第35話 スライム

ニコラスさんに育毛剤の交渉を丸投げした。彼なら良いようにしてくれる筈だ。


また、要件が済んだミューは頬っぺたにキスして意識を返し、疲れ切った眠そうなミュウを懐に回収した。


暇になったので冒険者ギルドで依頼でも……と考え、そもそもそのつもりだった事を思い出した。


一層の事、スライムを狩って素材を入手できないかな?


「スライムって、王都の近くで取れるの?」


「スライムですか? 確か、西門から見える森にいた筈です。取りに行かれるのですか?」


「うん、色々開発してみたいからね」


スパルタ教育で基礎的なポーション作成は習ったから応用を実践してみたい。ダエラーグ商会で聞いたけど、市販の美容液とか存在してないから作れば売れると思うんだよね。


俺たちはステラさんに森への詳しい行き方を聞いた。


「西門を出て、右手に森が見えるです。私は行った事がないので、いなかったらすみません」


ルートはとても分かりやすかった。

王都は王城を中心に貴族街、そこから門へと伸びる大通りでエリアを区切っているので迷子になりにくい。

教わった通りに進むと森に辿り着いた。


「いましたね。あれがスライムです」


「思ってたのと違う!?」


ノアの指差した先にいたのは、雫の様な形だったり、くず餅の様な形だったりせず、文字通りのスライムだった。ヌルヌル、ドロドロした水溜まりが蠢いている。


「どんなのを想像してたんですか?」


「こんな感じで……」


俺のイメージするスライムを説明するも上手く伝わらず、水魔法で再現し説明した。


「魔法生物ですか? ニコラスが作った物にそんなのがいた気がします」


「マジで?」


帰ったらニコラスさんに聞いてみよう。

魔法生物って事なら俺も生み出せるかもしれない。


「所でスライム水ってどうやって入手するの?」


「さぁ? ミヤビさんも知らないんですか?」


これは俺のミスだ。聞かずに飛び出してきた俺が悪い。取り敢えず、色々試してみよう。


「まずは木の枝をーー」


"ジュッ……"


「「………」」


溶けました。木の枝が粘液にちょっと触れただけで煙を上げて溶けました。


強酸の塊ってこと? そっちのタイプ?


結構な危険物だが、唯一の救いはスピードが遅い事だ。こっちに向かってきてるみたいだが、カタツムリの様に鈍い。


「これは核か?」


粘液の中にビー玉状の物体が有る。木の枝を結界で包み、核を砕くと粘液の動きがピタリと止まった。


名称:ノーマルスライム

状態:死亡


ちゃんと死亡したようだ。あとに残った粘液を調べる。


「この粘液がスライム水?」


〈鑑定〉で見ると残念ながら酸粘液と書かれていた。名前通り、木の枝は溶けました。


「う〜ん、あとしてないのは核だけを抜く事か? 結界を纏った手で抜くとか?」


「流石に危なくないですか?」


「大丈夫。木の枝は溶けなかった。それに欠損じゃないし治る治るーーえいっ!!」


要は試しと粘液に手を入れてみたが、思った通り溶ける気配はない。粘液が波打っているので、抵抗される前に素早く核を抜いた。


名称:スライムの核

説明:水に浸すと粘性を持たせる。


「ああ、なるほど。核を水に入れたスライム水が出来るのか!」


「えっ、一般の冒険者には難しくないですか?」


「何かしらの正式な入手方法が有るじゃないかな? 例えば、粘液を少しずつ削っていくとか、凍らせるとか?」


枝で突いてる内に気が付いたが、スライムから粘液が離れると動かなくなる様だ。


「水をかけて薄めるのはどうです?」


「やってみる? たぶん、一番危険な気がするけど」


ノアは分かっていない様で首を傾げていた。俺は被害が出ない様にスライムの周囲を結界で囲い一緒に離れた。


これが俺の知る理科の実験で見たのと同じものだとしたら……。


「〈アクアボール〉」


"ジュッ……ボンッ!!"


