第28話 襲撃

「おはようございます」


空間魔法〈アイテムボックス〉を習得した礼に夜番を変わって貰い、昨日はぐっすりと寝る事が出来た。


「……って、ずっとやっていたんですか?」


起きてみると"火竜の牙"の面々が眠そうにしながら収納を繰り返していた。


「ふふっ、聞いてくれ。俺とミリーはとうとう〈アイテムボックス〉を習得したぞ!」

「一夜で習得した私を褒めて欲しいにゃ。今なら頭なでなでを許可するにゃ」


「よく頑張りましたね。なでなで。おお……気持ちいい」


ふわサラな質感と倒してもピンッと立つ猫耳。実に素晴らしい!ついでに顎も撫でちゃおっと。


「猫耳……そんなに良いんですか?」


ノアがジト目をしているけど、それはそれでご褒美です。ありがとうございます。


「ゴロゴロ……zzz」

「……悪い。夢中になって交代で寝るのを忘れてた。昼の最初を頼めねぇか?」


問題無いので、イレギュラーから発生しない限りは時間まで寝てもらう事にした。






襲撃の可能性がある森へと近付くタイミングで起きてもらった。


「最初の内は収納物を少なくするか、リストを作る事をオススメします」


寝起きで〈アイテムボックス〉を習得したのが夢と思ったようなのでの授業を再開した。


「良かった。夢じゃなかった……」

「ちゃんと出来るにゃ。という事は頭を撫でさせたのも現実にゃ?」


「はい。良い撫で心地でした」


「にゃは〜〜っ、まぁ、ミヤビは女の子だから問題ないにゃ。尻尾も触れせてないしセーフ」


「ん? 男だと不味いですか?」


彼らに性別を明かしていないから女の子だと認識されているようだ。


「撫でさせるのは家族や恋人みたいな親しい者にゃ。だから、番にならないかと誘っている様な物なのにゃ。それが尻尾だと子作りしよう言ってる様なもので、その上で触ったら番になるにゃ」


「………」


やべぇ。触らなくて良かった。なでなでが気持ち良かったのか、尻尾の許可が降りたんだよね。


でも、ノアの視線がどんどん痛くなってきたから泣く泣く諦めたけど、そのお陰で助かった。


「あら、尻尾は許可してたわよ」

「にゃっ!?」


ここでしっかりと聞いていたらしいロロアさんが参入してきた。


「大丈夫。細くて揺れ動く尻尾はすごく魅力的だったけど触ってません!」


右に行ったり左に行ったりする尻尾を見ながら俺は事実を訴えた。


「……にゃあ、ミヤビなら触っても問題ないにゃ」


しかし、ミリーさんは女同士だからと気軽に薦めてくる。


「だっ、ダメです。番になってしまいます」


「番って……女の子同士でもイける派なの?」

「そういえば、禁欲でシスター同士がなんて話を聞いた事があるにゃ。ノアともかなり仲良いにゃ」


不味いことにレズ疑惑が立ち始めてしまった。


「違います。自分は……男です」


「「へっ?」」


二人が硬直したのでノアを召喚。事情説明を彼女に任せた。


「ににゃっ!? ミヤビ、男にゃ?」

「しかも2人はデキてると?」


上から下まで何度見ても信じられないのか、二人は困惑している。


「仕方ありません。こうなったら私を屈服させたミヤビさんの聖槍を見せるしか……」


「止めて。さすがにそれは色々不味い」


視姦プレイは専門外。恥ずかしい所じゃ済まないよ!パーティークラッシャーになる可能性だって有るんだから!!


