第25話 ダエラーグ商会

上級悪魔リゲルの経緯について、ノアが神託を得たので教えてくれた。


「ーーという事なのだそうです」


「なるほど。それしても〈闇魔法〉による認識改竄か……恐ろしいな。何か対策は無いのかな?」


「こればかりは魔法防御力を上げるか、レベル差で弾くかしないと難しいようです。或いはダンジョン産のアイテムに期待するかですかね?」


「あっ、魔法防御力を上げれば良いんですね! なら、やりようは有るよ」


「それは一体……?」


「凄く単純で簡単な方法だよ」


俺がミューにされた事ですね。


実は自分以外の魔力が体内に入ると反発して抵抗値が上がるのだ。それを利用して魔力を含んだ体液の摂取や回復魔法、付与魔法などにより魔法防御力を上げることが出来る。


「ただ、同じ魔法ばかりで魔法防御力を上げてしまうと耐性が出来て効果をあまり得られなくなる事も有るので止めるべきです。ですが、今回はあえて闇魔法の〈催眠〉を使いましょう」


認識改竄は〈催眠〉による暗示の一種だ。これなら洗脳への対策にもなるので良い筈だ。


「……という事でベットに行きましょう」


まぁ、催眠といえば動物なりきりプレイとか考えちゃうよね。雌牛さんにでもなって貰おうかな?


ちなみに触手魔法でアレコレするのも魔法防御力が上がるのはミューが立証済み(誰にどうやったかは言わないが……)。


だから使うのは仕方ない。いや、積極的に使うべきだ!これも魔法防御力を上げる為だからな!!


その後、部屋に一日閉じこもり元々高ったノアのMND(精神力・魔法防御力・回復力)の数値が最高のSSSに到達しました。回復力も上がったので喜んでいます。


ただ、行為中の記憶は俺も暴走したので忘れて貰ったが、身体はしっかり覚えてるようで熱っぽい視線を向けられる事が増えました。






カノンに『イチャコラし過ぎるな、冒険者なら依頼を受けろ! あとノア様も仕事して!!』と一日サボらせたくらいで教会を追い出されたので冒険者ギルドにやって来た。


まぁ、元々呼び出されていたので行くつもりはあったけどね。


「指名依頼が2つ入っています」


「指名依頼ってCランクからじゃなかったっけ?」


「護衛依頼を受けていないからであって、実質Cランクなので問題ありません。そもそも依頼の一つは護衛依頼です」


クエストの内容を見せてもらうと内容は『子爵の王都への移送』に同行してくれというものだった。


伯爵様にお願いされていた件だ。護衛依頼という形にしてくれたらしい。


「実は子爵の配下の数人が未だに捕まっていません。移送途中の襲撃も視野に入れる必要があります」


「その時はまた重力魔法の出番だね。任せてよ!!」


「ミヤビさんは初の護衛依頼なので、指導という事でベテランの冒険者が同行します。なので、彼らと協力すれば問題ないでしょう」


「分かったよ。それでもう一つの依頼は?」


「キルリーフの種に関するものです。以前納品された種の評判が良かったみたいで……」


前回の依頼人が納品した種から得られた油を販売した所、良質なこともあって話題を呼んび再販を希望されているそうだ。


「ただ……入手法が特殊であり、一般の冒険者には難しいと伝えた所、指名依頼となりました」


「報酬金額はいくら?」


「前回は適正価格が決まって無かった為に低品質と一緒の値段になりましたが、今回はなんと1つにつき小銀貨1枚です!」


誰でも採れる低品質な種が1つ銅貨1枚(500円)なのに対して、1つ小銀貨3枚(3,000円)という6倍もの値段がついていた。


「やります、やります。すぐにでも納品します!」


多分、俺の目は"金"になってる気がした。

安心、安全、高収入。こんなに良い儲け話はそうそう出会えないはずだ。


「それではコレを持って依頼人の【ダエラーグ商会】を訪ねて下さい。今日は商会長さんも本店にいらっしゃるそうなので」


商会の場所を教えてもらい早速向かった。







ダエラーグ商会。メルディンで活動していれば一度は耳にする商会だ。この地に本店を構え、王都にも店を出している。


主に取り扱っているのは、魔物素材やそれらを加工した品々。キルリーフの油はいい例だろう。


「ここだね」


『あっ、いい匂いがする!』


商会の前に作られた屋台から油を揚げる音と共に甘い匂いが漂ってくる。


「……チュロス?」


お客さんが手にしているのは、こんがりとした棒状の揚げ菓子だった。


しかし、練った生地を揚げるのではないようだ。お婆さんが丸太のような塊から棒状に切断して揚げている。


この世界に来て揚げている光景を初めて見たな。一体何を揚げているんだ?


