第26話 種の価値

「早速ですが、今回と同じ品質の種を継続的に入手することは可能でしょうか?」


キルリーフの種の交渉は商会長のマーガレットさんではなく、補佐のカトレアさんが受け持つようだ。隣でミュウとお菓子を食べながら俺たちの成り行きを見守っている。


「可能ですよ。一個体から7〜15個ほど入手出来ますし、翌日には復活しているので」


「一個体に付き一個ではないのですか!?」


やはりそう思われていたようだ。これにはマーガレットさんも驚き食べる手を止めている。


「私たちが行うのは特殊な採取方法で、死のリスクが倍以上に跳ね上がる代わりに数を入手出来ます。また、他の冒険者が同じ事をする場合は人数を必要とするでしょう」


「そんな危険な事をして手に入れた物だったのかい?」


「……もし、他の冒険者が行うとすればどれくらいの規模になりますか?」


「安全マージンはしっかりと取ってるから大丈夫です。それとギルドの見解通りなら……最低でも魔法使いが10人。下手したら倍は必要かもしれないって言われましたね」


『私とミヤビなら2人で十分なのにね〜』


シャロンさんに魔法使いを紹介して貰い〈ストーンウォール〉を使ってみた所、基本30cm前後で頑張って50cmがやっとであった。


そんな訳でバレても構わないので採取方法を二人へと説明した。


「「…………」」


2人には絶句されてしまった。


「……そっ、そういえばレア度は確認されましたか?」


秘技、話題逸らし!こういう時は別の話へ逃げるに限る。


「いえ、〈鑑定〉を行える者が出払っていましたので……。ギルドからはレア度6と聞いてます」


「その通りです。採取方法を変えるだけで、レア度1の物がレア度6にまで上がりました」


「そりゃあ、良い油が採れた訳だ。味よし、香りよし、塗ってよしで最高だったよ」


「そんなに良かったんですか?」


「万能油として売り出した筈なのにヘアオイルとして話題になりました。この髪にも使っているのですよ!」


カトレアさんは髪を解いて、長い髪をサラッとかき上げた。

美人さんがすると凄く色っぽいな!

オイル効果なのか、よく見ると髪に艶があり天使の輪まで出来ていた。


「尤も母さんは相変わらず揚げ物の油にしてるみたいですが……」


「そりゃあ、カラッと上がってベタ付きも少ないからね。それにほんのり甘い香りも伴って揚げ菓子がより美味しくなるから使うさね」


これも一種の色気より食い気というやつなのかもしれない。


「……それでは話を戻しまして、採取はミヤビさんにお任せするのがお安くつきそうですね」


「そうして貰うと助かります。自分たちのせいで死人が出たとか聞いた人には後悔しそうなので。それで種はどれくらい欲しいのですか?」


「そうですね。今の状況から考えるに……月に100個欲しいのですが可能でしょうか?」


月に100個なら1日で回収出来なくないし、問題は無さそうだ。


「それなら可「もう少し増やせないかい?」ーーマーガレットさん?」


「話に割り込んで悪いね。さっきの採取量の話が本当ならもう少し増やせないかと思ってね」


「母さん? 100個でも十分に多いし、要望を満たせると思ったのだけど?」


「そうさね。私も最低ラインとしては問題ないと思うよ。それでここからは使ってみた私の感想なんだが……他の用途にも使えそうなのさ。例えば香水の中にはオイルを少量使った物が有る。それをキルリーフの種油で代用すれば新しい物が生み出せると思うだ。それに多く仕入れても売れ残る事はないと私は見ているよ」


「……確かにヘアオイルで人気になっているし、ウチの関連部署なら香りを活かした香水を新しく作れる可能性はある」


カトレアさんは少し悩んだ後に『最大何個までなら可能か?』と尋ねてきた。


「余裕を持った1日の採取量を考えて……月に200個くらいが良いかな? 頑張ればもっといけるけど色々やりたい事があるし」


「200個……それなら失敗しても売り払う事は可能性ですね。私はこれで良いと思うけど母さんは?」


「私も問題ないよ。むしろ、新しい物を売れるからワクワクしてるくらいさ」


という事で納品個数は問題なく決まった。

次が本命の値段交渉。ギルド情報では次回から1個に付き銀貨1枚は堅いようだ。


「それでは1個に付き小銀貨3枚……月に金貨12枚は如何でしょうか?」


おおっと、いきなり最低ライン以下とは……。事前情報が無ければ言われるままにサインしていたよ。


「ギルドの方が買取り額が圧倒的に良いですね。金貨40枚。大金貨4枚でも良いよ」


「知ってましたか。それにしては高くないですか? 金貨24枚」


1個当たり小銀貨6枚って所か。せめて、8枚はいきたいな。その為に倍でふっかけた訳だし


「ギルドを中継すれば高くなるよね? それを直接卸すんだから金貨34枚くらいはねぇ〜」


「……分かりました。金貨32枚はどうですか?」


「良いの? ヤッター!それでお願いします!!」


ふう〜っ、なんとかノルマの金額で交渉出来たぜ。

しかし、今回の事で分かった。俺は値段交渉に無理。今後の為にも誰か良い人材はいないかな?


