第32話 移動する家

のんびりと休みを満喫した翌朝。


「もう立つのか。シリウス、陛下には宜しく伝えてくれ。我が騎士たちよ、友を頼む」


「「「「「はっ!!」」」」」


旅立つ前にウォーマリン伯爵が挨拶に来てくれた。


「安心してくれ。陛下には私からも責めない様に言っておくよ」


「そうか。本当に頼むぞ? それからミヤビ殿には世話になった。あとの事は任せよ。食生活はしっかりと守らせる」


「お願いします、ウォーマリン伯爵」


「……そういえば、シリウスの事は名前で呼んでいるのだったな? 私の事はカイルと呼んでくれ」


「分かりました、カイルさん」


「"さん"も無くても良いのだが……?」


「いえいえ、流石に立場ある目上の方を呼び捨てするほど肝が据わってないので、このままでお願いします」


「そうか、君がいいならそれで良い。困ったことがあったら、王都にいる妻の"ナルニア"を頼りなさい。シリウス同様に我が家も力を貸そう」


シリウスさんから話を聞いていたのか、ウォーマリン伯爵家の紋章が入ったコインを頂いた。これはノーブルコインと言って、親交のある者の立場を貴族家が保証すると同時に後ろ盾を意味する品だ。


例の事件解決後にシリウスさんから頂いたので2枚目になる。


やったーっ!伯爵家とのコネをゲットだぜ!!


「ありがとうごさいます」


直ぐに受け取って〈収納〉に保管した。〈アイテムボックス〉だと干渉して盗まれる恐れがあるからだ。


「おっと、そうだ。旅立つ前に君たちにも伝えないといけない事があった。実は近々王都で大きなオークションが開かれる。それに伴って奴隷商人の動きも活発でな。……怪しい動きを見せている貴族もいる。気を付けよ。特に"妖精"を守る法はない。奴らに取っては格好の獲物だろう。シリウスに聞けば警戒すべき家を教えてくれる筈だ」


ミュウに関する重要な事を教えて貰った。

王都に居る内はなるべく俺たちから離れない様にした方が良さそうだ。

妖精らしく、〈幻影〉や〈認識阻害〉で隠しておくのも1つの手かもしれない。


「それでは出発!!」


カイルさんたちに見送られながら王都へと向けて旅立った。


交易都市と王都間はおよそ3日を有する。


重要な物資が行き交う街道な為、盗賊による襲撃を警戒する必要が有るがーー。


「今日も大丈夫そうですね」


街道沿いに飛翔する竜やワイバーン。一定期間ごとに見かけるので巡回している様だ。


「我が国が誇る竜騎士だ。重要な街道での被害を抑え、緊急時には魔法を打ち上げると助けてくれるんだよ」


トップ層が竜種でドラゴンやワイバーンなどの保有数が世界一なだけに上手く活用されている。


「ん? シリウスさん、数頭こちらへ向かって来てますよ」


「おや、本当だね。街道沿いで何かあったのかもしれない」


"ガルルッ!!……バサッバサッ……!"

"ギャッギャッ!……バサッバサッ……!"


一頭の竜と二頭のワイバーンが降りてきた。竜は地上に降りすると光に包まれ女騎士の姿へと変わった。

その後、ワイバーンに騎乗していた同じ鎧の者たちと共にこちらへやって来た。


「朝から失礼。私は第3竜騎士団の副団長レティシアと申します。リュミエール伯爵様とお見受けしますが、相違有りませんでしょうか?」


「ああ、私がシリウス・リュミエール・メルディンだ。第3竜騎士団と言えば街道警護を行ってくれてる者たちだね。その副団長がどうしてこの場に?」


「実は部下から街道上に突然家が現れて、それが確認する度に移動しているとの報告を受けまして……」


彼女が目を向けたのは、俺たちの後ろにある建物だ。

俺が土魔法〈ガイアコントロール〉と木魔法〈植樹〉で作った簡易宿泊所である。


「「「「「「じぃーーーーっ」」」」」」


「…………」


大丈夫。何も言わなくて良い。俺が原因です。


「また報告では建物の側にはリュミエール伯爵家の馬車の目撃証言が有りましたので私が代表して確認に参った次第です」


「あ〜っ、これは我が家の簡易宿泊所?……でね。魔法で作った物だがかなり快適だよ。移動前にはちゃんと壊した筈だが……作る事自体が問題だったかな?」


自信なさそうに我が家の建物だと主張するシリウスさん。


もっと自信を持って下さい。無関係を装おうったてそうはいきませんよ!