「これはなんていう食べ物ですか?」


「おや、噂のお二人さんかい? これは"トレリア"というお菓子だよ。ダンジョンにいるトレントの亜種から採れた物をこんがり揚げて砂糖をまぶしたお菓子さ」


「トレント!?」


『じゃあ、これは【スクレント】の身体?』


「そうだよ。妖精は初めて見たけど賢いんだね」


「ミュウ。スクレントってどんな魔物なんだ?」


『さっき言ってたトレントの亜種で身体から砂糖を得られるよ』


「外皮を剥がすとこんな風に中は柔らかいんだよ。それを揚げた物がこのお菓子で、粉末にした物を水に漬け込んで処理すると砂糖になるのさ」


「2人分を下さい」


「はいよ。1本銅貨1枚ね」


早速購入して食べてみた。


「おおっ、全体的にカリッとしていて美味しいです。食べ応えも有るし。でも、……凄く甘いですね」


『ん〜〜っ、あまいぃ〜〜。最高ぉ〜〜』


ミュウには大変好評らしい。

なんだろう。この味何かに似てる気が……そう黒糖棒だ。黒糖棒似てるんだ。通りで甘い筈だ。

コーヒーが欲しくなる。勇者が何処かで広めてないかな?探せば普通に有りそうな気がする。


「あははっ、女の子に人気なのに嬢ちゃんには合わなかったか。それじゃあ、コレを飲むかい? アタシ個人のだけど」


噂をすれば、すぐに出会えた。

おばあさんがコップに注いでくれたのは黒くていい香りのする液体ーー


「コーヒーだ!? 頂戴!!」


「おや、こっちは知っていたのかい?まぁ、"木"の勇者様が広めた物の中でも有名だからね。でも、この国では珍しいだろ? 移送費もあって値段も然ることながら飲む人が少なくてね……」


「えっ、かなり高いの?」


高そうな雰囲気に受け取ろとした手が止まった。


「嬢ちゃんには私からの奢りだよ。嬢ちゃん……"青の聖女"様が気に入ったとなれば売れること間違いなしだからね」


まぁ、商売上手なお婆さんですこと。俺は遠慮せずにコーヒーを受け取った。


「うん、やっぱり合う。口直しに最高だよ」


コーヒー豆欲しいな。この商会で買えないかな?


「コーヒー豆ってここで買えるの?」


「買えなくはないよ。用とはいえ、店で販売できるくらいの量は購入させているからね」


凄いことを聞いた気がする。お婆さんは購入に口出しして個人用をねじ込める立場ってことですよね?


「それじゃあ、後で売ってもらえますか? これから商会長さんとの話し合いがあるので」


「んっ、私にかい? なにか、面会予約でもあったかね?」


Oh、やっぱり商会長ご本人さんでしたか?

そりゃあ、個人で欲しい商品を購入品目に追加出来ますわな。


「指名依頼の"キルリーフの種"の件で来ました」


「おおっ、アレの件かい! あの油は凄く良質で最高だったよ! どんな冒険者が取ってきたかをちっとも教えてもらえなかったが……そうか嬢ちゃんだったのかい?」


「頑張って2人で取りました」


『最初はビックリしたけど、沢山採れて面白かったよねぇ〜』


「びっくりしたと言えば、商会長さんがここでトレリアを売ってる事に驚きましたよ。てっきり、部屋で書類の山に埋もれているのかと……」


「それは去年の私だね。今じゃあ発言権は有るものの、仕事の大半を娘に譲ったからあの子の方が埋もれているさ。お陰で空き時間に趣味のお菓子売りを楽しんでいるよ」


業務で書類に埋もれはするんですね。


こっちの世界では木から作られる紙は有るも高価なので、一般的には羊皮紙が使われている。一枚一枚の厚さがあるので山になりやすのだ。


これは勇者でも解決は無理だった。

和紙の作り方は広まっている事から挑戦はしたようだが、適した木が見つけられなかったらしい。


「それじゃあ、中で話の擦り合わせをしようじゃないか」


「お菓子売りはいいの?」


「今のある分を揚げたら終わりだからウチのもんにやらせるさね」


お婆さんは商会のカウンターに向かって店番するように指示をすると中へと案内する。商会の中は雑貨屋らしく色々な加工品が棚に並べられていた。


「カトレア。今時間良いかい?」


お婆さんはノックも無しにとある部屋へと入ると書類に埋もれた女性に声を掛けた。


「ん? 母さん? まだお菓子を売ってる時間じゃなかった?」


「今の分を売ったら終わりさ。客人が来たからあとは店のもんに任せたよ」


「客人? どちら……あぁ、なるほど」


女性は上から下まで見た後、ミュウを見て確信を得たようだ。


「青の聖女様。ダエラーグ商会へようこそ。さぁ、お座り下さい。キルリーフの件を話し合いましょう」


「……なぜ分かったのか聞いても?」


「青の法衣に長い黒髪。妖精連れとなると自ずと正体は分かります。また、風の噂では"青の聖女"様は冒険者をしているという話を聞いてました。それに冒険者ギルドは伏せていましたが、前回高品質な種を納品してくれたのは貴方だという話を得ましたので依頼させて頂きました」


「おぉ、さすがは商人さん。素晴らしい情報網です」


やばいな、この人。ギルドが隠してる情報を知ってんですけど!?


「紹介するよ。この子はーーって、私も自己紹介しなかったね。私はマーガレット・ダエラーグ。そんでこの娘がカトレアさね」


紹介されたカトレアさんは左目に泣きぼくろ、髪はアップに纏め、大きなおっぱいを持った魅惑的な美人さんだった。


ノアで経験値を稼いでいなければ、そのおっぱいに目が釘付けになったことだろう。


「カトレアよ。よろしくね。商会長補佐をしているわ」


「冒険者のミヤビです。通り名ではなくこっちでお願いします」


「ええ、分かりました。ミヤビ様」


「"様"じゃなくても大丈夫ですよ?」


「いえいえ、ミヤビ様は大事な取引相手様ですからお気になさらずに」


まぁ、そこはお任せします。


席に着き自己紹介を終えた俺たち、キルリーフの種ついて交渉が始まった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る