


「アヤメ……。いや、もう明るさを……キキョウだ」


『あっ、狡い!2つ出した! なら、スミレ!』


「ええっ、2人はそんなに思い付くんですか? ヴィオラ。あっ、これだとヴァイオレットの略称ですね。う〜ん……」


名前付けに逃げて正解だった。なかなかに白熱して決まりそうにない。というか、どんどん出てきて全然決まらないぞ!?


「あみだくじで決めます」


紙に縦線と名前を書いて、順番に横棒を好きなだけ追加させた。

その結果、魔法生物の名前は……。


「ヴァイオレットに決定しました!」


「わーーい!」


『「おめでとう!!」』


本人も気に入ってくれた様だ。

ただ名前が長いので略称として"ヴィオレ"呼びでいく事になった。





完成したヴィオレをニコラスに紹介した。


「えっ? 人体錬成?」


違います。ちょっと変身能力の有る魔法生物なだけです。


「確かに魔法生物は変化能力を持ちますが、ここまでの精度はないですよ」


通常は精々身体の一部を変化させるくらいだそうだ。


「材料が特殊だったんですかね?」


2人が加えた謎液の正体が非常に気になる。


「ですが、それよりもその姿で連れ歩くのですか? 色々と問題になるかも……」


「ヴィオレのもっとも楽な形態はなに? 猫? 猫だよね!?」


「それはこれニャル!」


彼女が変身したのはネコスライムだった。

ふう〜っ、危ない。女の子モードなんて言われた日にはどうしたものかと悩む所だった。


「その姿と変身能力を含めてギルドに届けておく方が良いですよ」


彼の薦めに従って、冒険者ギルドに使い魔の申請を出した。


種族は魔法生物。嘘は言ってないが間違ってもいない。普通の〈鑑定〉では隠し種族は見えないみたいだから大丈夫だろう。……たぶん。


「ノア!? いつの間に子どもを産んだの!?」


教会でヴィオレを見たステラが俺とノアの子どもだと勘違いする事件が起こり一悶着有りました。事実なのが余計にややこしい。


ミュウが『3人の子どもだよ』って言ったら悟りを開いたみたいになり、慈愛の目を向けられたよ。彼女が何を考えているのかよく分からない。


家主であるシリウスさんにも彼女を紹介しない訳にはいかないので会わせた。


「この子が魔法生物かい?」


「ぷにぷにして可愛いわね。お菓子食べれる?」


猫スライムモードは夫人や侍女たちに人気でオヤツを貰える事を覚えたヴィオレは女の子モードを封印した。


これで安心したと思い気やその日の夜。


「パパ〜っ、アチキもママと一緒にするニャル!!」


ヴィオレ、夜の戦いに参戦!!


いや、生まれたばかりで何をしてるか知らないだろ? 良い子だから部屋でお休み。


「セックスニャル! アチキの核になったママたちの愛液が教えてくれたから大丈夫ニャル!!」


ナニ混ぜてんだぁあああっ!!?


今更、核を弄ることは出来ないのでそのままにするしかない。


「大丈夫ニャル!安心するニャル!頂きますニャル!!」


魔法生物【ヴァイオレット】は吸精を覚えました。

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