第33話 髪降臨

レティシアさんの協力で半日も経たない内に、王都へと辿り着いた。


竜の国というだけあって色々規格化に大っきい。大きな城壁に、大きな門。上から見える街中にも竜体のまま降りられる広さの大通りや竜の発着スペースを備えた大きな建物が幾つも見えた。


俺たちは貴族用の門前に降ろして貰い、罪人の引渡しを行う。


「罪人の引渡しには王都を護る第4騎士団が担当しますので、私はこれにて失礼します」


「ありがとう。楽が出来たよ」


「……例の依頼。機会があったら頼むわね!」


俺にだけ聞こえるように言ってレティシアさんは去っていった。


「多分、本当に依頼すると思います。頑張って」

「無茶ぶりをさせない様に気を付けますが、覚悟だけはしてて下さい」


去り際に同僚の騎士さんたちが哀愁を漂わせていたけど、彼女は何をしでかしたんですかね?


「お待たせしました。リュミエール伯爵」


知らせを受けた第4騎士団が部隊を引き連れて罪人を受け取りにきた。


「私は彼らに引き渡して後、そのまま登城するから君たちはギルドに報告へ行くといい。その後は自由だ。屋敷に部屋を用意させているから好きに使ってくれ」


依頼書にサインを貰い、あとの事は全て任せてギルドへと向かう。


「ドキドキする……」


「ミヤビもこれで一人前の冒険者か……。ここまでは比較的上がりやすいとはいえ速かったな。1ヶ月とちょっとくらいか?」


「護衛依頼の期間を抜けばもっと短いよ。街に着いてから登録して、初クエで教会に1週間くらい引きこもり、決闘対策で森を走り回ってたらオークの集落を見付けたので潰し、その成果でCランクって事だからね」


「そういや、オーク騒動があったな。一日で終息したけど。お前たちがやってたのか。結構居ただろ? 街でオーク肉が安く出回るくらいには」


「30前半くらい居たけど、地形と魔法の相性が良かったから簡単だったよ」


「詳しく聞いても良いか?」


「まずは〈ストーンウォール〉でーー」


オークの集落を潰した時の話をしながら大通りを進むと目的の建物が見えてきた。


冒険者ギルドの造りは変わらないものの、やはり大きな入口と発着スペースを備えていた。

でも、一般人には大き過ぎるので通常の入口も用意してあるようだ。


「今の時間でも多いんだね」


「王都は依頼が豊富だから朝一から昼までは人が減らないのさ。護衛だと今から打ち合わせて明日に出るのも結構いるな」


さすがはダルク。ベテランの話はタメになるな。


俺達は受付の列に並び依頼書を提出した。


「Cランク昇格、おめでとうございます。こちらが新しいカードになります。確認を行って下さい」


新しいカードは鉄。暗い青緑をしていた。

唾液を垂らして確認すると問題なく表示され、記載もちゃんとされていたのだがーー


「えっ、何この金額……?」


口座の残高表示に切り替えると貯金が1000万ドラコ(円)を超えていた。

心配になった俺はすぐに明細を調べて貰う。


「ダエラーグ商会からの入金ですね。種の購入費用となってます」


どうやらキルリーフの種の値段がまた上がったみたいだ。それに加えて、帰るのに時間がかかるからと出発前に多く納品していたのも原因の一つだろう。


とりあえず、1ヶ月分の活動費として金貨10枚と銀貨10枚を引き出してから受付を離れた。


「これからどうしようか?」


「一緒に依頼でも受けるか?」


「それでしたらミヤビさんは私とーー」


"バンッ!!"


「ノアァアアアッ!!」


どこに行こうかと話していたら、ノアの名を叫びながら女性がギルドに飛び込んで来た。


「………」


ノアが無後で俺を相手から見つからないように影へ引き込んだ。


「名前呼んでたけどいいの? 教会の中でも上の人だよね?」


彼女が着ているのは、ノアの服よりも刺繍を施し豪華にした物だった。ノアの立場から下手すると枢機卿の可能性もある。


「むむ、いずれ行こうと思ってましたが向こうから来ましたか。まさか彼女がこの場に居るとは……」


どうやら、彼女とは会いたくないようだ。


「外堀から埋めるとしましょう。ミヤビさん、例の育毛魔法は完成していますか?」


「シャインさんで実験したら成功したから大丈夫だと思う」


「シャイン……ああ、スキンヘッドの騎士さんですね? 最近見ないと思ったら髪が生えたという訳ですか。なら、大丈夫でしょう。お二人共、願いです。〈転移〉で外に運んで下さい」