「いえ、問題は有りません。ただ物珍しい事も有って少し騒ぎになっていただけです」


どうやら、部下やすれ違った商人たちによって噂になっていたみたいだ。


しかも商会ギルドでは新型魔導具ではないかと問い合わせが殺到しているのだとか。


コレを魔導具化したら売れるかな?……なんか、作れるそうな気がする。王都に着いたら試してみよう。


竜騎士さんたちは簡易宿泊所に触れて色々確認し始めたので、今の内にシリウスさんへ文句を言おう。


「よく考えると俺悪くないですよね? 羨ましくなったシリウスさんが作らせたから……」


「いや、だって、馬車での生活って結構キツいんだよ? 狭い閉鎖空間だし、汚物の匂いは香水で抑えるしかないし、夜くらいはベットで寝たいじゃないか」


馬車の中を見せてもらったが、対面座席が収納スペースになっていて、衣服等の保管やトイレの役割を担っていた。


また、扉が片面だけなので反対側の壁が加工され、折りたたみ式のテーブルになっていた。


寝る時はそのテーブルの高さを椅子と同じ高さに下げてベットにする。成人男性だと縦にも横にも寝れないので斜めに寝ることになる。


それに引き換え俺たちは魔法の練習と称して建物を作成し、アイテムボックスから出したベットで一晩寝るのだ。


途中から羨ましくなったシリウスさんと騎士さんたちが参加して常設化したのだ。


「確かに生活出来るようにしてあるとはいえ狭いですもんね」


それが原因で騒ぎになったのだからさっさと壊そう。


「そろそろ出発の準備を始めますので壊します。〈ガイアコントロール〉」


「あっ……」


天井や壁は土なので地面に戻し、柱にした木は掘り起こして〈アイテムボックス〉に収納した。

残念そうな声が聞こえたが、元々ないものなので諦めてほしい。


「残念です。街道の避難所に出来ればと思ったのですが……」


そこまでの強度はないよ。それに勝手に設置するのは、さすがの副団長権限でも難しいんじゃないかな?

実は身分がかなり高くて、街道沿いの開発に口を挟めるほどの影響力があるとかじゃない限りは。


「この子は冒険者だから依頼すれば作ってくれるのかもしれないよ?」


おい、こっちに振るな! そこの女騎士さんが目をキラキラさせてるじゃないですか!!


「こんなに小さいのに偉いのね!貴族の出かしら?」


「はやっ!?……あうっ」


一気に距離を詰められて、頭なでなでが始まった。


「おっ?…おおっ?……っ!?」


撫で下手だ、この人! しかも撫でるスピードがどんどんーー上がってっ!? やめて、撫でボッするからやめてぇえええ!!


