第27話 移送開始

子爵の移送が始まった。


編成は前列から騎士、冒険者、伯爵、罪人、騎士という順で隊列を組んで移動する。問題発生時には馬車を止めて冒険者が対処にあたり、騎士が伯爵を護衛する事になっている。


「出してくれ!私は命令を忠実にこなしただけなんだぁぁ!!」


未だに檻で騒いでる奴がいるが、それはコリントンだけだ。他は自分の未来に絶望しているのか、下を向いて動こうとしない。


彼らは曲りなりにも貴族家の出身という事もあって、裁判にかける必要が有るので一緒に王都へ移送する事になった。


そして、肝心の子爵は一切喋らず、俺と目が合ってからはぶるぶると震えている。しっかりとトラウマを植え付けることができたようだ。


「……少し静かにしようか。〈サイレント〉〈スリープ〉」


「「「「「ーーー! zzz……」」」」」


煩いと周囲の確認に影響がでる。全員まとめて魔法で眠らせ静かにした。


「さすがミヤビさん。いつ見ても流れるような魔法捌きです」


「………(ごしごし)」


勘違いかと思って目を擦ったが気のせいではなかった。


「なんで、ノアがいるの?」


「まさか、アレだけ愛し合っておいて捨てていかれるのですか!?」


「そんなつまりなら眷属になんかしません」


俺の神格では眷属に出来る数は三体と決まっている。それ程までに貴重なのだ。


「ですよね!分かっていますとも!!」


抱き締めてから頭なでなでするノア。

嬉しそうなのは良いが、そのおっぱいに溺れる俺を助けて……。天国なのに息が出来ないよ……。


『ミヤビが死にかけてるよ』


ミュウのお陰で助かった。三途の川で死んだ婆さんの代理に呼び止められ無ければ渡っていたよ。

いや、代理って何? 異世界だからなの!?


ノアから離れると凄く寂しそうにするので、腕に収まり後ろから抱きしめさせる形で落ち着いた。


「……俺が聞きたいのは教会の仕事は良いの? 司祭も助祭も不在でしょ?」


「元々、タイミング良くその場に居たから代行していただけで私の仕事じゃ有りません。でも、見て見ぬ振りして放置するのもアレなのでカノンにスパルタで仕込んでから来ました。ちなみに本部に"司祭"の推薦もしてます」


「えっ?」


なんか最近姿を見ないと思ったら一気に出世してた。


「司祭は直ぐにでも必要ですが、探すとなると時間が掛かるのであの子たちを直接鍛えた方が早かったんです。それにミヤビさんの指導もあって、あの子たちの回復魔法の腕前は上がりましたので早く済みました」