「ひゃっ!?」


水球がスライムにぶつかると爆発し、揺れた結界に驚いたノアが飛び付いてきた。


「えっ? ええっ? 何が起こったんですか!?」


「くっ、苦しい……」


「あっ、ごめんなさい」


ノアのおっぱいから解放されて、何故こうなったのかを説明した。


「水球も生活魔法〈ウォーター〉と同じで自然現象の影響を受ける。例えば火で沸騰したりね。今回も同じだよ。大量の水が強酸で沸騰し、蒸気に変わったからこうなったんだ。雨みたいにちょっとずつ水がかかる分には問題なかったと思うよ」


「知らずに水をかけてたと思うと、ゾッとします」


「水は危険という事で他ならどうだろう? 火は? 風は?」


2人で引き続きスライムを見付けては試してみた。


火だと勢いよく燃えて何も残らず、風なら当て続けると核だけ残った。土でも削っていく事は出来たが、棒などで削るのと変わらなかった。

その他の属性はやり方が思い付かなかったり、強過ぎたりと成果を得られなかった。

しかし、空間魔法だけは別物だった。


「マジでやべぇ……」


「これって人の中にも……」


空間魔法〈ゲート〉を使うと核だけを取り出す事が出来たのだ。

ノアが心配する通り、人の身体の中に刃物を出す事が出来るという事だ。


「いっ、一応イシスに聞いた事が有るけど、体内魔力が干渉して無理だった筈だよ」


「ほっ、そうなんですね」


「でも、口が開いていた場合は、口から食道までが外界と繋がるからそのスペースなら転移させられるって聞いた……」


筈だったのだけど、この状況を見るに信じられない。レベル差の影響によるものだろうか?


「神よ。空間の攻撃魔法が伝わっていない事に感謝します」


そういえば、講習でも名前を聞いた事がない。

今度帰ったら聞いてみよう。






沢山のスライムの核を集めた俺たちは再び教会へと戻った。


「お帰りなさい。いや〜っ、良い取引になりましたよ」


会長さんたちは渋い顔をしながら帰り、ニコラスさんは凄く良い笑顔をしていた。

どんな結果になったか聞いてみると会長さんが使った速効性の有った方を貴族用として1瓶に付き星金額1枚(500万円)で販売し、部下の使った弱い方を一般用として1瓶に付き金額3枚(15万円)で販売するそうだ。