このままでは髪が燃え尽きてしまうと思った所で、ノアに回収された。


今回のことで脱毛?に恐怖を覚えた俺は育毛魔法開発する事を決意した。


「貴方、私たちの騎士団に入らない? ライダー適性は乗らないと分からないけど……魔法技術に加えて、私の〈鑑定〉を防ぐだけの力を持って事は分かったし」


「あっ、やっぱり? 〈鑑定〉されたんですね。いつも感覚が違ったから気のせいかと思ったけど一応癖で」


これには同行していた竜騎士たちが目を丸くしていた。


「おそらく竜種の中でも高位が持つとされる固有スキル〈竜眼〉による鑑定ですね。〈神眼〉の下位互換と言われますが、地上においては最上位のモノになります」


「ブリギッテさんの腕輪がないとバレてた訳か」


危ない危ない。男の聖女だとバレる所だった。

女だと思った所に男だとバラしてこそ面白いのだ。


「シリウス様。何時でも出発出来ます」


「レティシア女史。君たちの確認が済んだのなら出発しても構わないかな? 今日中に王都へ着くにはもう出ないといけなくてね」


「ふむ。……出発前にちょっとした提案が有るのですが、先程の魔法を使って大きなバケット籠を作ることは可能でしょうか? この場の馬車が入るくらいの物を?」


「ん? どうだろう? ミヤビ、できるかな?」


バケット籠と言っても色々有るが、籠に取手の付いたタイプの方かな?

天井は四点編みを一つにした物で、籠の深さは馬の高さまで良いなら余裕で作れそうだ。


「問題なくいけます。尤も形状がこれで良ければですが……?〈ガイアコントロール〉」


土でバケット籠を作り、〈硬化〉させたので簡単には壊れない筈だ。


「お見事。思った通りの形です。これなら持ち運べます」


レティシアさんの提案とは、調査に協力してくれた例として王都まで籠を持ち運ぼうという物だった。


「馬車が四台もあるのでギリギリですが、一台空間に入れていいのなら問題ないです。軍事行動で3台運んだ事は有ります」


「どうします? 提案通りなら昼前に着きますね」


「せっかくのご好意だ。その提案を受けよう」


「なら、シリウスさんの馬車は俺が収納しておきます」


一番重いだろうシリウスさんの馬車は俺が収納した。


「俺たちも大丈夫だ。ロロアが中身を空にすれば多分入るとよぉ」


「喋ってないで入れて。これが最後よ。……それじゃあ、行くわね!入って!!」


日頃の練習の成果もあって、俺たちが使っていた馬車はロロアの〈アイテムボックス〉へと収納された。


「驚きました。全員が〈アイテムボックス〉を使えるパーティーなど他に類を見ませんね。リュミエール伯爵様は良い私兵をお持ちのようで」


「懇意にさせて貰っているが私のじゃないさ。尤も引退する時はウチに来て欲しいけどね」


ダルクは喜んだ。ロロアと結婚したいと思っていたからだ。年齢もさることながら結婚生活を考えるとこれは引退するチャンーー


「いひゃい!!」


「へんなナレーションするのは、このよく伸びる口かな〜? まだまだ辞めないし、辞めさせないわよ。それより、いつ私たちが付き合ってるって気付いたのかしらこの子?」


「俺は言ってねよ。ソーマたちにもな。それよりミヤビ。誰が歳だ!誰が!若いわ!! あと、まだ辞める気はねぇよ。せめて、Sランクになってからだ。それで何故分かった」


「みりぃ〜じょほうです〜」


「ああ、なるほど。匂いか!」


メンバーの色恋に驚いて固まっていたソーマだったが、二人の関係がバレた理由に思い当たり復活した。


「ちょっ、ミヤビ!? あっ、ロロア怖いにゃ? えっ、何で木陰に連れて行こうとするにゃ!? 止めて欲しい……にゃにゃやややっ!?」


ミリーの犠牲は忘れない。よき猫獣人であった。隠れて餌付けするくらいに。


「彼らは囲って正解です。もしもの時は俺からも宜しくお願いします」


「ああ、うん。分かったよ」


パンパカパーン♪ミヤビは言質をゲットした。


それからロロアとミリーの戯れ合いが終わるのを待って籠に乗る。竜化したレティシアさんが籠を持って飛び上がった。


「かっ、風がヤバい!〈エアシールド〉」


「ガルッ、ガルルッ(あっ、ごめんなさい。忘れていたわ)」


飛ばされそうな突風を風の膜で受け流す。

風が無くなり、持ち手が一つなので揺れの影響も少なく快適だ。

王都に着くまで飛べた者たちに許された広い世界を楽しんだ。


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