俺とミュウは顔を見合わせ首をひねりながら、ノアの頼みを聞き入れた。

冒険者ギルドから少し離れた路地へと転移する。探す声がここまで聞こえるので、まだ中に居るようだ。


「それでは王都にある教会の大司教に会いに行きましょう!」


ノアに手を引かれながら王都の教会を目指して走る。






王都の教会はステンドグラスが踏んだに使われ美しく神気が満ちていた。また、施設は大っきいものの、竜用の入口などは無かった。


「ニコラス大司教はいらっしゃいますか? 居たら『貴方のは死にましたか?』と伝えて呼んで頂けませんか?」


ノアに声を掛けられたシスターは困惑しながらもニコラスという人を呼びに行った。


「カミの発音に違和感感じたけど、何かあるの?」


「会えば分かりますよ」


指を口に当てて"秘密です"と、ニコッと笑った。

それから待つこと数分。強い足音と共に男性がきた。


「誰の髪が死んだって!? まだ生きてるわ!?」


「ぶふっ!」

『ぶふっ!』


入ってきた人を見て色々察した。

光を反射する見事なハゲ野原と申し訳なさそうに輪になって残る髪。金髪落ち武者ヘアーのショートバージョンだった。


「笑うな、クソガキ共ッ!!」


「おやおや、そんなこと言って良いのですか? この子は貴方の救世主だというのに?」


「あん? それはその子の神気と関係有るのか? というか、ステラはどうした? アイツはお前の情報を聞いて飛び出して行ったぞ。会ってないのか?」


「気付くとは流石です。ちなみにステラからは会う前に逃げました。今は冒険者ギルドで居ない私を探している筈です」


「おまっ……仮にも上司だろ?」


「ステラ何するものぞ。……でも、折檻は怖いのでニコラスが手を貸してくれませんか?」


ドヤッと自慢の胸を張るノアだったが、罰を思い出して弱気になっていた。


「そんな助けを求める相手を侮辱しませんでしかね?」


「いえいえ、私がここに居るのをバレずに貴方を呼び出す魔法の言葉を言ったまでです」


一通りのやり取りが終わったので紹介して貰う事になった。


「こちらはニコラス大司教。この国の協力関係者を束ねています。趣味は育毛です。元は錬金術師のスペシャリストだったのに神聖魔法で髪を生やす事を夢みて入信し、ここまで登り詰めました」


「趣味じゃねぇよ、こっちが本命だ!ニコラスだ。よろしく頼む」


「こちらはミヤビさん。聖女であり、私の神でご主人様です」


「はぁっ、聖女!? いや、その前にご主人様!? お前、幼い男しか寄せ付けないと思ったらレズーー」


「ちゃんと男ですよ。そして、少し静かにしろ」


「もがっ!?」


声を大きくなってきたニコラスの口を塞いで黙らせた。


「とりあえず、俺は彼の髪を生やせば良いの?」


「ええ、お願いします。ニコラス。生えた暁にはステラを宥めるのを手伝って貰いますからね」


「いやいや、無理だろ。俺が錬金術でどうにもならなくて神聖魔法に期待を寄せてるが、まだ生えてないんだぞ。それをこんな子供が? 職業影響でも無理だろ?」


「だそうですので、やっちゃって下さい」


「〈エクストラヒール〉」


届け届け毛根へ。細胞よ活性化せよ。髪の種が無いなら新たに生まれて定着せよ。

と念を込めながら某植毛CMの映像を思い出し行うと彼の頭部に劇的な変化が起こった。


「おっ、おおっ、痒いっ!? 頭が痒い!?」


"シュルシュルシュル……ッ"


育毛の痒みに悶える中、ハゲ野原が金色の草原になり、残った髪と一緒に伸びていく。肩下まで来た所で魔法を止める事にした。


「どうです?」


「…………おお、髪はここに居られましたか。我が信仰をお受け取り下さい」


ニコラスさんは髪を触って目を見開き、跪いて俺に祈りを捧げた。


「かっ、顔を上げて下さい」


「はっ、我が髪よ!」


『おめでとう。信者が増えたね』


いや、違うと思うけど!? カミはカミでも髪の方だよね!?


「やはり髪が生えると印象がガラリと変わりますね」


確かに先程までは中年のおっさんだと思ったのに、髪が生えたら金髪イケメンさんが誕生した。


「ミヤビさんの事を説明するのでしっかりと聞いてください」


「ああ、我が髪に忠誠を捧げる為に事情を説明してくれ」


目がギンギンにキマッてない!? なんか狂信者になりそうで怖いんだけど!!


ノアから説明を受けたニコラスは色々納得したように頷いている。


「だから、神々が動かれたのか。神託や使徒を使い正常化する為に。全ては我が髪が教会の力を使えるようにと。正常化については8割方終わり、あとは役職を振り分けるだけのようだ。ステラが探していたのもその件だろう」


「私も枢機卿になれってですか?」


「空きは残り3つ。誰でもいい訳じゃないからな」


「じゃあ、貴方がなってくださいよ」


「確かに俺にも話は来ているが、なってしまうと我が髪に仕えることが……」


「私が眷属化した朝も夜も仕えているので要らないです」


「なっ、ズルいぞ!?」


「これぞ女の特権。聖女に近づく男は排除されますからどの道無理ですね。さっさと上に登って後方支援にでも徹して下さい。それにこれから色々魔導具を生み出して販売するそうなので」


「それこそ俺の分野じゃないか! よし、錬金術のアレコレを教えよう。これでも未だに弟子入りを望む者は絶えぬのだ」


「ブリギッテ様に基礎は教わっているので困った時だけで大丈夫です」


「そうか……」


圧が凄いので断るとしょんぼりするニコラスさんだった。


「ノォオオオアァアアアッ!!」


聞き覚えのある声が入り口から聞こえてきた。


「いるのでしょう出てきなさい!街で爆乳女が教会に向かって疾走していたと噂になってましたよ!!」


皆の視線がノアにおっぱいに向けられた。手で触れるといつも通り柔らかい。


「いやん♪」


触ってみたが魔力を一切感じなかった。そういえば、今日は〈認識阻害〉は掛けていなかった事を思い出した。


このおっぱいが弾む様子を見れば誰だって話したくなるのは仕方ないな。


「ニコラスさん。ノアを助けてあげて下さい」


「はっ、お任せあれ。我が髪よ!」


うん、やっぱり"カミ"が違うく聞こえた気がした。


「ミヤビさん、ありがとうございます。今日の夜はニュンフェ様直伝の新おっぱい技を披露してみせます」


俺たちが見守る中、2人はステラさんの元へと向かった。

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