司祭には最低でも神聖魔法Lv.5に達し、〈ハイヒール〉や〈キュア〉を使える事が求められる。


そんな中、彼女は神聖魔法Lv.6に達して〈エリアハイヒール〉まで使えるようになった。


「あと司祭までなら私の権限で後押し出来ますからね。助祭はシスターたちの中からカノンに選んで貰いましょう。どの子でも問題ないので」


シスターたちは神聖魔法Lv.4で〈エリアヒール〉を使えるので能力的には問題ない。


「…………」


よく考えると普通の司祭は〈ハイヒール〉が使えるか使えないかだった気がするが……深く考えないようにしよう。


「それでは出発する!!」


俺たちは冒険者パーティー"火竜の牙"と同じ馬車に乗り込んだ。


「よう、ミヤビ。今回は宜しくな。紹介するよ。これがウチのメンバーだ。斥候のソーマとミリー、剣士のリオン、魔法使いのロロアだ」


「ソーマだ。その節は回復ありがとな。戦闘時は弓と短剣で遊撃をする」

「ミリーだにゃ。ウチは短剣だけにゃ」

「リオンだ。パーティーの盾士も兼任している」

「ロロアよ。回復魔法は出来ないけど、魔法による火力支援は任せてね」


リーダーのダルクさんも大剣を背負っているので、前衛は剣と盾を持ったリオンさんとの二枚看板のようだ。

ソーマさんは弓で遊撃しながら短剣で接近戦も熟し、ミリーは獣人の身体能力を活かして遊撃一本。

ロロアさんは後方から魔法攻撃をするという構成らしい。


「ミヤビです。後方から魔法攻撃と回復を行います」

「ノアです。前衛もいけますが邪魔になりそうなので付与と回復要員に徹します」


これならお互いに邪魔することもなく支援できるだろう。


「そんじゃ、ミヤビたちが初めての護衛依頼みたいだから確認も兼ねて流れをもう一度説明するな。まずはーー」


最終目的地である王都までの道のりは【ウォーマリン伯爵領】と【パーズ男爵領】の二領を通過する。


伯爵領の街で2度、男爵領の街で1度宿泊する。それ以外は野宿。


また、最初の街がある男爵領までの道中で残党による襲撃の可能性有り。


「……襲撃場所がバラけてはいるが、森の中なのは確かだ。2日目から4日目は特に注意してくれ」


その後、交代で見張りに付くが特に問題も無く馬車を走らせ、1日目のキャンプ地へと辿り着いた。馬車を停めれるだけの開けた場所で近くを川が流れている。


俺たちの後に付いてきた商人隊の人たちもここでキャンプをするようだ。少し距離をおいて野営の準備をしている。


「まずは火起こし場を探すんだ。川辺なら増水しても大丈夫なように距離を置くか、少し丘になっている場所の近くに有る筈だ」


ダルクさんとソーマさんから野営の基礎を教わりながら薪と火起こし場を探す。言われた通りに探してみたら、小高い丘になった場所に火を起こした跡があった。


そこを中心に騎士たちが簡易テントが設置していく。シリウスさんの馬車もここに置かれるようだ。貴族用の馬車は内部に生活スペースがあるのでそこで寝起きするらしい。


「……やはり日中から準備するんですね」


「あぁ、夜の森を散策するのは危険だからな。何事も明るいうちに行うのが鉄則だ」


「夕暮れからだと場所や季節で日が沈むのが早いから人手が多くない限りはそうした方が良いんだよ」


やはりそういう基礎はベテランに教えて貰うに限る。

俺は説明を受けながら竈を作った。火起こし場の地面を〈土魔法〉で隆起させて囲い込み硬化させ、回収してきた薪を中へと入れた。


「「………」」


「あれ?何かマズかったですか?火は隠した方が良いと聞いていたので、使い易く改良したのですが?」


「あっ、いや、そういう訳じゃないんだ。しっかりとした竈ができたことに驚いてね」


「火を隠すのも悪くないよ。魔物は関係なく襲って来るし、むしろリスクが増えるさえある。護衛の人数が多くない限り、隠すのが一般的だ」


という事なので問題なく竈を使う事が出来そうだ。やっぱり使い易い方がいいよね。


「料理を始めちゃいますね。夜は冷えるかもしれないし、汁物にしよう。〈アクア〉」


竈に設置して大鍋に生活魔法で水を注ぎ、アイテムボックスから刻んでおいた野菜を入れて煮込む。

その間にボアの肉も取り出し〈ヒート〉で加熱したフライパンで炒めてアイテムボックスに戻す。

野菜に火が通った後、肉と味噌を加えて一煮立ちすることで豚汁の完成だ。


「うん、やっぱりアイテムボックス持ちがいると便利だな。羨ましいよ」