「それでは契約書にサインを」


魔法処理の施された契約書が用意され、取り決めが記載されている。


・月に200個納品すること

・採取方法を口外しない

・新商品の販売に際して、再度値段交渉の場を設ける


最後の文言は急ぎ追加して貰った。

美容にかける女性の情熱はヤバい。もし売れようものなら増量を求められるだろう。その際に値段が今のままで有れば損をすると思ったからだ。


「はい、問題ないです」


無事に交渉を終える事ができた。

早速ダンジョンへと行って、その日の内にキルリーフの種を納品した。


「早速オイルを購入しても? あと香水が完成したら自分も欲しいです」


「えぇ、優先してお売り致しますわ」


渡した種で作ったオイルの一部を貰い受けた後、マーガレットさんの所へと向かった。


「頼まれたコーヒー豆を用意しておいたよ。1袋で銀貨5枚(2万5千円)だ」


思った以上に高額だった。スーパーにある市販のコーヒー豆2袋分くらいの量でこの値段である。


「それとコレが要望にあったウチが取り扱っている商品のリストだよ。今後ともよろしくさね」


お願いしていたのは取り扱っている食品のリスト。異世界と言う割に勇者の活躍で向こうの食材が色々ある事に気付いたからだ。


案の定、米や醤油、味噌なんかも取り扱っていたよ。値段が異様に高いけれどさ。

俺はその内の幾つかを注文して商会を後にした。


その日の夜。搾りたてのオイルが入った小瓶をノアにプレゼントした。


「……匂いが良いですね」


蓋を開けて香りを嗅ぎ、手に出して確認する。


「それに滑りが……あっ」


瓶に付いたオイルで手を滑らせ小瓶がおっぱいに乗る。横になってトクトクと谷間に流れ出す小瓶を急ぎ回収した。


「そういえば、これは試していませんでしたね」


当然ながら間に合わず、零れたオイルが谷間のホクロをいつも以上に強調し、怪しい色香を漂わせる。


「ささっ、ベットに向かいましょう」


ノアが部屋の鍵を掛けた。

やっぱり俺よりノアの方が色好きなんじゃないだろうかと思いながらも誘惑につられました。






それから1週間もしない内にキルリーフの香水が売り出された。


予想通り、女性からの爆発的な人気を得て注文が後を絶たないようだ。


そのせいか、キルリーフを狩って納品する冒険者が増えたようだ。

しかし、低品質だと効果を得られないので買取り金額はそのまま。まだまだバレずに稼げそうで安心した。


「金貨40枚でお願いします」


急ぎ追加200個を届けたら金貨40枚になっており目が飛び出る程に驚いた。


「どんどん売れるんです! でも、種の納品数に限りが有るから製品の販売数を絞る必要があって自然と値段が上がり……」


利益がエグい事になっている様だ。

十分懐が潤っているので妙に利益を求めず流されるままに受け入れる事にした。








それから数日後、シリウスさんに官庁へと呼び出された。


「久しぶりだね。遠征の準備は出来ているかい?」


「はい、何時でもいけます」


「そうか、それは良かった。2日後には領都を出るから忘れ物がないようにね」


ダエラーグ商会で多量購入してアイテムボックスに詰め込んだからそうそう尽きる事はないだろう。


「今日、君を呼んだのは会ってもらいたい人がいるからだ。彼を呼んでもらっていいかな?」


秘書が部屋を出ると、冒険者風の男性を連れてきた。


「ミヤビ君。彼は冒険者のダルク。今回の護衛団のリーダーを務めて貰うことになる」


「ダルクだ。俺個人はAランク で、Bランクパーティー"火竜の牙"のリーダーをしている。噂は色々聞いてぜ。それに決闘では儲けさせてもらったよ!」


彼はそこそこ儲けたらしく凄くいい笑顔だ。


「ミヤビです。護衛依頼は初めてなのでよろしくお願いします」


「今回、場を設けたのは護衛ルートの打ち合わせというのもあるが、彼が君に直接お礼を言いたかったからなんだ」


「お礼?」


「ああ、配当金のこともそうだが、メインはうちのメンバーの事だ。君を忘れているかもしれないが、ダンジョンの罠による大怪我を治療して貰ったんだ」


詳しく話を聞いてみると、もの凄く申し訳なくなった。

何故ならそのメンバーさんは俺が覚えたての〈エクストラヒール〉の練習台にした人だった。記憶が確かなら内臓損傷に加え、手首を欠損していたのでノアの〈ハイヒール〉でも癒す事が出来ず、俺が練習になると率先した行ったのだ。


「……その後に痛みや違和感とかは無さそうですか?」


「ピンピンしているよ。むしろ以前より調子が良くて煩いくらいだよ」


良かった。〈鑑定〉で大丈夫だと知っていてもその後を知るとホッとする。


「今回の依頼でも回復をお願いしても良いかな? むろん戦闘にも参加して貰っても構わないよ。実力の一端は決闘で見たからね」


回復要員をしつつ、魔法支援する事で話は決まった。


「それじゃあ、ルートなんだけど……この辺りで襲撃の可能性がある」


どうやら決闘以降に商人が襲われる事が頻発しているらしい。


「子爵の所の残党ですかね? 迂回する事は出来ないのですか?」


「日程的に可能だが、私としては被害がこれ以上増える前に潰したい所なんだよ。それに今なら戦力に余裕が有るしね」


そう言って、シリウスさんは俺にウインクした。


「そういえば、噂によると多対一の方が得意なんだって?」


「広域魔法をぶっぱなせますから!」


「ははっ、期待してるよ」


護衛ルートの選定と役割分担はすんなりと終わり、あっという間に移送当日を迎えた。

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