ほら、ノアの言葉でめっちゃナニの部分に興味持ったらしく凝視しているよ。


「ささっ、敵さんが近いし警戒してね」


タイミング良く、魔力感知で1km先に人が集まっていることを確認した。

御者台に座るダルクさんとソーマさんに伝えると直ぐにシリウスさんへ報告に行った。


「……分かった。馬車を停車させて調査を出そう」


シリウスさんの指示で馬車を停めて、ソーマさんとミリーさん、騎士を一人加えた三人を先行させる。


数十分後、三人は無事に戻ってきた。


「強い人はいないようだけど、 相手側は30人近く居たよ」


「騎士に確認して貰ったら、子爵の兵が混じっていたにゃ」


「……勝てると思うか?」


「「もちろん」」


「分かった。俺は二人に賭けるぜ」


「戦いに関して提案が有ります。それはーー」


意見を出し合い纏まったところで行動を開始する。


「それでは気付いていない風を装い、襲撃と同時に先制して殲滅する」


再び馬車は襲撃地点へと向けて動き出した。


目的の場所は10分もしない内に到着した。

街道の幅が狭くて馬車の小回りが効かないのを狙った様だ。盗賊たちは周囲に別れて展開している。


「そこの場所よ、止まれ!!」


前方の街道にも人が集まっており、彼らは馬車を停車させた。


「リュミエール伯爵の一行とお見受けする。あなた方は既に包囲されている。大人しく子爵を此方に渡して欲しい。抵抗するならーー」


「放て!」


「〈アイスレイン〉」

「「「〈ファイヤーボール〉」」」

「「「〈エアボール〉」」」


「「「「「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」」」」」


「抜刀開始!」


シリウスさんの合図でロロアさんと騎士たちの先制攻撃が面白いように決まった。

運良く生き残った者たちは、剣によって抵抗する暇もなくその命を散らした。


「ヤバいぞ。前方は全滅だ!」

「さっさと誘拐してズラかるぞ!!」

「ーーっ、今ならチャンスだ!後方の騎士たちが前方の応援に向かった!」


横に展開していた者たちも襲ってくると思ったが、隙だらけとなった罪人の檻に気付いてそちらへと向かった。


後方に馬を待機させていたらしく、檻に繋いで逃げるつもりの様だ。


「う〜ん、一箇所に集まってはダメと学んだんじゃないのかな? 〈グラビティ〉」


「「「「あ゛がっーーーーー!?」」」」


『学習できなかったから今があるんだよ〈ウッドバインド〉』


檻の罪人を巻き込んで盗賊たちを地面に縫い付けた。端から檻を罠にすべく、騎士たちは檻から離れたのだ。


そして、ミュウが盗賊たちを蔦で簀巻きにして拘束した。


「ソーマさんたちは残りの掃討をお願いします」


「任せてくれ」


重力魔法から逃れて森に逃げ込む者たちを回り込んでいたソーマさんたちが掃討して襲撃は幕を下ろした。


そう下ろした筈だったのだが……


「君はパーズ男爵家の四男じゃなかったかな?」


盗賊の頭候補という事で重症ながらも一命を取り留めた者が貴族だった。

しかも次に向かう領を治める者の息子だときている。もう面倒事の匂いしかしない。


「どうしたものかな?」


シリウスさんが悩むのも無理はない。このまま男爵領に入れば情報が流れるのは必然だ。

縁も切れてない様なので、罪の一部が男爵に向く可能性がある。その為、男爵領に居る内に取り返そうと躍起になるだろう。


「迂回しますか?」


「男爵領は狭いとはいえ、迂回するとなると次の街まで7日はみた方がいい。さすがに物資がちょっと厳しいねぇ」


「それでは垂れ幕で覆い隠すのはどうでしょう?」


「う〜ん、罪人への接触を減らせばイけるかな? ミヤビ君たちは認識阻害とか使えないかい?」


「出来なくないですが、大きさ的に効果は薄いですよ」


認識阻害は言葉の通り、人の認識を薄くして視線を逸らす魔法だ。その為、派手な服や大きい物など目立つ存在の場合、逸らしたとしてもまた目が行くので気付かれるのだ。


『幻術をかけるのはどう?』


「効果時間がまだ短いよね?」


『人目が有る場所と通過時だけに絞れば短時間で済むと思うの』


「垂れ幕に加えて、幻術なら見られてもバレない可能性は高いな」


「よし、それなら人目に触れる時間も短縮しよう。君たちには負担を強いる事にはなるがね」


シリウスさんの提案を聞いた俺たちは、その作戦に賛同することにした。







Side シリウス伯爵


4日目の夜。男爵領の領都へと到着した。


子爵たちが入れた檻は垂れ幕をした上で〈スリープ〉、〈無音サイレント〉、〈幻術ミラージュ〉の魔法によって捲れても大丈夫なように処理された。門番に罪人だと伝えると身分もあって中を確認する気はない様だ。


「リュミエール伯爵!こんな時間にお越しになられるとは一体何があったのでしょうか!?」


先駆けにより到着する事を知った男爵は慌てた様子でやって来た。


「夜分に済まないね、パーズ男爵。道中、盗賊の襲撃を受けて日程が狂ってしまったのさ。本当なら昼に着く予定だったのだけどね。今から宿を取るのは大変だし、明日の朝には出発するから彼らを門の近くで野営させても構わないかい?」


「それは災難でしたな。分かりました。野営を認めましょう」


「助かるよ。それから人を近付けないようにしてくれ。罪人を狙った襲撃だった事も有って、彼らは気が立っている。不用意に近付けば無駄な争いに発展しかねない」


「分かりました。衛兵たちに伝えましょう。……話は代わりますが伯爵様は既に宿をお取りになっておりますか? もし、伯爵様が宜しければ我が家へ宿泊致しませんか?息子たちも会ってみたいと申しておりまして……」


「それじゃあお願いしようかね。この機会に友好を深めるのも悪くはない」


シャロンはやるつもりは一切ないがな。

予想通り、娘の婿にどうかと息子たちを薦める男爵の話に合わせつつ、四男の情報を聞き出した。


子爵に仕えている事は知らなかったが、たまに連絡を取り合っている様だ。


「あやつは正妻の子でしてね。問題ばかり起こし金を握らせ黙らせる事もしばしば……。ですが、長兄に何かあった際の保険なので切るに切れないのですわ」


酒が入り、口が軽くなった男爵は色々教えてくれた。


話によっては眉を顰めるものや犯罪に片足を入れている様なものまで聞いてしまい、早々にこの地を離れる事を決意した。


「済まないね。ミュウちゃん」


『大丈夫です。ミヤビさんからしっかりエネルギーは補給して貰いましたから』


妖精特有のアレコレという事で、ミヤビ君と一緒に1時間ほど離れていたな。彼が遠い目をしていたのでよく覚えている。


『夜間の護衛は任せて下さい。誰も入れません』


ミヤビ君にミュウちゃんを付けて貰って夜を過ごした。


『夫人さんとお嬢さんでしたっけ? 夜這いに来たので驚かせて追い返しておきました』


スーッと血の気が引いた。危ない危ない。罪人がバレない事を優先するあまり、罠に掛かる所だった。彼女を付けてくれたミヤビ君に感謝をしなければ。


それから男爵と朝食を取った後、待機させていた皆と合流して街を発った。


男爵はこちらの提案を聞いてくれたらしく、接触する者はいなかったらしい。


だが、伯爵領の街に入ればバレる可能性がある。どうしたものか?


そうだ。最寄りの街を迂回して直接ウォーマリン伯爵の領都へと入ろう。そこまで行ってしまえば、バレたとしても彼にはどうする事も出来ない筈だ。


「よし、皆に提案ーー」


「ーーー!!いらっしゃったぞ!!」


アレは私たちを後追いしていた商人……嫌な予感がする。


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