「そうだな。有ればクエストがもっと楽になるんだが……」


「教えましょうか?」


「「えっ?」」


「てっきり皆さんは既に使えるものだと思ってました。スキルでなく魔法によるものなので教えられますよ?」


「それは本当か!?」


「報酬はどうしよう? さすがにタダで教えて貰う訳にいかないし」


「でしたら、報酬として野営の豆知識や経験を追加で教えてくれると助かります」


「わかった。それで問題ないかを皆に話してくる」


ダルクさんがメンバーの所へ行ってる間にソーマさんと一緒に豚汁を完成させた。


「うん、いい匂い」


「食べるのが楽しみだよ」


すぐにでも〈アイテムボックス〉を教えて欲しいそうだが、食べてから行うことにした。


「「「「「美味い!!」」」」」


「ミヤビさんの手料理は安心します。教会で毎日のように作って貰ってましたし」


「美味いな、これっ?!普段使う野菜がいつも以上に美味いぞ!!」

「原因はスープかな? 見慣れない物を溶かしていたし」

「くんくん……あっ、私知ってる。これ、お味噌だ!一度食べた事があるよ!!」

「身体がポカポカして良いわね。何処で買ったの?」


大丈夫かな?と思ったが好評のようだ。


「ダエラーグ商会で売ってますよ。長期間保存出来るから携帯に便利です」


「リーダー。今度買ってきて!」

「お金は個人マネーでお願いします」

「メンバーの志気が好調するから買うわよね」

「……リーダーをパシるメンバーってどうよ?」


「俺に聞かれても困ります。賑やかな面子で良いではないですか」


そんな風に賑やかな食事を終えてからアイテムボックスの習得を目指した。






「まずは収納時の感覚を把握する事です。皆さんは魔力の流れを感じられるみたいなので使う時に意識してみて下さい」


"火竜の牙"が所有している魔法袋を使い、物の出し入れする際の魔力を認識させた。


「魔力の揺らぎというか……そういう感覚を把握出来ましたか?」


さすがは高位冒険者の皆さんだ。感覚を掴むことが出来たようで頷いている。


「それでは目を瞑り、自分の中に収納スペースをイメージします。使える人は箱やら倉庫やらをイメージしろと言いますが……、イメージするのは家です」


「家?」


「単純な家で良いんです。何処にでも有るようなそんな家をしっかりとイメージします。そして、扉を開けて中に入り、部屋を見渡せさえすれば一先ずは問題有りません」


ここまでは教会のシスターたちも行う事ができた。


「先程、収納する時に感じてもらった魔力の揺らぎを覚えていますか?……大丈夫ですね。それでは貴方は家の扉に手を掛けます。開けると同時に"石よ入れ"と言って揺らぎを思い出し下さい」


「「「「石よ入れ!」」」」


「はっ、えっ?」

「嘘っ!?」


すると効果は劇的だ。練習の為に手に持っていた石が収納された事で重さが消えて驚きの声が上がる。


「できた!できたわ!!」

「俺もできたぞ!!」


「えっ、マジでっ!?」

「私、出来てないにゃっ!?」


「ロロアさんは魔法に馴染みが深い分早いと思いましたが、ソーマさんも出来たんですね。おめでとうございます。部屋の中で石を掴み、扉を閉めるイメージで揺らぎを意識しつつ"出ろ"と念じると出せますよ」


「……出ろ! おおっ、出来た!? すげぇええ!!」

「ミヤビちゃん!貴方最高よっ!!(チュ)」


「むっ……」


嬉しさのあまりロロアさんは抱き着いてきて頬っぺたキスをした。

それ嫉妬したノアが俺を回収した。


「うう〜っ、悔しいにゃ〜」

「お前たちズル過ぎだろっ!!」


「大丈夫ですよ。練習すればお二人も使える様になりますから。収納時の感覚を確認して、もう一度挑戦してみて下さい」


ダルクさんとミリーさんは二人に負けじと魔法袋を取り合いながら再度確認を始めた。


「ソーマさんとロロアさんは回数を重ねて感覚を掴んで下さい。理想は"入れ"と念じれば入るのが当たり前だと思うようになる事です。そしたら拡張の練習に入れます」


「拡張ってどうやるの?」


「そこからは魔力量に影響しますが、家を改装してもう一軒の家と繋げるイメージですね。箱や倉庫だと拡張イメージがしずらいので」


「なるほど。だから、イメージが家だったのか!」


イメージの理由に納得した所で、2人も石の収納を繰り返し始めた。

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