「また、利益の内訳は教会が3割、商会ギルドが2割、残りの5割を私たち5人で1割ずつ貰うという事で決まりました」


「実験を見てただけの私が貰って良いのかしら?」


全く関係なかった筈なのにメンバーに入れられて、ステラさんは困惑していた。


「製法を知ってしまいまたし、これから手伝って貰う事も増えると思ったから加えさせて貰った」


「……そう。なら、貰うからにはちゃんと手伝うわ。あの液体で良いのなら一日4〜5Lは作れると思うの」


「頼もしい。あとはスライム水を冒険者に取って来て貰うだけだな」


「あっ、スライムの核なら取ってきたよ。そういえば、1個でどれくらいの水が作れるの?」


「ん? どういう事ですか?」


俺はニコラスさんが交渉していた内にスライムを狩ってきた事を説明した。

証拠の核を見せながらスライム水の作り方を説明すると彼からは驚きの話をされた。


「ちょっと待って下さい。水に核を入れたら"スライム水"になる? それは本当なんですか? 本来はダンジョンのドロップ品ですよ」


どうやら正規の手段では無かった様だ。

通常はダンジョンでスライムを狩ると一定確立でスライム水が入った瓶がドロップするらしい。

それを冒険者ギルドや商会ギルドで買い取り使うのが普通の流れだった。


「結界を纏った手ならスライムの核に触れて直接入手できる。そして、水に漬けるとスライム水になるのか? これは実験のしがいが有りますね!」


好奇心旺盛な子どもの様な良い笑顔だ。

ああ、この人はやっぱり聖職者より錬金術師だなと思った。

核一つに付き、どれくらいの量がスライム水になるか分からないので、彼の手持ちのスライム水と交換で核を手渡した。あとは彼が色々調べてくれるので任せよう。


「あっ、魔法生物ってどう作るの?」


「おっととっ、魔法生物ですか?」


直ぐ様、自室に帰ろうとするニコラスさんの服を捕まえ、水で作った某スライムを見せて作り方を尋ねた。


「ノアがこれに似たのを魔法生物で見た事が有るって言ってて」


「ああ、そうですね。勇者の文献に似たのがいたので昔作った事が有ります。それで作り方でしたか? 結構簡単ですよ。核を作って、外側を決めるだけです。ちょっとお待ちを……」


部屋を出て少しするとニコラスさんは本を持って直ぐに帰ってきた。


「この本を差し上げますのでどうぞ。ここに一般的な作り方が乗ってます。最初のページには材料です。それでは私はこれにて失礼します」


本を手渡すと嵐の様に去っていった。


「……材料を買って帰るかな」


それなら街で材料を買い、伯爵の屋敷へと向かった。


「えっ、ここ……?」


「流石は、名だたる大貴族様ですね」


ノーブルコインを見せて貴族街に入り、門番に教えて貰った場所へ行くとメルディンの屋敷の5倍大きな建物へと辿り着いた。


伯爵家の門番にコインを見せると執事がやって来る。


「お待ちしておりました。ミヤビ様とノア様ですね。皆さんは既にいらっしゃっています」


執事さんに聞いてみるとクエストは受けなかったみたいで、早い時間から来ていたそうだ。


「こちらは第二夫人のキャロン様で有らせられます」


「貴方がミヤビさんで、そちらが大司教のノアさんね。私はキャロン・リュミエールよ。第一夫人が色々迷惑を掛けてごめんなさいね」


屋敷に入ると伯爵の第二夫人が待ち構えていて謝罪された。シリウスさんから色々話を聞いているそうだ。


「夜にシリウスも帰ってくる様だからお食事でも一緒にどうかしら?」


誘いを断る必要もないので受けことにした。

俺の参加が楽しみなのか、伯爵夫人はニコニコしながら執事に指示を伝えると侍女たちと共に去って行った。


その後、部屋へと案内される。


「おお、一人部屋なのに広い!」


「いえ、二人部屋です」


「えっ?」


そういえば、ずっと背後にノアがついて来ていた。何時も通りすぎて気にして無かった。


「何か間違えましたか? シリウス様よりそう伺っているのですが……」


「いえ、問題有りませんよ。こちらの方が色々気を使わなくても良いので楽ですから」


ノアの意見を受けて二人部屋が確定した。


「それでは早速作成ーー」


「前のすることが有ります」


執事が去ったので材料を床に並べて魔法生物を作ろうとするとノアに止められた。


"ガチャ"


後ろ手に鍵をかけるノア。更に部屋へ〈防音〉の魔法を掛けて結界も施した。


あっ、なんかデジャブ。何時もより厳重な部屋にこれから起こる事を察した。


「ミュウちゃんは身体を貸した事でエネルギーを消費しています。直ぐにでも補充が必要です」


ノアの言う事にも一理ある。


「この子は有りで私はお預けとかないですよね?」


それは別の話じゃないかな?

そうこうする内にノアは服を脱ぎ始めた。どうやら彼女は止められない様だ。


「1回。1回だけだからね」


「はい、お任せ下さい」


まぁ、1回で終わる訳もなく、執事が呼びに来るまで部屋で楽しんだ。

そして、部屋に結界を張ると後処理が便利な事を学んだ。エロが絡むと魔法技術も上がる事を知った。

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